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40.歓び※
闇に包まれた樹間を、足は迷いなく進む。
人狼や獣が踏んでできた道など選ぶ余裕は無い。ひたすら真っ直ぐ、俺を誘う気配へ、濃厚な匂いの元へ進み続ける。
新月で感覚は鈍っているはず。しかし感じ取れる。信じられないほど鋭敏に蒼の雪灰だけを感じ、引き寄せられる。
足の動きは無自覚に早まり、葉の落ちた枝を払い、積もった葉を藪を蹴散らし、誘われるまま愛しい気配へと────真っ直ぐ進み、どれほど時が経ったか。遙か樹間、闇の中に、ほんのりと暖かい光。
「蒼の雪灰っ」
笑っている。ひどく嬉しそうに笑っている。視認せずとも、両手を広げ駆け寄ってくるのが分かる。愛しい気配が近寄ってくる。俺も足を速め────
「アウルーム・アイーッス」
愛しい声。
血が沸き立つ。目前の大木が邪魔とばかり、跳ね上がって枝を掴み幹を蹴って前方へ翔ぶ。
瞬く光に包まれ、ガンマのようなすっぽりとした薄物だけを纏って両手を広げ、地を蹴った、俺の番。
俺の、オメガ。
「蒼の雪灰っ!!」
「金の銅色ーーーっ!!」
積もった葉に着地すると同時、飛びついてきた愛しい身体を受け止める。
そのまま柔らかい葉の上で、共に転がる。
甘い匂い、気配に、急激に募る情欲。
互いに鼻を擦り合わせ、甘噛みを繰り返し……棲まいで眼を開いた瞬間から滾り始めていたものが、発火せんばかりに燃え上がっている。
「……ああ、蒼の……」
「ねえ────」
甘い声。むせかえる甘い……発情の香り……。俺も滾っている。
奥歯を噛みしめ眼を開く。潤んだ蒼の瞳が間近で俺を誘う。
密接した肌。悩ましい匂いが俺を包む。首の根を甘噛みする顎に力が入る。
ぷつ、と肌を破る感触。流れ込む血潮。
「は……ぁ……っ」
歓喜に震える唇から密やかな声が漏れ、情動を燃え上がらせる。
なんという味わい。この上ない甘露。
どんな獣のはらわたより甘く、最も良く実った果実より芳醇。そして熱い。僅かずつ、舐めるように身の内に取り込んでいく。
絶え入るような吐息を漏らし震え、熱を帯びていく、愛しい者。
……なにかが、漲っていく。
腕の中の白い肉体から、どくどくと流れ込んでくるもの。身体が熱くなる。もたらされる────激しい変化。
血が沸く。全身に漲るこの力は。
絶対的な強者へと、そうなるのだという予感……いや、確信。
俺は、知った。
俺こそがアルファ。人狼を統べる者。どんな強者であっても、俺に勝る者などいない。それが、分かる。
夢中になった。
もっと寄越せ。より強く、より強大に、俺は────
「……は、ぁ……」
震える熱い息が耳にかかった。
ハッとくちを離す。と同時、胸を押され────肌が離れる。
はあ、と甘い息を漏らす蒼の雪灰を見下ろす。瞬く不思議な光に包まれ、肌が火照ったように赤みを帯びている。
この世のものとも思えぬほど美しく儚げで、……妖艶。
蒼瞳は潤んで揺れる。それに惹かれ魅入られ、我が肉体もあてられたように熱を帯びる。
知らず伸ばした指を、紅潮する頬に、美しい鼻先に、愛らしい唇に、白く艶めかしい首に……滑らせる。指先からじんじんと伝わる艶熱。
瞬時目を合わせた我が番は、すぐに恥じらうように目を伏せる。その手が薄物を捲り上げていく。
露わになる滑らかな腹。筋肉の陰影を目で追うと、雪灰のけぶる股間に、雄のものがそそり立っている。先端を濡らせた震えるそれに、自ら触れて顎を上げ、甘い息を漏らす。
ゴクリと、喉が鳴った。
眼はもう一方の白い手がその奥に伸び、指が蠢くのを追ってしまう。
「あ……」
悩ましい吐息。僅かに開いたくちもとから白い歯と赤桃色の舌が覗き、蒼瞳が悩ましげに細まる。
滾る情欲に、喉奥から低い唸りが漏れる。
「……なにを」
している。
なんと、悩ましい、ことを。
「は、ぁ……、できる……もう」
蠢く指から、ぴちゃり、と滴る音。僅かに寄せた眉の下、瞼が落ちる。
俺の雄は猛りきり、動く度に葉の鳴るカサリカサリという音が、やけに耳に響く。
「……っ、ぁ……」
少し顎を上げ、一度閉じた瞼が僅かに開く。潤んだ蒼が、俺を捉え────
濃密な気配に包まれる。
オメガと自分は特別な絆で繋がっている。強烈な一体感。二匹で一つなのだという実感と共に腰紐を緩める指が、激しい歓喜に震える。自らを叱咤しながら下衣を下ろす。
「ここに、入れて、早く」
さらなる歓喜が身の内に沸き立ち、息を整えようと努力しても、はあはあと荒ぶったまま落ち着かない。
「あんたの……子種……」
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