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第6話
あれから、いろいろと診察を受けさせてもらい、結果的に言えばオメガになりかけているという現実を突き付けられた。いや、まさか……、なんて思いたかったけれど、それらを裏付ける証拠をデータとして提示されては逃げ道がない。
「今日は、ありがとうございました。高科さん、本当になんと言えばいいのか……」
「いいんだ、俺がしたくてしているから」
「なんていうか……、まだ実感はありません。僕は今までベータでした。だからいきなりオメガになりかけていると言われても、正直受け入れるのは難しいです。でも、現実ですから、早く慣れるように、します。お世話になりました」
頭を下げてお礼を言えば、高科さんはいつもと変わらない優し気な表情で僕の頬を撫でる。その行動の意味が分からなくて、曖昧に笑みを浮かべるしかできない。僕にとってヒーローの高科さん、いつだってそっと見るだけでよかった。それなのに、触れてもらえるなんて、これはどんな状況か。
「まだ状況を飲み込めない君に、こんなことを言うのはアレだけど……。俺と番にならないか?」
は? 今、この人は、なんと言った?
「つ、つがい……?」
「そう、いくらベータだった君でも、オメガとアルファの番システムは知っているよね?」
「は、はい……、それは」
俺はさっき聞いたばかりの内容を思い出していた。一応有名な話だし、それなりに知識はあるつもりだ。番、アルファとオメガの結婚よりも重い繋がり。それも、オメガはその番を破棄されれば一生、誰かと番うことはできなくなり、ヒートに苦しめられて死ぬ。
「俺は、君のことが好きだ。君は俺のことを知らないから、受け入れられないかもしれない。でも、俺は君を番にしたいと心から望んでいる」
これは、なんと都合の良い夢なのか。僕の憧れで、好きな人が、僕を番にしたいなんて。信じられない、嬉しい、だけど受け入れてはダメだと頭の冷静な部分が警鐘を鳴らす。
「僕は、たしかにあなたのことをよく知りません……。でもそれは、あなたも同じでしょう? どうして僕のことをそんなに……」
「君のことは、たしかによく知らない。けどそれは、これから知っていけばいいと思うんだ。俺も君も、お互いによく知らない間柄なら、一緒に知っていけばいい。そのうえで番になるかどうか決めてほしい。なにも、今すぐ番になるかどうかを決めろと言っているわけじゃないんだ」
どうかな、と聞いてくる高科さんの顔は優しい表情で。僕の選択を否定するような雰囲気もない。
ああ、僕は愚かだ。自分を必ず受け入れてくれると分かっている高科さんに甘えようとしている。僕には、寂しい、苦しい、誰かに愛してほしい、僕を受け入れてほしい、そんな醜い欲望があることを知っていた。その欲を埋めてくれるかもしれない高科さんという存在は、僕からすれば喉から手が出るほど欲しい人。好きな人だからなおのこと、愛されたいと願ってしまう。
「僕は、あなたが思っている以上に愚かで、醜い。それでも、いいですか?」
ほら、僕は逃げ道を作っている。
「もちろんだ。俺は、君のすべてが愛おしいのだから」
「まだ、番になるとかは決められませんが、よ、よろしくお願いいたします」
「ああ、まずは名前を呼んでもいいかな」
凛、そう言えば高科さんはとても大切なものを呼ぶように、僕の名前を呼んでくれた。それだけで心は震えるほどに喜んでいて。
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