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第9話 変態が語る

「そうだな、最初は確かに尻だった。」 桜井くんは素直だ。 「そして、次に君の表情だ。」 意外な言葉に僕はボーッとしてしまった。 「昔、会ったことあるのは…覚えてないよな。」 桜井くんは頭をかいた。 「7年前くらいに同年代の子供達が集まったパーティーだ。」 僕は思い返してもわからない。 首を横に振った。 あの頃はパーティーに出席することが多く、どのパーティーだったか覚えていない。 「あの時に笑顔だった椿を思い出した。」 桜井くんは照れ臭そうにしている。 「笑顔がなくて、教室にぼーっと佇む椿に俺は気になった。」 僕は桜井くんの真面目な言葉に呆気にとられた。 「そうなんだ。」 それしか返せない。 「だから、俺の側にいて笑ってくれ。」 桜井くんの真剣な眼差しと言葉に頷いた。 「本当か!」 その言葉と同時に盛大なため息が聞こえた。 それは高級ソファーの肘おきにもたれ掛かった四月一日だった。 「あ…。」 そのため息に僕は何だか現実に戻された気がした。 「構わんが、報告するぞ。」 四月一日が困ったように聞いてきた。 僕は頷いた。 そう少しだけでも良い、彼の側にいて楽しい思い出さえできれば。 「椿?」 「何でもないよ!」 僕は空元気になった。 そうしなければいつか来る別れに対応できない。 そう思ったからだ。

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