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第5話

 幼い頃から、ぼくは他人の強い思念に感応することが多かった。住人の少ない、山深い集落で生活していたから、苦労するようなことは多くなかったけれど、ひとを恨んだり呪ったりする悪意に慣れることができなかったから、しぜんと親しくする人間の数は少なくなった。  過疎の進んだ学校だったから、たくさんの悪意に苛まれることはなかったけれど、それでも思春期を迎えた時はけっこう辛かった。級友が苦悩している両親との関係や教師との衝突、友達や恋人の諍い、先の見えない未来への不安……さまざまな人間の負の感情に溺れそうになったぼくが逃げこんだ先が図書室だった。  図書室にいる生徒たちは夢中になって本を読んでいたり勉強していたりしているから、比較的負の感情の密度が薄い。ぼくにしてみれば唯一、気が抜ける場所だった。  それでも、思い悩んでいる人間はいたけれど……    * * * 「この街は息苦しいだろう? 表面上は穏やかな仮面を被っていても、心の奥底では誰かを罵っていたり、自分を傷つけていたり、戦争を望んだり、最悪、誰かを殺したいと希っている人間がいる」  まあそれはこの街に限ったことじゃないけど、と悠深は淡々とつづける。 「そういう感情に一迦は敏感だから、できれば早く決着をつけてあげたいとは思ってる」 「……悠深、ミハルのこと恨んでる?」 「恨む? なんで?」  心配し過ぎだよと悠深はぼくの頬を手袋ごしに触れる。冷たい肌に、手袋ごしの温もりが心地良い。けれど、悠深は穏やかな表情の裏側で、負の感情を隠しているように思える。  言いたいことがわかったのか、悠深は「ごめんごめん」と笑いながら、その理由を口にする。 「恨めしいというより、羨ましい。僕が彼に嫉妬しているのは事実だからね。それが外に出ていたのかな……」  自分のほうが、確実に一迦をしあわせにすることができる場所に立っているのに、どうしてだろうね。  そう朗らかに笑って、ぼくの杞憂を取り除く。  いつもの悠深だった。

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