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第6話

        *  すずが元服して、名を御祥(みよし)と改めた。  佳い名だ。あの黒毛玉が、もうそんな立派な名を名乗る歳になったのだ。  アケシノは、弟分の門出を喜んだ。  元服するなり、早速、ミヨシは修行に出た。  信太と繋がりのある神様のところへ弟子入りしたのだ。  それも、同じ神様のところでずっと世話になるのではなく、全国津々浦々を放浪し、その先々で一年から二年ほど住み込みで修行し、また次の場所で修行を積む。  もう何年もそんな生活を続けていて、信太村へは滅多に帰ってこない。  ミヨシは帰ってくるたびに背が伸びていて、顔もどんどん父親に似てきて、いつの間にか声変わりもすっかり終えて、アケシノよりもほんのすこし目線が高くなっていた。  でも、頭のなかは小さい頃からちっとも変わりがなくて、アケシノに対しても、「この子のことすき! ずっと一緒にいたい!」と、幼いながらに抱いた感情そのままで育っていた。  誰に対してもそんな感じでいるから、十六にもなると女を勘違いさせることも数知れず。  女だけでは飽き足らず、あの人懐こい笑顔で男も惑わす立派な人たらしに育った。  ただひとつ、四年ほど前から、ミヨシに変化があった。  ちょうど、ミヨシが元服した頃だ。  ミヨシが唐突にアケシノに求婚してきたのだ。  アケシノは、「こいつは元服しても頭のなかはママゴトしてる時のままだ」と呆れた。 「ミヨシはあけちゃんと結婚したいです!」  今日の晩ご飯は肉じゃががいいです!  そう主張するのと同じ温度で、求婚してきた。  感情が突っ走るがままに生きてるなぁ……とアケシノはやっぱり呆れた。 「俺の身長を追い越したら、まともに取り合ってやる」  ミヨシがアケシノを見上げている間は、取り合ってやらなかった。  それでもめげずにミヨシは求婚し続けてきた。  今年、十六歳のミヨシに背を抜かれた。 「これでまともに取り合ってくれるよね?」 「あぁ、まともに取り合ってやる」 「じゃあ……!」 「残念ながら、お前は俺の趣味じゃねぇんだよ。脈なしだ、諦めろ」  思い切り振ってやった。  ミヨシは弟みたいなものだし、思考回路はまだ子供だ。  こうしてアケシノが振り続けていれば、いずれよそへ気移りするだろう。  子供の時分に抱いた好意を、恋と勘違いするのはよくあることだ。  そのうえ、アケシノはシノオの息子だ。  初恋相手と、初恋相手の息子を重ねてしまい、勘違いに拍車がかかっているだけだ。  いつまでも、つれない態度をとってやるのが、兄貴分の責任というものだ。  アケシノはミヨシよりも実年齢は年下だが、成長速度の都合でミヨシよりも精神年齢が上だ。それに、ミヨシはまだ修行中の身だが、アケシノはもう何年も大神惣領として立派に務めを果たしている。  アケシノには、分別というものがあった。 「そもそもお前は修行中の身だろうが。色事にかまけてる暇あんのか、ねぇだろ」 「…………ご尤もです」  ミヨシはアケシノの言い分に口を閉ざしたが、なんと、その後、十六からの丸三年、諦めなかったのだ。  三年間、修行先から毎日アケシノのもとへ通って求婚し続けたのだ。  馬鹿だと思う。  雨の日も、嵐の日も、雪の日も、うだるような暑さの日も、毎日、毎日、毎日……。  やめろと言ってもやめず、修行が終わったらまともに取り合ってやるからと言ってもやめず、危ないからやめろと叱ってもやめず、「なら、通えるだけ通ってみろ。手始めに、あと百日だな」と百夜通いを何百日もさせた。  百日過ぎるごとに百日延ばしてやった。  百日ごとに褒美を与えるでもなく、終わりない百夜通いをさせた。  そのうちどこかで野垂れ死ぬんじゃないかとも思ったが、ミヨシは存外丈夫だったし、信太の頑固な血筋なのか、諦めもへこたれもしなかった。  これはもう好いた惚れた腫れたの問題ではなく、意地と根性で通っているな……と思う面もあったが、その根性だけはアケシノも舌を巻いた。  ミヨシは、意地と根性で三年間アケシノのもとへ通った。  世話になっている修行先から信太村まで一晩で往復できる距離だったのもあるだろうが、ミヨシはけっして諦めなかった。  逆に、その頃にはアケシノのほうが諦めていて、ミヨシの好きにさせていた。  ミヨシも、明け方までには修行先へ戻らないといけないから、「好き、結婚しよう」の言葉を、毎日毎日、手を替え品を替え伝えるだけ伝えると、アケシノの手を握りもせずトンボ帰りしていた。

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