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36.そばへ
ひたすら森を進む。
やがてガンマが、道を塞ぐように佇むのに行き会った。
フードを深く下ろしたガンマは、黙したまま首を振る。
この先に至ることは許さない。
その意志が伝わってくる。
「なにもしない」
囁くような、枯れた声が出た。
「ただ、そばにいたい」
「…………」
ガンマは白く細い指でフードを持ち上げ、薄灰色の瞳が俺を捉える。
そばに行きたい。
それだけしか無かった。
なんときが過ぎただろう。
フッと溜息を漏らし、フードを落としたガンマは、無言でクルッと身を返し、歩き始める。
道の無い森の間、迷い無い足取り。その後をついて歩く。
そこはガンマの導きなしでは行けない。なぜか誰も、至ることができないのだ。
やがて至った、儀式の場。
確かに知っている場所。
しかし、知らぬ光景があった。
誰もが足を置くことすら躊躇う、中央の苔。
そこに、蒼の雪灰がいた。
何色とも言い難い輝きに包まれ、丸くなっている。
おぼつかぬ足取りで近寄り、けれど神々しいような光に触れることはできず、苔に触れぬ位置に膝をついた。
蒼の雪灰────
なぜ、そこに。
庵に入ることもせず、誰も足を置くことすらできぬ苔の上で、そのような光に包まれて。
なぜ。
手を伸ばす。しかし、光に触れるのは、やはり躊躇われて引く。
「いるだけなら」
ガンマの声に、ゆっくりと目を向けた。
「許す。触れるな」
フードを目深に下ろしたガンマの目は見えない。
しかし、強固な意志がビシビシと伝わり、しっかりと頷いた。
居るだけで良い。
ここに、そばに、いるだけで、良い。
怖れはある。
ここに来て理解した。
蒼の雪灰の気配は、めまぐるしく変化している。
儀式を終えたとき、どうなるのか、考えると恐ろしい。
けれど、どのようになったとて、俺の蒼の雪灰に変わりは無い。
そこに一片の揺らぎも無い。
今はただ、無事に目覚めてくれと祈りを込めて。
眩 い光に包まれた、愛しい存在を
ただ見つめていた。
ふわり、と。
感じる。
────ああ。
……いる。
そこに、いる。
ずっと待ち焦がれた。
手を伸ばせば触れられるほど近くに。ようやく近くに────
でも身体はかたまって、まつげ一本動かせない。
だから見ることなどできない。けど……ああ
────心地良い……。
感じる。
とても安心する気配。
揺蕩 いの中で嬉しくなる。
心が。身体も。
踊り出したいくらい、嬉しい。
ねえ、どうしてそんなに怖がっているの?
俺は大丈夫だよ?
心配いらない
とっても心地良い。
……すごく安心する
……心地良くて
……だから、
…………もうちょっと
────待ってて
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