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番外編 1-1
僕と両親の間に亀裂が生まれたあの日から、僕は雅人さんと正式に同棲することになった。引っ越しも落ち着いた後は、雅人さんの力を借りて両親ともう二度とかかわらないように、事実上の縁切りという形で話が落ち着き、今は平穏に過ごしている。
「それじゃあ、行ってくる」
「はい、いってらっしゃい」
優は、何もしていないし、これから先も優といたいと思って優はその縁切りの中には含まれていない。僕と優は書類上は兄弟ではなくなったけど、今でも連絡を取り合っている。
「あ、優?」
『今、大丈夫?』
「うん、大丈夫だよ」
『あのね……、俺……好きな人ができたんだ。でも、その人は俺と同じ男で……。そのオメガの男なんて、って自分のことを嫌っているんだ』
仕事は無理して辞めなくていい、と言ってくれた雅人さん。お言葉に甘えて今も仕事を続けている。今日はお休みの日だ。そんなゆっくりできる日に、優から電話が来た。相変わらず、いいタイミングだ。
「嫌っているの? オメガだからって理由で?」
『うん……、いろいろあったんだと思うんだけど……、なかなか言ってもらえなくて。デリケートな問題だってわかってるから、その……、無理やりには聞けないし……』
「そうだね、無理やりに聞くものじゃないからね。ねぇ、優。その子とは仲がいいんだよね?」
『え、うん。大学の学部は違うけど友達。いつの間にかさ、俺、好きになってて……』
「うんうん、好きになるのに時間は関係ないし、理由だっていろいろだし。わかるよ、優の気持ち」
優から聞く、優の思い人は、まるで僕のような人だと思った。でも、これは僕が出る幕じゃない。だから、優に僕の気持ちを伝えることにした。
「優、僕はねベータからオメガになった時、絶望したよ。だからその子のこれまでに受けてきた理不尽な扱いなんかをすべて、理解ができるとは言わない。だけど、その子の葛藤はよくわかるよ」
『凛も、オメガは嫌だった?』
「もちろん。だって、僕は中途半端だ。だから雅人さんの運命にもなれない」
僕は雅人さんの運命にはなれない、だって中途半端なオメガだから。それならベータのほうが、と考えたことだってある。だけど結局、好きな人と本当の意味で結ばれるのはオメガだと気づいて、オメガになれて幸せだという結論に至ったんだ。
『俺は、凛の苦しみに気づいてあげられなかった。凛とは双子だからなんでも分かり合えると思っていたけど、それは間違いなんだってあの日気づいたんだ。ちゃんと言葉にしないと伝わらないって』
「言葉はね、武器だけど道具でもあるんだ。だから、優が諦めずにその子の側に寄り添っていたら、いつかは関係性が変わるかもしれないね」
『そう、だよね。俺、すぐに結果を求めていたから、気づかなかったよ。ありがとう、凛』
「どういたしまして、優」
『それじゃあ、またね』
「うん」
優はやっぱり大人だな、なんて思いながら電話を切り、家事をするためにソファから立ち上がる。思いのほか話し込んでいたらしく、もうお昼の支度をする時間となっていた。
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