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第9話
僕は臆病だ。何かを失敗すれば、両親をまたガッカリさせてしまうから。僕はそれが怖かった。頭角を現す弟と比べられたり、こんなのもできないのかと親戚からも言われて、僕を本当の意味で見てくれる人なんて、いなかった。みんなアルファの弟ばかりだった。気が付けば、僕は一人だった。
「はい、雅人さん。また……。おやすみなさい」
『うん、おやすみ。凛』
ぷつり、と切れる電話。それが終わると、一気に心は寂しさで溢れる。何が悪かったんだろう、僕は僕なりに努力を示してきたつもりだった。結果が出なくて苦しんでも、前を向いてやってきたつもりだった。僕も、本当は褒めてほしくて。僕に少しでいいから、弟に与える会いを分けてほしかった。本当を言えば、分け隔てのない愛がほしかった。でもそれは、無理だから。
(あーあ……。僕はどうして……)
僕だけが、異質。僕は世間で一般的な第二次性だったはずなのに、家族の中では僕だけが異質で。それを親戚も家族もわかっていたから、僕を存在しないもののように扱った。ちゃんといると認識はしているのに、見えない壁に阻まれているようなリアクション。そう、腫物扱いだ。
僕ができたころには、弟なんてずっと先のことができていた。僕は出来損ないだと陰でいわれていたのを知っている。その親戚の言葉を、両親は否定しなかったのも、僕は知っている。
「僕が、アルファに生まれていたのなら、同じように愛してもらえたのかな……」
ないものねだりだと理解している。どれだけ願っても、欲しいと思っても、それは手に入らない。決められたものが覆るのは本当にごく僅かなことだ。愛してほしかった、僕も弟と同じように扱ってほしかった。最初のポテンシャルに差が出るのは仕方がないことだと、わかっている。でも、それでも少しだけでいいから目をかけてほしかった。
愛をもらえなかった僕は、早く大人になるしかなかった。高校に入ってからはバイトをして自分の欲しい物は自分で買った。自分で生きていける術が、僕には必要だったから。
「ううん、卑屈になるな、僕」
(僕は、一人でも、生きていける)
「人間は、究極な話、一人で生きていけないことはないのだから」
人は社会的な生き物だけど、必ずしも誰かがいないといけないわけじゃない。誰かがいなくても生きていける人もいる。僕は、一人は好きじゃないけど……。好きじゃなくても一人で生きていかなくてはいけない。僕にとっての神様みたいな、ヒーローのような存在の高科さん。彼にはいずれ、彼に相応しいオメガが現れる。僕のようななり損ないじゃない、素敵なオメガが。僕みたいに中途半端なのは、必要ないんだ。僕は、社会の歯車としてまわって、壊れたらそれでおしまい。そうやって僕は生きていくんだ。
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