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第10話 日常

まぁ桜井くんと付き合ったことは一瞬で広まった。 「アイツと?」 廊下を歩くとそう言われるのは必然で…。 「はぁ…。」 桜井くんは朝からハイテンションで僕の尻を揉み。 俺の尻…。と喜ぶ姿に皆引いていて。 なぜか付き合ったことがすぐに噂で出回っている。 しかも翌日に…。 「あぁなったのは全部椿のせいだ。」 周りはそう言うようになってきた。 「あの…」 「ん?どうしたの?」 桜井くんに相談しようと思ったけど本人は気にしてないようだった。 僕はどうしようもない怖さを彼に伝えることができず、またどうして良いかわからずそのまま耐えることを選択した。 「良いのか?」 美術の時間に四月一日が突然話を振ってきた。 「何が?」 「痩せ我慢せずに言ったらどうだ?」 四月一日は監視役を任されるだけあって感が鋭い。 「不安ですって」 「言って何が変わるの?」 そう答えると四月一日はため息をついた。 そう僕がどう思おうが変わらない。 僕が何をしようが変わらない。 きっと皆、変わることはない。 僕のことで桜井くんを立ち止まらせる訳には行かない。 「あ、椿の絵は何描いたの?」 桜井くんがやってきた。 「椿の花?」 美術の時間のテーマは自分の浮かんだ情景だった。 「名字が椿だからね。」 僕は手に持っていたパレットと札を机においた。 「椿は美大志望?」 桜井くんのその言葉に僕は思考停止をしてしまった。 「いや、違う。」 僕はそう答えた。 「勿体ないな…。」 そう言ってくる桜井くんに僕は少しだけ悲しくなった。

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