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第16話

「僕は、臆病で醜い。あなたの隣に立つには分不相応であるということもわかっています」 でも、この暖かさを知ってしまった。今だって、愛憎入り混じったものを抱えているけれど、この人だけは僕を見てくれているというのなら。僕はそれに応えたい。 「ありがとう、凛。これからは二人で歩いていこう」 「はい、雅人さん」  僕は、自分を初めて好きになれたような気がして。愛も憎しみも、持っていていいんだと肯定されたのは初めてだったから。今までは本当にそんな気持ちでさえも持つのは許されていなかった。 「凛がそばにいてくれるだなんて、もう夢みたいだよ」 「夢じゃ、ないです……。僕のほうが、雅人さんとこうしていられるのを信じられていない……」 「ははは、お互い様だね」 「はい」 寄り添ってソファに座る、それだけで幸福でとても満たされた気持ちになる。苦しい、僕も見てほしい、そんな気持ちがまるで浄化されていくようで。 「凛……」 そっと頬を包まれて、軽いキスが与えられる。啄むようなそれがくすぐったくて身をよじれば、彼は優しい表情で笑った。  僕の幸せを望む、と真正面から愛を囁いてくれる雅人さん。彼がいるおかげで僕は非常に満たされている。そのおかげで仕事も絶好調だ。優から電話があっても心が乱されることはないし、落ち着いて心の底から話を喜んで聞いてあげられる。 『凛、いつでも一緒に住める用意をしておくよ』 「あ、ありがとう、ございます……」 足りなかったものを埋めていくように毎日電話のやり取りやメッセージのやり取りをしたり、お休みの日には一緒に出掛けたりなど、恋人として濃密な時間を過ごした。月単位で時間はあっという間に過ぎていき、同棲しようという話は何度も出る。もちろん、彼の部屋に泊まることもあったし、身体の関係を少しずつ持ち始めたのは言うまでもない。  いつものように雅人さんとの電話を終えると同時に、珍しい人からのメッセージがやってきた。それは父だった。なぜかとても不安に思い、そのメッセージを開くのが怖かった。 「あ……」 やけに優しい文章で作られた言葉の裏に何かある、そう思わずにはいられない恐ろしい予感が自身を襲う。僕はまだ、両親にオメガになったとは言っていない。でも身体は順調にオメガ化が進んで、数週間前に完全にオメガとなった。そのことを僕は告げていないし、これから先も告げるつもりはなかった。 「まあ、帰るくらいなら……」  職場にはさすがに第二次性が変わったことは伝えているし、雅人さんに渡されている首輪も使っているからオメガとしてすでに知られている。わざと首輪をせずに実家へ帰ることも致し方ないか、と悩んでしまうくらいには、両親にも優にも知られたくない。 「ま、雅人さんにも迷惑をかけたくはないし……」 これ以上厄介な面倒ごとを持っていきたくなくて、雅人さんには伝えるのを辞めた。

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