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第4話

「彼にとって二年という歳月はけして長くなんかない」  ダウンコートで着ぶくれしているぼくの隣に並んだスマートな悠深は、久しぶりの挨拶も抜きに本題に入る。彼にとっても、ぼくとミハルの恋の行方は気がかりだったのだろう。たとえ自然消滅してもおかしくないと思われてはいても。 「けれど、一迦にとってみたら、二年という歳月は貴重な青春の一ページだろう?」  ミハルはさよならと言った。けれど恋しいなら追いかけて来いとも。その意味をぼくは理解しきれていない。 「彼は覚えていてもらいたかったんだろう」  悠深は悟りを開いた高僧のように、淡々と言い聞かせていく。彼の紡ぐ抑揚のない声が、耳から脳髄を伝って、血液のように身体中を循環していく。 「ずるいよね」  零れ出る本音に、悠深は何も言わない。 「ぼくばっかり、彼のこと想いつづけているなんて」 「……それは、どうかな」  公園を抜けて、悠深はぼくを護るように手袋をしたまま手を繋ぐ。さも当然のように。ぼくもまた、その手を黙って受け入れる。 「一迦」  悠深は困ったように名を囁く。 「なあに」 「叶えてはいけない恋だってわかっているのに、いまも囚われているんだな」 「……一方的なさよならが許せないだけだよ」  逢って、彼の想いを確かめたいわけじゃない。信じてたなんて言わせない。  逢って、今度はぼくの方から、彼にさよならをしたいだけ。  残酷なことを口にしたミハルはそんな風に狂ってどこまでも追いかけてくるぼくを望んでいる気がする。ならばそれに応えようと思っただけだ。 「それを聞いて、安心したよ」  すべてを知っている悠深は淋しそうに笑って、繋いだ手に、ちからを込める。

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