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第15話

言ってしまったことに後悔しているのか、環慈は白くなるほど手を握りしめている。 「俺…俺……自分でも、なんでこんな…」 無理矢理覗き込んだ切れ長の瞳にはギリギリまで涙が溜まっている。 「変だよな、こんな…好きとか…」 「そんなこと…」 「ごめん…困らせた…。俺お前に、嫌な思い…ッ」 震える身体。 思いきり背けられる顔。 灯唯と同じような体型のはずなのに環慈の身体はいつもよりずっと小さく見えた。 居ても立っても居られず、衝動のままに灯唯は環慈を引き寄せる。 「…ッ…!?」 「嫌じゃない…」 「でも…っ、でも……それはお前が優しいから…っ」 「違う!そんなんじゃない…ッ」 「……トモ…?」 腕の中のぬくもりに感情が溢れ出して止まらない。 灯唯は絞り出すように声を出した。 「俺も、環慈が好きなんだよ…」 弾かれたように環慈が顔を上げる。 その頬はすでに濡れていた。 「…嘘だ…」 「嘘じゃない、俺も環慈のことが好きだ」 「…っ、」 もう一度強く言うと、これ以上ないくらい大きく開いた瞳。 それは次の瞬間にさらに大きな涙粒を零した。 「~~ッ、ホントかよぉっ!?」 ぎゅうっと服を握り締めてボロボロ泣き出した。 「ホントだよ」 「でも…いつから?……もしかして同情?だったら…」 「同情なんかじゃないよ。…もうずっと前から…」 環慈の顔は一体どこまで歪むのだろうか。 くしゃくしゃになった顔を真っ赤に染めて叫ぶ。 「言えよバカぁぁ~!」 「言えって、…お前が俺に対して何とも思ってない時からなんだから。普通に友達としていたかったし」 「でも言えよぉ~」 「無茶苦茶だお前…」 それからしばらく環慈の涙は止まらなかった。 なんとかあやしながら落ち着くまで待つ。 数分後、ベッドをティッシュまみれにして彼はようやく顔を上げた。 「ひでぇツラ」 「笑うなよっ」 落ち着いた空気を感じて、灯唯は一番気になることを尋ねる。 「なぁ、何で俺のこと好きだと思ったの?」 「…恥ずかしいこと聞くなよ…」 「だってずっと彼女が途切れなかったのに急にそんなこと言い出してさ、なんかあったのかなって思うじゃん。気になる」 「う~~…」 目を泳がせてなかなか口を割らないので、 「環慈…」 わざと甘えるように囁くとますます顔が赤くなる。 「~ッ、なんかトモ、顔がやらしい!!」 「そうしてんだもんよ」 悔しそうに唇を噛み締め、環慈は半ばヤケクソ気味に話出した。 「いつからかとかはハッキリしてないけど…ッ、お前と香名さんが仲良くなったの知ってから、何となくだよ!」 「…すげぇ曖昧だな…」 「だってお前基本女とかどーでも良さそうだったのに、香名さんに対してはめっちゃ楽しそうだったんだもん。正直…いとこのねーちゃんみたいだとか言ってんのも嘘臭く思ってたし…」 環慈に変な疑いかけられたくなかった灯唯の気遣いは裏目に出ていたようだ。 「そんな時に元カノの問題が起こって、お前に相談したじゃん?」 「うん」 「そんで…その、……女だったらトモの彼女に、とか…言ったやん?」 「…うん…」 「アレ結構マジで…。でもマジな意味が自分でも分かんなくて、ずっと考えてた。そしたら香名さんがあんなことになって……トモが香名さん抱き締めた時に自覚した。お茶煎れに行ったのも、二人を見てらんなかったから…」 「……」 「もうそれからは考えれば考えるほど止まらなくなった。俺は女が好きだけど、トモは女よりも…大事…」 「環慈…」 今まで隙間が空いてた心の中が全部埋ったように感じた。 灯唯の諦めて想像すらできなかった事実が怒涛のように押し寄せてくる。 「…やばい…」 「トモ?」 「嬉しくて泣きそう…」 「は?」 驚いた声に顔。 普段だったら絶対に言わない言葉に環慈が驚くのは無理もなかった。 それだけ灯唯は環慈の前では弱みを見せず格好付けて過ごしていたのだ。 真ん丸に開いた瞳がマジマジと灯唯を見る。 「なんか…トモ、可愛いな」 「うるせぇ…お前どんだけ俺に好かれてるか知らんだろ」 さらりと零れた本心。 環慈は恐る恐る手を伸ばしてきた。 「トモ…触って、いい?」 「なんで…」 「分かってるよ、お前がどんだけ好いてくれてるか…。だから触りたい…」 「…俺も、触りたいよ…」 「じゃあ一緒に触ろ…?」 互いの頬を両手で包み込むように触れる。 何を言うでもなく自然にそうなった。 「……、…」 ほんの少し、啄むように唇が触れ合った。 今まで望み続けた環慈との初めてのキス。 「…は…、すっっげドキドキする…」 「俺も…」 環慈の素直な感想につられて頷く。 そして目を合わせて笑った。 「環慈、もう一回…」 「ん…」 今度はもう少し深く、重なり合った。

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