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第14話

「起きろーっ!」 突然部屋に大声が響く。 「……環慈…テメェ…」 灯唯が枕元にある時計に寝ぼけた目を向けると、11時になる少し前だった。 「…もぉちょい寝かせろよぉ…」 「イヤだっ」 「俺が嫌だよ…」 しかし強引に布団を剥がされ、急かされるまま身体を起こす。 低血圧にはひどい仕打ちだが、それでも素知らぬ顔で話し掛けてくる。 「今日おばさん達は?」 「朝早くに2人で旅行行った…」 「仲いいなーホントに。いつ帰ってくんの?」 「明日の夜」 ふーん…と気のない返事をしつつ、環慈は勝手にクローゼットを開けてまた灯唯の服をコーディネートし始めた。 「何だよ、どっか行くのか?」 「うんにゃ」 「だったらもぉ少しこのままダラダラさせろよ〜」 「いいからいいから」 「ったく…」 とりあえず何を言っても無駄なようなので顔を洗いに洗面所に向かう。 サッパリして戻ってくると、環慈はすでにベッドに寝転がり漫画を読んでいた。 「お前はここの家主か」 軽く踏んづけると、大袈裟な反応をして灯唯を見上げる。 「俺にも香名さんと同じくらい優しくしろよぉ!」 「アホか、一緒にすんな」 「ひでぇ!」 思いっきり膨れて不満を露わにする彼につい灯唯の口元も緩む。 「しょーがねえ奴だな」 その頭をポンポン撫でて顔を見られないように着替えを始めた。 「トモ、朝メシは?」 「んー…昼と一緒でいいや。どっか行こうぜ」 「…それはお前次第だな…」 「何だよソレ」 真剣な声で言われたセリフを冗談だと思い笑いながら振り返ると、思いつめたような表情に動きが止まる。 「環慈…どうした?」 「話、聞いてほしくて…」 「あ、あぁ…そうだよな、そうだったな」 気になって気になって仕方なかったのに、顔を合わすとこんなものだ。 灯唯がベッドに座ると環慈も身体を起こして隣に腰掛ける。 真剣な顔とギシ…と軋んだベッドに、一気に言いようもない緊張が押し寄せてきた。 それでもなるべく重くならないよう、しかし落ち着いたトーンで問いかける。 「何かあったのか?お前最近ちょっと変だぞ」 先ほどと打って変わって静かに環慈は話し出した。 「……前に、男に惚れられたらどーするって聞いたよな…?」 「うん」 「トモだったらどう思う?」 「……お前誰かに告られたのか?」 聞きたくない気持ちが大きいくせに、好奇心にも似た焦りが灯唯の口を勝手に動かした。 しかし環慈はふるふると頭を振る。 「違う。…でも、トモだったらどーするか教えてほしくて…」 違うという言葉に安心はするものの、だとしたら何故そんな事を聞くのか環慈の意図する所が分からない。 しばらく黙って考えてみたが、結局出た答えはありきたりなものだった。 「そうだな…俺だったらとりあえずはちゃんと考えてみるかな…。告る側としては多分悩んで悩んでその上で告ってくると思うんだよね。だからまずは考えて、それから返事する」 「そっか…」 環慈は一瞬顔を上げた。 しかしまたそれはすぐに堅い表情となって俯いてしまう。 「…トモは優しいな…」 「そんなこと…」 「でもさ、」 急に環慈の声のトーンが上がる。 「それが…その、…友達だったら、どうする…?」 ズキン。 心臓が嫌な音を立て腹の奥からヒヤリとした感覚が広がる。 「……なぁ、何が言いたいんだよ?」 動揺して苛立った声が出る。 (もしかして…俺の気持ち、バレてた…?) 環慈が気付くことはないだろうと思っていたが、どこかでヘマをしていたのだろうか。 「さっきからお前の話、要領得ねぇよ…」 (怖い…怖い…怖い…) 身体中で心臓の音が響いてる。 喉がカラカラだ。 「トモ…」 「ハッキリ言えよ」 (言うな、何も……言うなよ…ッ) 「俺、…俺……」 「……」 (怖い…!!) 「トモのこと、…好きみたいなんだ…」 消えそうなほど小さな声。 一瞬、頭が真っ白になった。 「………え…?」 「………」 環慈が真っ赤な顔で泣きそうになっている。 「環、慈…?」 「………ごめん…」 震えた声。 「なんで…謝るんだよ…」 灯唯の声も、震えていた。

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