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第11話

香名と会った日から何日か過ぎた。 早いもので、明日から冬休みだ。 灯唯は何度か香名と連絡を取り合ったが問題はないとのことだった。 下校直前にスマホを触る彼を見て環慈が声を掛ける。 「トモ、香名さん元気?」 「うん、大丈夫みたい」 「そっか。良かったな」 安心したようにお馴染みの苺ミルクを美味そうに飲み干す。 「…にしても、あん時のトモ格好良かったよな」 思い出して、環慈はククッと笑った。 「香名さん抱き締めちゃうんだもんよ」 「バカ、やめろよっ」 「いやいや褒めてんじゃん?男前だって」 「笑ってんじゃねぇかよ!」 頭に手刀を軽く入れてやる。 イタッと声を上げ環慈は複雑な顔で笑った。 「…でもさぁ、俺ちょっと嫉妬しちゃったぜぇ?」 「はぁ?俺に?…香名さん抱き締めたかったんか?」 「違う違う。抱き締められてる香名さんに、嫉妬」 「………え…?」 ドキリ、と心臓が跳ねる。 「誤解すんなよ!変な顔してっ」 直ぐさま環慈は否定したが、一瞬でも勘違いさせる発言に灯唯は思わず息を呑む。 「さっさと帰るぞっ」 灯唯を引かせたと思ったのか、環慈は顔を真っ赤にして怒ったように歩き出す。 自分が足を止めさせたのに勝手な奴だな、と灯唯の肩から力が抜けた。 まぁそんな様さえも愛しく思ってしまう彼も彼だが。 校舎を出ても環慈の歩調は早い。 「環慈待てよ〜」 「……」 「仕方ねぇよ、お前俺のこと大好きだもんな」 「…好きじゃねぇわっ」 「お前が言ったんだろー」 「言ってねぇし!」 さらに歩調が早くなる。 さすがに茶化し過ぎたかと思い、小走りで追い付いて謝った。 「ごめんって。怒んなよ」 「………」 「…環慈?」 覗き込んで見た顔は拗ねているというより泣きそうな表情で。 戸惑ったその一瞬、予想外の問いが投げられる。 「……トモさ、マジで男に惚れられたらどうする?」 「え…?」 「俺…俺は、どうしていいのか分かんねぇ…」 「環慈……お前、男に告られでもしたんか?」 「………」 環慈は苦しそうに唇を噛んだ。 しかし否定は無い。 基本的には誰にでも優しく人懐こい彼だから、男だからといって断るにも方法を悩んでいるんだろうか? ───それにしても、 (他の男に先を越されるとは…) 血の気が一気に下がった灯唯だ。 頭がクラクラする。 結局二人はそのまま別れ際まで無言で歩き続けた。 「環慈…どうすんのかな…」 一人ベランダで煙草をふかしつつ灯唯は頭を抱える。 「やべぇ、泣きそう…」 帰宅してからも悶々と考え続けて、やっぱり落ち込んだ。 環慈自身もどうしていいのか分かないと言っていたが、それを聞いた灯唯はもっとどうしていいのか分からない。 「はぁ…」 休みの間もバイト以外の予定は入れておらず、このまま連絡が無かったら寂しい休みになることに気が付いて、更に溜め息が溢れる。 今、無性に環慈に会いたいと思った。 「くそ……好きだよぉ…」 情けない声は、白い息と共に透き通った空気に溶けていった。

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