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第4話
リビングに戻ってソファに座ると、浩汰の『おもてなし』につき合って牛乳を飲みながらぐるりと室内を見回す。
「お母さんは、お出かけ?」
「にゅうよおくいっちゃった」
「にゅ……?」
にゅうよおく……入浴……有閑主婦の昼銭湯。いや、違う。
「ニューヨーク?」
思わず訊き返すと、浩汰は入谷の隣でブラリと両足を揺らす。
「おしごとで、ずっとかえってこないの」
「ずっと、って? どのくらい」
「う~ん、とね……」
浩汰は両の側頭部に手をあて、一生懸命に考える。
「このまえのクリスマスは、プレゼントだけ」
「つまり、去年のクリスマスにお母さんはいなくて、プレゼントだけ送られてきたってこと?」
「うん」
ということは、浩汰の言葉に間違いがなければ少なくとも半年以上の不在である。なんだか想像した家庭とずいぶんかけ離れているようだ。
こんな小さな子をほっぽって、母親は長期海外出張。そして、理想のスーパーダーリンはいったいどこにいるのか。
「お父さんは?」
まさか高嶺までいないんじゃなかろうかと、少し心配になった。けど、浩汰がキッチンと反対側にあるドアを指差したのを見てホッとした。
「そっちにアトリエがあるのかな? それじゃ」
しかし、声をかけにいこうと立ち上がると、浩汰がスーツの裾をつかんでピンッと引っ張る。
「だめだよ。おしごとのじゃましちゃいけないの」
「や、俺だって仕事できてるんだから」
子供相手につい素で答えてしまったが、浩汰は首を振っていたく真面目な顔で言う。
「おとーさんのおしごとはね、とってもだいじなおしごとなの。だからきょーりょくしなくちゃいけないの」
いっちょまえな口調だ。幼いなりに父親を助けようとする浩汰は偉いと、入谷は素直に感心した。でも家の惨状を見ると不憫にも思える。
「そ、そうか……、お父さんもお母さんも忙しい人なんだね。お仕事に協力して、浩汰くんは偉いね。そしたら、もう少し待ってみようかな」
浩汰の気遣いを尊重してソファに座りなおすと、微笑む浩汰の目元がスウッと細くなった。それが高嶺の笑顔と重なって見えて、図らずも胸がキュンとなってしまった。
「おにいさん、おなまえは?」
「入谷だよ。いりやかなた」
「おんなじだねっ」
「ん? なにが?」
「こうた。かなた。ね」
「ああ、なるほど」
どちらも『た』のつく名前だと言っているのだ。
「ロボットでたたかいごっこ、しよ?」
浩汰は大きな目をくるりと輝かせ、ソファから飛び降りると転がったオモチャを拾いに走る。
しっかりした凛々しい表情を見せたり、無邪気に笑ったり。話題が脈絡なくコロコロ変わって、コマネズミみたいにちょこまかとよく動く。とてもチャーミングな男の子だ。
子供の世話をしたことはないが、童心に返れば遊び相手くらいにはなってやれる。そのうち高嶺も仕事を切り上げて出てくるだろう。それまで少し時間を潰していよう、と開きなおって待つことにしたのだが。
「ビーム! ビビビビビ」
「発進。どーん」
などと、昔より格段に進化したロボットを激突させ、ブロックのビルを破壊し――飽きたら次は自動車レース――。
豊富なオモチャで遊んで一時間は経っただろうか。
高嶺はいっこうにアトリエから出てこない。
打ち合わせの約束は今日で、訪問時間も間違えていないはず。電話で交わした打ち合わせ予定を思い出しながらも、だんだん不安になってくる。
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