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第10話

「いらっしゃいませ、お預かりいたします」 「あ、これも」 「はい、お預かりいたします」 僕は、社会の歯車として今日も回り続ける。あれからタイミングが合わずに、高科さんとは職場でも会えずじまい。本当に電話とメッセージのやり取りくらいだった。それでも、必ず高科さんは僕に愛を囁いた。大好きだと、愛していると伝えてくれる。 「お疲れさまでした」 「お疲れ様です」  退勤後、ささっとアパートに帰りちょっとだけご飯を食べてベッドに入る。夜勤務が多い僕は退勤してアパートに帰ると深夜に近い時間帯だ。だからそんなときは朝にお風呂に入ることにしている。汗をかいたときは汗拭きシートで我慢している。やっぱり、近所の人に音が伝わるのが嫌だから。 「あ、メッセージだ……」 まだ、なんとなく眠れないなと思ってスマホをつついていると、メッセージに気が付いた。高科さんだ。 『今度の休み、一緒に出掛けないか?』 「お、お出かけ……!?」 パッとメッセージを見て驚いた。お出かけなんて、まるでデートじゃないか。 「い、いきたい……」 遅い時間だったけれど、早く返さなきゃと思い、行きたい気持ちを送る。僕は次のシフトをそろそろ決めるころだから、決める日までに休みを申請しておけばいい。 『それじゃあ、この日はどうだ?』 「平日……、もしかして……」 指定された曜日は平日で、僕の仕事上、休日にお休みが取りづらいことを考えてくれたのかななんて思う。  そのままやり取りを繰り返し、平日ではあるものの行き先も決まり、初めての一緒のお出かけに胸が高鳴る。どんな格好をしようとか、髪型はどうしようとか、いつも通りで可笑しくないかなとか、たくさん考える。 「き、緊張するなぁ……。一か月以上先とかじゃないから……」 二週間ほど先ではあるが、僕からすれば明日みたいなものだ。今から男性誌とかチェックしたほうがいいかもしれない。僕は優ほどおしゃれじゃないから、ちょっとテンパ気味の少しだけ茶色っぽい地毛くらいしか目立つ要素がない。優に聞いたほうがいいかもしれない。優はおしゃれだから僕と同じ顔なのにとてもカッコいい。 「あ、でも……。優は忙しいよね……」 聞こうと思って、やめた。優はストレートで医学部に入学し、今も勉強に忙しい。この年からいろいろな模試に参加していると聞くし、邪魔をしてしまうかもしれない。両親にも優の足を引っ張るなと言われているし、やっぱり自分で何とかしよう。 「ああっ!! 早く寝ないと!!」  二週間後どうしようとか、考えてしまう頭を切り替えて眠ることに専念しないと、明日もしんどい。明日だって当たり前ながら出勤なのだから。

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