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第13話
「ぜひ、時計を贈らせてほしいんだ」
「ぼ、僕なんかで、いいんですか?」
「凛、君だから俺は選んだんだよ」
「……はい」
慣れたようにアクセサリーショップで時計を選ぶ雅人さん。選ばれたのは当たり前のようにブランド品。値段がないからいくらかさえもわからない。そこで候補が絞られて、同性の番やパートナー同士にもお勧めできるというお揃いのデザインのものが三つ残った。
「凛はどれがいいとか、ある?」
「ぼ、く……ですか?」
「うん、凛が使うものでもあるんだ。君の意見が聞きたい」
三つの中で、一つだけ惚れたデザインがあった。それはシンプルでいて作りこまれた精巧なもの。全く同じ時計盤だけど、チェーンが異なっていて、僕はその細いチェーンのものに惚れていた。
「あの、その……、このデザインが……、すき、です」
「いいデザインだね。俺も気に入ったよ、これにしよう」
結局、時計までカード一括で支払われて金額がわからない。恐ろしい金銭感覚だと、ちょっとだけ思ってしまった。お金の面で非常に今日は甘えてしまったと、自己嫌悪もしてしまう。僕だって働いているのに、力になれやしない。無力だと、感じた。
「凛、これからの話をしたいんだ。俺の家に来てくれないか?」
「ちょうど、僕もお話したいと思っていました。お邪魔してもよろしければ、お邪魔します」
「じゃあ、行こうか」
「はい」
僕は、やっぱり雅人さんにはふさわしくない。僕のような中途半端で、何もかもが出来損ないは雅人さんの隣に立つには分不相応だ。今日、僕はそれを強く思った。
施設を出てまた車で移動する。車内は雅人さんが話しかけてくれたおかげで、気まずいと感じることはなく、また、会話が途切れることもなかった。そして高速道路を経て数十分。閑静な高級住宅街に建つ高層マンションへと案内された。
今までコンシェルジュがいるマンションなんて入ったこともなかったし、この建物がある住宅街に近寄ったことさえもなかったから、あまり物珍しそうに見るのはよくないと思い、努めて平静を装う。
「さて、いらっしゃい、凛」
「お邪魔します、雅人さん」
僕の住んでいるアパートの部屋なんて比べる対象にするのも失礼なほどに、広い玄関に部屋。あまりの高級さに倒れそうになった。ほら、雅人さんと僕の道は交わることはないんだよ。そう言われているように感じてしまう。
「これからのことを話したいと思っていたんだ、ゆっくりね」
「はい……」
「まず、改めて自己紹介をする。俺は高科雅人、高科グループって、知ってる?」
「は、はい、広い分野で最先端を切り開いていると……」
「そう、その高科グループを総合した場所で社長をしているんだ。代表取締役、って言ったほうがいいかもしれないね。俺は高科のグループ企業すべてを統括する立ち位置にいる」
自己紹介でもらった情報が大きすぎる。僕なんて、相応しい相応しくない次元の話じゃない。隣にも立てない、同じ土俵ですらないじゃないか。
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