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第17話
気が急いてか、灯唯は香名の返答を待たずに話し始める。
「もしもし?ごめん、今大丈ぶ…」
『…助、けて…』
「え?」
酷く弱々しい声が耳に届き、反射的に灯唯は聞き返していた。
電話越しの掠れも手伝ってか、それは本当に消えそうなほどの小さな声で。
『トモく…、…助けて…』
「香名さん?どうしたの!?」
灯唯の慌てた様子に環慈も起き上がり顔を向ける。
『…刺さ、れ、た…』
「…ぇ…」
途切れ途切れの声に、頭の中に血に濡れて倒れる香名が思い浮かぶ。
振り切るように灯唯は叫んだ。
「香名さん待ってて、すぐに行くから…!!」
電話を切って自転車の鍵を掴む。
環慈も訳が分からないなりに一緒に立ち上がった。
「トモ、どうし」
「香名さんが刺されたって!」
「はぁ!?何だそれ!?」
「多分アイツだ……クソッ!」
階段を下りながら救急車を呼ぶ為に電話する。
「今知人に電話したら刺されたって、助けてって言われて…!場所は…」
住所やら名前やら伝えられることは全て伝えて、大急ぎで自転車を走らす。
二人がマンションに着いたと同時に救急車も到着し、すぐに顔を出した救急隊員に電話をした旨を伝えながら香名の部屋に走った。
鍵は掛かっておらず、ドアを開けた隊員の背後から見えた風景に二人は愕然とする。
リビングに続く廊下には血痕が広がっていた。
「香名さん!!」
居ても立っても居られない灯唯が叫ぶと、リビングには腹の辺りを真っ赤に染めた香名が横たわり、そのすぐ側には血だらけの包丁が落ちている。
「酷ぇ…」
環慈が口元を押さえて呟く。
「香名さん…香名さん…っ」
「君っ、落ち着いて!」
手を出そうとする灯唯を一人の救急隊員が止めに入る。
もう一の隊員がすぐさま応急処置を始めた。
するとうっすらと目を開けた香名が消えそうな声で灯唯を呼ぶ。
「ト…モ、くん…」
「香名さんっ」
「…来て、くれた…んだ…」
「うん来たよ!しっかりして!」
「離れて!担架はっ?」
「はい!」
「急げっ」
応急処置が終わるや否や隊員たちが香名を外に運び出す。
「俺も行く!」
同行を問われる前に灯唯が叫んだ。
「トモ落ち着け、俺も行くから」
環慈は動揺する灯唯の腕をつかむ。
普段見せたことのない様子の灯唯に驚きつつも、しっかりと支えるように救急車に乗り込んだ。
「しっかりして…死んじゃ嫌だよ…」
涙が混じるか弱い声で繰り返しながら、灯唯は赤く染まった小さな手を強く握る。
病院に着くまでその手は力無くうな垂れたままだった。
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