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第17話 手紙

「四月一日、父親から何か聞いてないか?」 桜井くんがいない昼休みに四月一日に声をかけた。 桜井くんは週に1日だけ早退する。 なぜかは聞かないが、仕事をやってる都合だとか? 「やっと届いたのか。」 四月一日はバツが悪そうに言う。 すると、四月一日に手を捕まれ、僕は屋上へ連れていかれた。 四月一日がしかめっ面をするときは良い話じゃない。 「桑名夢華、覚えてるか?」 「伯父さんが一度連れてきた…。」 桑名夢華は僕の婚約者と言われた人で一度会っただけ。 しかも伯父が「お前の婚約者」だと言っただけ。 「あの女、お前の叔父の子供を妊娠したんだとよ」 「へ?」 彼女って18歳じゃなかったっけ? 「銀行の株は大暴落。おまけに百合子夫人は離婚するらしい。」 百合子夫人とは伯父の妻である椿百合子。 いつも聖母のような会う度に服や食べ物、そしてスキンケアのセットをくれる夫人だ。 夫人は体が弱く子供を産んだが優秀すぎて研究で息子が海外へ飛んでしまい、寂しいと僕を構ってくれた。 「しかもお前自分の戸籍見たか?」 四月一日からそう問われたが、見たことない。 首を横に振るとため息をついた。 「お前、あの人の養子になってたぞ。」 「へ?」 僕は間抜けな声が聞こえた。 「うちの親父も驚いていた。」 僕はあまりの驚きにその後の話が聞こえなかった。 「…って聞いてねぇ」 四月一日が項垂れた。 「とにかく今は大人しくしてろ。」 僕は黙った。 キーンコーンカーンコーン 昼の予鈴がなる。 四月一日は屋上から出ていき、僕はその場に座り込んだ。 そして、伯父からの手紙を開いた。 『洋へ お前が夢華と結婚していないせいで俺との子がお前の子と言えない状況になってしまった。 これはお前のせいだ。 せっかく養子として迎えてやったというのになぜ役に立たない。 だからお前は兄貴に似て役に立たない。 銀行の頭取になってもロクな稼ぎもできないバカどものためになぜ私が大変な目に合わなければならない。 百合子にも離婚を言い渡された。 すべてはお前のせいだ。 』 伯父の身勝手な手紙に僕はため息をついた。 伯父はいつだってそうだ。 自分の言うとおりにならないと癇癪を起こし、いつも百合子さんが注意していた。 体は弱いが気が強く、芯のしっかりした女性だ。 恐らく彼女はもう無理だと判断したんだ。 僕は目を閉じた。

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