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第18話

香名は病院に到着するなり緊急手術をするため手術室に運ばれた。 「なんで…こんなことに…」 「トモ…」 肩を落とし今にも倒れそうな灯唯の肩を、環慈はしっかりと抱き椅子に座らせる。 そこにカツカツと響く靴音が近付いてきた。 「君達、ちょっといいかな?」 顔を上げると、神妙な顔をしたスーツ姿の男が二人立っている。 ドラマで見たのと同じような手帳を開いた彼らは病院の方から連絡を受けた刑事だった。 「今手術中の吉澤香名さんについて話を聞きたいんだが」 手帳を内ポケットに仕舞いながら40代ほどの男がまず二人の名前を確認する。 一瞬犯人だと疑われたのかと体を強張らせた二人だがそうではないようだ。 「見たところ君たち高校生だよね?大倉さんとはどういった知り合いなの?」 「香名さんは俺のバイトしてるコンビニの常連さんで、色々話してる内に仲良くなって…」 そこまで聞いて、もう片方の若い刑事が簡潔な説明を始めた。 聞き込みから、マンションの隣人が言い争う声を聞いていたこと。 その近辺で手に血らしきものを付けて走って行く不審な男の目撃があったこと。 「思い当たる人物や事柄はあるかい?」 もちろん灯唯達には心当たりがある。 自分のことは省いて、今まで見聞きしたことを警察に全て説明した。 上司との不倫のこと、それを後悔して香名が男と別れようとしていたこと、しかし別れ話の際逆上した男が暴力を振るったこと…。 刑事がメモをして立ち上がり、落ち込む灯唯の肩をポンと叩いた。 「協力ありがとう。ただ君の方が倒れそうだ…無理してここにいることはないぞ」 「でも…」 「心配なのは分かるよ」 「先輩、親御さんがみえたようです」 若い刑事が申し訳なさそうに話を遮りながら口を挟んだ。 皆が顔を上げた先に目の縁を赤く染めた中年の女性と、彼女を支えるように寄り添う男性が慌てた足取りで近付いてくる。 「吉澤さんですか?」 「はい、あの、娘は…!?」 「今手術中です」 「そちらの方たちは…」 戸惑いを隠せない様子で灯唯達を確認した父親が刑事に問いかける。 「彼らは娘さんの友人で第一発見者です。刺された直後にたまたま電話をかけて状況を知ったようで… 救急車を呼んでくれたのも彼らですよ」 「そうなんですか、ありがとうございます…」 深々と頭を下げる香名の両親。 しかし灯唯も環慈も、その礼を素直に受け取るのはまだ難しかった。 顔を伏せる二人の代わりに、刑事は事の経緯を両親に説明する。 娘の不倫を他人から聞かされた上、こんなことになるなんてと母親は顔を覆った。 その後再度両親から謝罪と礼を言われた灯唯と環慈は一度帰宅することとなった。 刑事に香名のマンションまで送られると、乗り捨てていた自転車は管理人が保管していてくれた。 香名の心配をする管理人に刑事がまだ手術が終わってないことを伝え、現場検証中の部屋に再度戻ると言う。 「君たちも気を付けて帰ってね」 自転車の礼を言う二人を管理人と刑事が見送ってくれた。 「刑事さんも管理人さんも良い人だったな」 「うん…」 帰り道、環慈の声にも灯唯の返事は暗い。 ペダルを漕ぐ足は重く、行きの倍近い時間をかけて二人は櫻井家に到着した。

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