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第7話

 そんな僕の心を知ってか知らずか、高科さんによって僕は自宅まで送られた。本当は一緒に住みたかったと言われたが、それは急すぎると僕が丁重にお断りした。 「それじゃあ、何かあったらすぐに連絡するようにね」 「はい、ありがとうございました。あの、運転手の方も、ありがとうございました」 ペコリと高科さん、運転手さんに頭を下げてアパートに入る。なんとなく、きっと高科さんは普通の秘書じゃないと思っていたけど、考えてはいけないような気がして考えるのはやめた。 「本当に、僕……」  今更ながらに、興奮してしまう。あの人が僕を呼ぶ声を思い出しては、気持ちが高揚する。この胸の高鳴りを止める方法を、僕は知らない。どうしたら落ち着くんだと考えても、脳内にはあの人の甘い声が残っている。 「ああ、僕はなんてことを……」 僕はあの人を、高科さんを縛ってしまった。本当は僕はあの人のことを遠くから見るだけでよかったのに。 (ううん、本当にそうなのかな?) (僕はあの人のことを遠くから見るだけでよかったの? もっと近くで、あわよくば恋人になって愛されたいと思っていたんじゃないの?) 心の中にいる表の僕と、裏の僕が言い争う。醜い争いだ、僕の中にこんな醜い感情や欲があるなんて。僕は、あの高潔な人を汚してしまうのではないか。本当に、あの人にこんなに甘えてよかったのかな。僕は、どうして一人で立てないんだろう。 「あ、(すぐる)。うん、僕は元気……。そっちは?」  鬱々とした気分と高揚を繰り返す僕のもとに、一本の電話があった。双子の弟の優だ。僕の唯一の兄弟で、僕と同じはずなのに、僕と違う。僕の欲しいものをすべて持っている、僕にとって愛すべき、そして憎い弟。愛しい兄弟なのに、憎い感情だってある。僕から両親を奪った、愛を奪った、そんな風に思ってしまう相手。 『凛、聞いて!! 俺、この間の模試で満点取ったんだ!! もう本当、さっき結果見てびっくりしちゃって……。早く聞いてほしくって……。その、迷惑……だったかな?』 「ううん、おめでとう。優は頑張り屋さんだから、結果がちゃんと出るってことは、うまくできている証拠だよ。これからも頑張ってね」 『うん!! やっぱり最初に凛に言ってよかった!! 俺、もっと頑張るよ!!』  それから少しだけ他愛無い話をして、電話を終える。悔しくて、悲しくて、憎い。凛、と僕を呼ぶ優の声は喜色一色だった。僕に対して自慢しているというのはわかっているけど、嫌みな意味での自慢じゃないことはわかっている。純粋に褒めてほしいからっていうのは、ちゃんと理解している。 「ごめん、優……。僕は……」   (僕は、君を愛していて、憎いと思っているよ) 優は優秀なのに、ちゃんと努力をする子だ。だからその分だけ結果を出している。アルファとしての性に甘えないで自分の力で頑張っている、尊敬できる弟だ。わかっている、弟がすごい人だっていうのはわかっているのに、僕の心はひねくれているから、それが受け入れられない。

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