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第17話

「おかえり、凛」 「久しぶりね、凛」 ひどく違和感を覚える笑顔で両親に出迎えられた僕は、突然ブティックへと放り込まれてそのまま着飾らされた。そして綺麗な姿に磨き上げられて連れて行かれた先は、高級老舗料亭。僕の給料じゃ一生かかっても入れないような場所だ。 「僕を、騙したの」 「悪く思わないでちょうだい? あなたなんかでも役に立てるんだし」 「そうだぞ、凛。お前も嬉しいだろう? ベータのお前でもいいと仰ってくださっている。しっかり役に立ちなさい」  両親は、歪んだ笑みを浮かべて僕を個室へ押し込む。両親の経営している病院に融資をしてくれるのだと嬉しそうに語る姿に、吐きそうになった。その融資は、僕と引き換えだということは、言われなくてもわかる。 「ああ、あなたたちはそういう人だったね」 信じた僕が、馬鹿だったよ、その言葉は声にならなずに消えた。これでオメガだと知られていたら、きっと僕は雅人さんと引き離されて好きでもない、勝手に決められたアルファと番わされるだろう。現にそうだ。 「勝手なことをしてくれる」  僕の身体は突如として、横へ引っ張られた。これには僕だけでなくすでに部屋にいたアルファと思しき男、僕の両親も驚いていた。低い威嚇するような声、項がゾクゾクとするほどの強いフェロモンを身近に感じる。 「えっ……?」 「ああ、凛。よかった……」 雅人さんだ、と認識したとたんにストンと力が抜けてしまい、それを抱きとめてくれる雅人さん。だけど、僕はなぜ彼がここにいるのかを理解できない。彼には何も言っていなかったし、このことが決まったのだって急だった。 「さて、我が番をこうまでされて……。どうしようか……」 「雅人様」 「ああ、悪い」  ぎゅうっと力強く僕を抱きしめる雅人さんの側に、もう一人男性が現れた。眼鏡をかけた知的な印象を与えるその人は、雅人さんのことを呼ぶと、何かを見せた。それを見た雅人さんは、その男性に何かの指示を出すと、僕をその場から連れ出した。 「凛、ちょっと車で待っててね」 「まさと、さっ」 「大丈夫だよ」 車に乗せられて、僕は一人になった。雅人さんの所有している車なんだろうけど、僕が乗ったことがない車だ。高級車であることはわかるけれど、僕には値段さえもわからない。どうしても不安で仕方がなかった時だった。 「お待たせ、凛」 「雅人さん!!」 雅人さんが帰ってきて、いつもの優しい顔で僕の隣に座った。 「さぁ、帰ろうか。出してくれ」 「かしこまりました」 先ほどの、眼鏡の男性は運転席に座り、運転を始めた。やっぱり、彼は僕が会ったことのある運転手さんではない。車が発進してから、僕も雅人さんも話すことはなく、痛いほどの沈黙が僕たちの空間を支配していた。初めて、雅人さんといる空間で気まずいと思った。

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