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第8話
僕も、頑張っているつもりだった。僕なりに努力をしているつもりだった。だけど、それは僕だけの認識で、周囲からすればそうじゃなかったのを、僕は知っている。
「市原君、よかった。体調、ずいぶんよくなったのね」
「すみませんでした、ご迷惑をおかけして」
「迷惑なんて思ってないわよ。心配してたのよ、すごく酷い顔色だったから」
「すみません……。ありがとうございます……」
「ふふ、また頑張りましょうね」
「はい」
オメガになりかけていると言われてしばらくが経った。僕はその時に処方されたお薬を飲むことによって原因不明だった体調不良に悩まされることもなくなり、職場に普通に出勤していた。パートの女性に声をかけられて、心配されていたのかと驚いたのは言うまでもない。僕を心配してくれる人がいたんだと、ちょっと嬉しくも思った。
「凛」
「こんばんは、高科さん」
「雅人 って呼んでって言ったのに……。まあ、職場だから許すけど……」
「あ、はは……。さすがに職場ですから……」
「そうだ、凛。この本を頼みたいんだけどいいかな?」
「はい、お預かりいたします」
電話やメッセージのやり取りをしていた高科さんと、久しぶりに会った。本屋に来ていても、僕が裏にいたりして会えなかったこともあって、会うのは久しぶりだ。彼に渡される紙を持ってカウンターに入り、パソコンで店内とグループ店舗の在庫を調べる。複数冊あったが、すべて自店舗に在庫があったので、その旨を伝えた。
「よかった、ちょっと急いでいたんだ」
「すぐにお探しします」
パタパタとうるさくない小走りで置いてあるであろう場所に行き、一冊ずつ丁寧に取っていく。総冊数五冊、ハードカバーのものからお仕事で使うのかもしれないと思うような本まで、さまざまだ。
「お待たせいたしました。お間違いはないですか?」
「うん、ありがとう」
彼とレジへ戻って、精算し本にカバーをしてから渡す。彼は、どの本も必ずカバーをかけるから。
「また来るよ」
「はい、お待ちしております」
僕が職場にいる限りはお客様と店員だ。ゆるみそうになる言葉遣いに気を付けて、笑みを浮かべる。接客において笑顔は大切だと、前に教えられているから、人と接するときは笑みを絶やさないようにしている。
「市原君、ちょっとこっちいい?」
「はい、すぐに」
高科さんと別れた後、また店内で業務に就いたけど、すぐにバックヤードに呼ばれてそちらで仕事をすることになった。ちょうど担当している本棚を終えたところだったのでタイミングとしては良かった。
「今日は、会えた……」
嬉しい、僕はもうずいぶんと高科さんに囚われている。高科さんに会うだけでこんなにも胸がドキドキする。彼が名前を呼んでくれるだけで嬉しくなる。頼ってくれるって思うと満たされる。僕が必要とされているように思えるから。
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