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第14話
家族構成まで一通り説明してくれた雅人さんに、僕のことを教えてほしいと言われる。僕は恥ずかしかった。僕の家族はみんなすごいけど、僕だけが違うから。
「ぼ、僕は市原凛です。早坂書店で大学一年からアルバイトをして社員として登用してもらったので、書店員として働いています。高校の時は飲食店でアルバイトをしていました」
ゆっくりと話をしても、ちゃんと聞いてくれる雅人さん。その気遣いが今は辛かった。
「家族は僕以外、全員アルファです」
「ありがとう。君はアルファの一家から生まれたんだね、俺は両親が番だから大変さはわからないけれど、プレッシャーを感じたんじゃないか?」
「……、その通りです。僕は何をしても、弟には勝てませんでした。弟は努力をきちんとするので、僕みたいに中途半端にしないんです。当然ですよね、僕なんか中途半端にしか努力できないんだから、弟に勝てなくて……って、すみません!! 愚痴になっちゃいました」
「君の心の中を少し見せてもらえたようで、俺は嬉しいよ」
本当に嬉しそうに笑う雅人さんに、言いだせない。僕はあなたと番にはなれないと。言い出さないと駄目なのに。
「僕は……、あなたとは番になれません」
ああ、言ってしまった。もう戻ることは叶わない。僕の幸せな時間は、終わってしまう。
「なぜか、聞いても?」
「僕は、なり損ない。誰からも必要とされていなかった僕を、あなただけは見てくれた。僕にとってそれだけで十分なんです。僕のような、なんの価値も魅力もないただの人を選ぶよりもあなたには、あなたに相応しい人を選んでほしい」
「凛、君は……」
「高科さんにたくさん今日は買っていただきました。そちらもすべてお金はお返しします。僕とは、もう関わらないほうがいいです。また店員とお客様という関係性に、もどり、ましょう」
最後のほうなんて、雅人さんの顔を見ることはできなかった。僕に対して少なからず好意を持っていてくれている。そんな彼を傷つけてしまうことはわかりきっていたから。
「凛、言いたいことはそれだけ?」
「え?」
向かい合ってソファに座っていたはずなのに、僕が下を向いて喋っているうちに雅人さんは移動していたらしい。僕の真上から言葉が降ってきた。状況が飲み込めなくて、パッと顔を上げた瞬間だった。
「え、あ、え?」
「凛、俺は凛がいないと生きていけない。俺にとっての運命は凛だ。運命に出会ったアルファは運命と結ばれない限り満たされることはない」
ぎゅっと身体が大きな雅人さんの身体に包まれて、抱きしめられる。あまりの突然さに動けないし、言葉もまともに紡げない。
「俺はね、凛と出会った瞬間から、凛をこの腕に抱けないなら一生満たされないんだよ」
「そ、んな……、言い方、ずる、い……」
「ずるくていいよ。俺には凛しかいないんだ、凛だけが俺を満たす存在……。凛がいない世界に興味も何もないくらいにはね」
「もっと、僕なんかよりも!! 素敵な人はいます!!」
流れ落ちそうになる涙をこらえて叫ぶ。僕みたいなのを選んでほしくない、でも僕を選んでほしい、そんな矛盾した感情が心を支配する。
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