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第3話

 ポケットの中に無造作に入れておいた携帯電話がぶるぶる、と震えている。手にとって通話のボタンを押すと、悠深(ゆうしん)からだった。 「無事に駅までは来られたみたいだね」 「おかげさまで」 「そっちは息苦しいでしょう?」  思った以上に。当然のことを言葉にする相手に向かってぼくは素直に頷く。 「とても。はやく逢いたい」 「そうだね。僕もすぐにそっちに行くから。一迦(いちか)のことだからひとのいない公園にでもいるんだろう? そこから動かないで待っているんだよ」  わかった、と応えると同時に、通話の途切れるツー音が内耳に届く。  悠深はぼくがミハルに逢いに行くことを最初からわかっているようだった。先輩以外でミハルとぼくのことを理解してくれているのは悠深だけだから。  ひとあし先に大学生になったひとつ年上の悠深は雪深い田舎の実家から都会のアパートに住まいを移して学生生活を送っている。地元の大学に推薦合格を決めていたぼくに遊びにおいでと誘いの電話を家族への大義名分にして、彼に逢いに行けと背中を押してくれた悠深は、莫迦正直にやって来たぼくをどう思うだろう。  溜め息が白い靄のように煙り、空中へ舞い上がっていく。真っ青な空に吸い込まれていく白い息を無心に見つめていると、その横で長身の影がちらつく。  黒い外套を羽織った悠深だった。

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