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第4話

        *    五年後。  十一歳になったすずは、年相応の見た目に成長した。  アケシノは五年前と変わらず、十六、七歳の見た目を維持していた。  もともと、アケシノは、シノオを孕ませる為に急激な成長の必要があり、一気にそこまで成長しただけで、そこから先は本来の成長速度に戻っただけのことだった。  先日、ネイエとシノオの間に双子が生まれた。  アケシノが孕ませた、あの、呪いだ。  ネイエはそれを五年かけて呪いではなく祝い事に変えた。  なかなか気概のある男だ。 「かわいいねぇ、ふくふくほっぺ、ちっちゃいおてて、産毛のお耳と尻尾、かわいいねぇ」  布団に寝かせられた赤子と同じように寝転んで、すずがにこにこしている。  かわいい、かわいい。飽きもせず眺め、双子がそろって欠伸をすれば、「ちっちゃいお口かわいい、かわいい」と畳をのたうち回る。  下に六人も弟がいるすずは、双子の扱いにも慣れたもので、起きている時は上手にあやし、寝ている時は静かに見守り、寝かしつけも堂に入ったものだった。  すずの後ろで、アケシノはじっと正座してその様子を見ていた。 「まだ一回も双子ちゃんに会ってないの!?」  そんな驚きの言葉とともに、すずに手を引かれてこの家にやって来た。 ここはネイエとシノオの家だから、狼の姿ではなく人間に化けている。  狼のままだと脚はどろどろだし、毛皮だって汚れている。そんなナリで、よその新居には入れない。ましてや赤ん坊がいるのだから、身綺麗なほうがいい。 「アケシノ君、足、崩したら?」  茶を運んできたネイエが、アケシノに声をかけた。  数えるほどしか話したことがないのに、ネイエは気さくに声をかけてくる。  アケシノはどう返事をしていいのかも分からず、また、どういう態度を取っていいのかも分からず、結局、正座のまま、双子とすずをじっと見ていた。 「あけちゃん、ほら、もっと近くで双子ちゃんにご挨拶しよ」 「……いい。ここでいい」 「さっきからそればっかり! こっちおいでよ」 「おい、すず……」  すずに手を引かれて、アケシノは中途半端に腰を浮かせる。  この仔狐、見た目に反して力が強いのだ。 「ほら見て、お鼻の形はおしのちゃんにそっくり。……ってことは、あけちゃんにもそっくり。成長にあわせて骨格も変わるって言うけど、将来、誰に似ても美人さんだね」 「……俺としては、ネイエに似て欲しいがな」  別室で昼寝をしていたシノオが姿を見せた。  産後、いくらか具合を悪くしていたが、ネイエの甲斐甲斐しい世話が功を奏したのか、いまは元気にしている。 「おしのちゃんはネイエちゃんのお顔が大好きだもんねぇ」 「この男、顔面と気概だけはイイ男だからな」  すずの言葉に、シノオが惚気た。  シノオには惚気ているつもりがなく、本気でそう思って、本気で褒めている。  これが天然なのだから、我が母ながら愛らしい性格だとアケシノは思った。 「おしのちゃんに似たら~、ぺろぺろ上手で、美人さんだね~」 「すずはシノオの顔が大好きだもんなぁ」 「うん、ぼく、おしのちゃんのお顔大好き」  ネイエの言葉に大きく頷き、すずはシノオに頬ずりする。  すずの初恋はシノオだ。  誰が見ても分かるほどに、すずはシノオを慕っている。  シノオはきれいで、可愛くて、面倒見がよくて、しかも、男前で、強くて、大神としての矜持を常に忘れず、気高く生きている。そのうえ、毛繕いと巣穴を作るのが上手だ。  初恋とはいえ、尊敬の念が大きいのかもしれないが、十一歳のすずが果たして恋と愛と尊敬の区別がついているかどうかは、アケシノには分からない。  そんなすずに、シノオは、「いずれ、お前も一生モノのつがいを見つけるから、それまで好きだの愛してるだのはとっておけ」と、すずに言い聞かせていた。  アケシノの前でも、すずは臆面もなく「すき」を伝え、シノオを慕う気持ちを隠さない。  同じように、ネイエを慕う気持ちも隠さない。  誰に対する愛も、すずは率直に表現する。  アケシノにも、同じように表現する。  けれども、すずがアケシノを慕う感情は、きっと、勘違いだ。  シノオと同じ匂いがして、シノオと同じ顔をしているから、無条件にアケシノに気を許しているだけだ。  アケシノがシノオに似ていなくて、過去に信太を襲っていた大神だという事実だけをすずに突きつけたら、すずはきっとアケシノを「すき」とは言わないだろう。  それに、アケシノは、シノオほど心身ともに強くもなく、優しくもない。  シノオと比べられたら、負ける。 「アケシノ、双子を抱いてやってくれるか?」  黙り込むアケシノの隣に、シノオが膝を下ろした。 「いや、俺は……子供の扱いは……」 「安心しろ。俺も一緒に支えてやる」  シノオの腕からアケシノの腕へ、小さな生き物がやってくる。  シノオの手に支えてもらって、恐る恐るアケシノが抱く。  アケシノの隣で、同じようにネイエに助けてもらいながら、すずが双子の片割れを抱いている。  すずとアケシノが双子を抱く姿に狐狼のつがいは目を細め、互いに寄り添うようにして、視線で言葉を交わしている。  幸せを、瞳のひとつで共有している。  こういう場面を見るのも、アケシノはなんだか居たたまれなかった。  シノオが幸せそうに暮らしていて、つがいを見つけて、子供を産んだ。  それはアケシノにとっても喜ばしいことのはずなのに、息苦しかった。 「……?」  アケシノの尻尾に、くるりとすずの尻尾が絡んできた。  すずを見やると、「みんないっしょ、しあわせね」と笑った。  返答に詰まった。  確かに、そうだ。  みんながしあわせなら、それはしあわせなことだ。  いま、ここにいる者は、誰も泣いていないし、血を流してもいない。  離れずにみんな傍にいる。  それはしあわせなことなのだろう。

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