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第15話
「凛、君の本心を聞かせてほしいんだ。本当のことを言っても、誰も君を責めたりなんてしないよ」
「だっ、て……」
僕は、臆病で、わがままだ。雅人さんの優しさに付け込もうとしている。寄生虫のような自分が憎い。
「凛は、自分が嫌いなのか?」
ハッとさせられた。そんな核心を突くような言葉が、雅人さんから出るとは思わなかったから。
「僕は、おっしゃる通り……。自分が嫌いです。それに……。僕が僕じゃない感覚があって、僕には何もない。僕は空っぽな人間なんです。僕の心は、いつだって求めているものがありました。でもそれは、僕には一生頑張っても得られないものなんです」
ないものねだり、もう何度諦めたいと思ったことか。両親からの愛がほしいと願って、もらえないことに打ちのめされて。それを僕は何度繰り返せばいいのだろうか。諦めがつかない、だって僕は、家族愛が欲しいから。それは、いけないことなのだろうか?
「いや、間違っていたな。凛、君が欲しいものを俺は渡せる。いや、凛がいらないって言ったって俺は君に愛を捧ぐよ」
「どう、して……」
「なんでわかったか? わかるよ、凛。アルファのご両親に受け入れてもらえなかったんだね、悲しい、つらい、愛してほしい、君の心にあふれる感情が手に取るようにわかる」
それはね、運命だから、と囁く雅人さんからすごくいい香りがする。僕をさらに強く抱きしめた雅人さんは、僕にさらに追い打ちをかける。それを言い訳にしちゃだめだと分かっているのに、逃げ道を塞がれていくような感覚だ。
「凛、君はどうしてそこまで自分を貶める? 愛は等しく誰にでも与えられるものだ。もちろんそれを拒否するのも自由だけどね……。凛が愛してほしいと願うのも普通の事なんだよ」
「僕は……」
ゆるされなかった、その言葉は空気に溶けていった。僕の、声にならなかった言葉を、雅人さんは感じ取ったらしい。
「凛、君はもうゆるされているよ。よく頑張ったね」
その日、僕は恥も何もかもを捨てて、大好きな人の腕の中でわんわん泣いた。悔しい気持ち、愛してほしかった悲しい気持ち、自分のダメな部分ばかりが目に入って仕方がない、辛さ。僕は、初めてその気持ちを誰かに聞いてもらった。
「優……、弟は本当に頑張っていて……。僕は足元にも及ばなかった。でも僕は言えなかったんです。アルファだから優秀なんだ、なんて。だって、弟の努力を目の前で見てきていたから」
「凛はすごいね。他者の頑張りをきちんと受けとめられる。なかなか難しいことだよ」
「いいえ、僕は自分の努力の足りなさから、うらやましいと思うことで目を逸らしていただけです。僕は、そういう意味でも……醜い……」
僕は悪くないと反抗してみたことがあった。弟ができすぎるのが悪いのだと、そう両親に反抗して平手打ちをされたのをよく覚えている。それで気づいたんだ、僕はこの家で本当に必要のない人間なのだと。
「君は君なりに頑張っているよ。たしかに君の弟はできすぎるんだろうね、でもだからと言って君が努力していないことにはならない」
そう言われて、救われた気がした。誰も彼もがいうのだ、優はできるのに僕はできないと。そしてみんな同じことを言う。これだから落ちこぼれは、と。僕はベータの中では優秀な成績を収めているはずだと自分で鼓舞しなければ、心が耐えられなかった。
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