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第19話 完結
それからは優しい声音ではあるものの、だいぶ注意をされた。危機管理についてどこが良くなかったのかをまず提示され、そこから気を付けてほしいことなどをしっかりと教え込まれた。
「凛、俺を新しい家族として選んでくれる?」
「はい、雅人さん」
僕の、新しい家族。僕を見てくれなかった両親とは違って、僕を見てくれる雅人さん。優しくて、時に厳しいこともあるけど、僕を一番に愛してくれる。僕が欲しいものをくれる。
「凛、愛してる」
「僕も、雅人さんを愛しています」
「家族の形なんて決まりはないんだ。血のつながりだけがすべてじゃないし、恋愛だって結婚だって誰としようが自由だ。家族に決まった形がないのだからね」
「はい、雅人さん」
血のつながりと温かな家族の愛に飢えていた僕を、優しく諭すように言葉をかけてくれる雅人さん。僕も家族に決まった形はないと思っていたけど、僕は血のつながりを求めてしまった。家族は血のつながりで愛情が決まると思い込んでいた。
「僕は、血のつながりで、何が遺伝するかで、すべてが決まると思っていました。でもそうじゃないんですね。僕は、囚われてしまった……。愛情という渦に」
そして、その愛情は憎しみへと変わった。優だけがいい思いをしている、優だけ優先される。僕は何にもしてもらえないのに。そんな憎しみから、愛情をもらえないことに対する新たな憎しみが生まれた。
「本当は、憎しみが何も生まないことはわかっているんです」
でも、憎しみを持つことでしか、僕は自分を許してあげられなかった。愛がほしい、だけど許せない。僕だけを取り残した両親も、同じ血を持つのに、僕より愛される優も。
「それが分かっているのなら、あとはもう大丈夫だよ」
「はい、雅人さん」
もう僕は迷わない。優のことも、完全に乗り越えたとは言えないかもしれないけど。それでも僕は迷ったりしない。愛がほしいと嘆く、小さな子どもではないのだから。
「優のことも、僕は愛してるんです。本当に、無理をしているわけではなくて。優は僕よりなんでもできて、ずるいと思ったこともあります。それで優を傷つけてしまったこともあります。でも優は笑って許してくれた。優のほうがずっと大人だったんです」
僕は優を理不尽に責め立てたことだってある。それでも優は僕を優しく許してくれた。だから気づいた。ああ、僕は子どもだったのだと。兄弟に喧嘩はつきものだからと、許してくれた優。だから僕は弟である優を完全に憎むことはできなかった。
「それに気づいた凛だって、えらいよ。自分が子どもだと気づくのには勇気がいる。なかなか認められない人だって、当たり前だけどいる。自分では気づけない人も。だけど、凛は自分できちんと受け入れた。それは本当にすごいことだよ」
僕を肯定してくれる雅人さん。それだけでいい、僕を包んでくれるように抱きしめてくれる雅人さんに、僕も腕をその背中に回した。
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