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第2話

【1】  今から約十二年ほど前、シノオとネイエが出会った。  紆余曲折を経て、二人は一緒に暮らすようになった。  その頃、アケシノは、シノオ以外の十二匹の大神を率いて、まかみ岩で暮らしていた。  近所に住む信太(しのだ)狐とはかかわりを持たず、まかみ岩とまかみの原で餌を狩り、枯れ草を食み、流れの激しい川で魚を獲り、皆で分け合って腹を満たす日々を送っていた。  ただ、餌を分け合いはするが、アケシノが最初に食べて、残りを仲間に与えていた。  最初に口をつけて、ひと口だけではあるが仲間よりも多く食べた。  誰がこの群れのてっぺんであるか知らしめる為だ。  統率が取れなくなれば、……シノオのようにひとつ方法を間違えれば、アケシノもまたシノオの二の舞になるからだ。 「俺みたいになるなよ」  シノオは、アケシノにそう言って聞かせた。  シノオは優しいから群れを見捨てられず、自分だけが苦しんだ。  それを反面教師に、アケシノは、シノオとは違う方法で群れを率いていた。  それが上手く機能しているかと問われれば、返答に詰まる。  毎日が手探りで、力で群れを支配する時もあれば、年嵩の者の意見を仰ぐ時もある。  シノオとは違う方法をとろうとすればするほど、己の未熟さを知る。  シノオほど優しく、シノオほど強く、シノオほど気高い大神はいない。  アケシノは、シノオほど、大神としての矜持を保ち続けられない。  毎日のように、その事実に直面する。  ……時々、疲れる。  疲れて弱る姿は、誰にも見せられない。  そういう時は、お気に入りの水浴び場へ行く。  岩山と森に隠された小さな滝壺だ。 水流はゆるやかで、滝の流水は糸のように細く繊細で、静かに水面へと吸い込まれていく。水深も浅いせいか、青く澄み渡り、滝壺の底まで見通せて、水を浴びるにも、喉を潤すにも最適な、穏やかな場所だった。  シノオとアケシノしか知らない、秘密の場所だ。  生まれて間もない頃、シノオに後ろ首を噛んで運ばれて、ここへ連れてきてもらった。  親子らしい思い出なんてまったくと言っていいほどないけれど、それだけは覚えている。  それ以外の記憶といえば、生まれたばかりの時に、血と羊水まみれのアケシノをシノオが舐めて、抱いて、尻を叩いて、「たのむから、泣いてくれ」と泣いている姿だ。  ほかは、アケシノがシノオにひどいことをしている記憶しかない。  だからこそ、いま、シノオがネイエと一緒にいて幸せを感じているなら、嬉しい。  アケシノではシノオを幸せにできないから、ネイエとつがいになってよかったと思う。  だが、どうしたものか……。  大神は、これからの身の振りようを考えるべき時期だ。  それが、シノオから惣領の座を奪い取ったアケシノの責任だった。

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