だめだ！ギャンブルと同じなんだ。勝つまで続けなければ、破滅だ！ やり始めたからには、勝つまでやるしかない、やるしかないのだ……！ 　 　僕がその声を聞いたのは、半ばまどろむ意識の中でのことだった。 　――お前の父親は悪党だな。 　すぐ側で、別の声が囁く。 　僕は目を開いていないから、誰がどこにいるのかは分からない。いったいここがどこで、この夢がいつの記憶だったのかも。誰が話しているのかも、その時は気にならず、ただ意識が底の方へ沈められていくのに身を任せるだけだった。 　――だが読書好きとは面白い。 　どうして？ 　――どうしてだと思う？ お前、あの父が好きかい？ 　……よく分かりません。 　――そうか。……我がはらからよ、君が大人になったら、もしかしたら分かるかもしれないが、文学っていうのは、宗教に似ているんだ。 　宗教？ 　犠牲が多すぎた！ 　 　最初の声が、まだ怒鳴り続けている。 　怒号と喚き声がまた、その周りでいくつか沸き起こる。そんな中、彼の穏やかな声だけが、僕に寄り添うように、それでいて楽しげに話し続けてくれる。 　――悪党っていうのは、そいつの方で人や神を遠ざけるものなのさ。そこで、芸術が救いになる。 　 　ここでやめれば、これまでの犠牲がすべて無意味になる。台無しだ。私の悪行もすべてだ！ 　 　――やれやれ、悪党のくせに肝の座らないやつだな？ 我がはらからよ。 「だからって実の息子を殺すのかい？」 　頭の近くで囁くだけだった声が、その時ようやく、はっきりと周囲に響いた。すっ……と、空気が少しの間だけ、音が吸い取られるように静かになって、すぐにばらばらと崩れ始める。動揺が動揺を増幅させていく。まるでみんな初めて、彼の存在に気がついたみたいだ。 　 　お前……、お前は……！ 　 　ねぇ、今の話って本当なんですか？ 　――さぁ、 　彼の声を明瞭に聞いてから、僕の意識はなんだか優しい手のひらに包まれたように、はっきりしなくなった。 　――悪魔は嘘をつくぜ。でも、約束は守る。 　あなたは……悪魔なの……？ 　喧騒が遠ざかっていく。どよめきやざわめきが、雨音のように優しく変わる。 　そうだ遠くで……雨が降っている。 　 　……おい！ ……おい！大丈夫か！ 　 　……？ これは誰だろう。さっきまでの、喉を押しつぶされたような怒鳴り声とは違う……。雨の向こうで、誰かが呼んでいる。誰かを心配しているの？ そんなに怯えた声で……。 　最後に、雨音と混ざりあうようにして、温かい雨のような響きが降りてきた。 　――我がはらからにとっては、そうかもしれないな……。