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第19話

翌朝灯唯に香名の母親から連絡が入った。 香名の手術は無事終わったこと。 そして犯人が捕まったこと。 近隣の目撃情報や灯唯達の証言通り、やはり例の上司の犯行だった。 現場に残された包丁にもベッタリ指紋が付いていたので疑いようも無かったらしい。 動機は復縁を迫ったが拒否されたことによる衝動的なものだったと。 母親は電話口で許せない…と零しつつも、灯唯と環慈が犯人と鉢合わせなくて良かったとも呟いた。 「まだ目は覚ましてないけど、良かったら来てやってね」 彼女は最後にそれだけ言うと電話を切った。 昨夜はそのまま泊まった環慈が横から心配そうに灯唯を覗く。 「香名さん、手術は無事終わったって… まだ目は覚めてないみたいだけど…」 「そうか、一先ずは良かった。な、灯唯」 「うん…」 なんとか返事はするものの暗く沈んだ様子の灯唯を、環慈はそっと抱きしめた。 縋り付くように灯唯も彼の背中に腕を回す。 しばらく二人は無言で抱き合っていた。 昼もかなり過ぎた頃、環慈がなんとか用意した食事を二人で摂り、途中で花を買って病院へと向かう。 受付で部屋番号を聞いているとちょうど香名の母親がやってきた。 軽く挨拶を交わし、母親に案内され香名の眠る部屋へ向かう。 脈を図る機器や点滴の管を付けられ静かに横たわる彼女を目の当たりにして、二人は息を飲んだ。 白い肌は血の気が薄いせいか透けるようで…。 灯唯が手を握るとヒンヤリと冷えていた。 「救急車があと数分遅れてたら駄目だったって言われたの… 本当にありがとうございました」 改めて深々と頭を下げながら礼を言う母親に恐縮しながら、逆に二人は謝罪した。 「香名さんの事情を知っていたのに守れませんでした。本当にすみません…」 「そう…、あなた達は色々聞いてたのね…」 確かに親にしたら知りたくなかった事実だっただろう。 しかしそれ以降は彼女は深く聞いてくることもなく、灯唯達も取り留めのない会話だけで余計なことは言わなかった。 ───結局その日香名は目覚めることはなかった。 それから何日かして冬休みも残り2日というところまできた。 「あーあ、明日から学校か〜!面倒臭ぇなぁ」 大きく伸びをしてベッドに横たわる環慈。 あれからほとんど毎日のように灯唯の家に押しかけている。 「お前の場合は遊びに行ってるようなもんだろぉが」 「ひっで!彼氏にはもうちっと優しくするモンだぜ?」 「ハッ」 “彼氏”の部分を強調され、むず痒さから皮肉な笑みが零れた。 もちろん半分照れ隠しなのだが、鼻で笑われ環慈は思いっきり膨れっ面に。 そんな顔を見ていると結果、思わず灯唯の顔は緩んでしまう。 そんな彼を見て環慈もまた表情を一変して微笑んだ。 「トモ、笑えるようになってきたな」 「……うん…」 静かに返すと、わしゃわしゃと髪を撫でられる。 「俺らが落ち込んでいようがいまいが、香名さんは勝手に回復してくよ」 「あぁ」 にかっと笑う環慈の自然な優しさに、つくづく救われてるなと思う灯唯である。 「ありがとな」 抱き寄せて耳元で囁いた。 顔を向けた環慈が目を閉じる。 戯れるように、何度も口付けた。

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