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二人だけの秘密〜狂人と凡人〜【後編】
「あ、ああっ」
「はあっ、は、ふふっ! 礼二様はなんで僕なんかに突っ込まれて、そんないやらしい声出してるんですか?」
「は、あっあ゙! んんあああああっ!」
「喘いでばかり、いないで、質問に、答えろよっ! ほらっ!」
佐藤は腰を動かしながら、切れ切れにそう聞いて、礼二の小振りで形のよい尻たぶをひっ叩いて正気に戻させようとする。
「ひっ! わか、なっ、ぃ……」
「ああ? 何言ってるのかはっきりして下さいよ」
「あっあ! わからな、いっ」
「なんでいやらしい声が出るのか解らないんですか?」
「ふぅ……う、んっ!」
礼二は緩く頷いて眦に涙をいっぱいに浮かべて、佐藤の顔色を伺うように見上げる。
「僕に突っ込まれて、気持ちいいからでしょ?」
そう言われて礼二はふるふると首を左右に振りたくる。
「ははっ! 礼二様は本当、見てて飽きない。 見た目が綺麗なだけで、頭の中身はものすっごい、馬鹿だし」
そう罵りながらも礼二の頬や耳たぶにそっと撫でるように触れてくる佐藤の指先は不思議と優しかった。
「礼二様みたいなタイプの人間を実際に見るのは、はじめてなんですよね」
佐藤がふいに、そんな事を言い出して、礼二を興味深げにまじまじとまるでモルモットでも観察しているような目で見ていた。
「礼二様の行動や言動がおかしいのは、精神的なものからくる病気かなんかじゃないかと思うんですよ」
唐突にそう言われた台詞の意味が礼二には理解出来ず、ただ不思議そうに佐藤を見上げる。
「先天性のものなのか、後天性のものなのかは解らないですけどね」
詳しい事情は解らないが、牛山礼二は美空翼と苗字が違うが兄弟であるらしい。
クラスメートの奴らとの会話で彼らの話で盛り上がり、自称、情報屋みたいな奴が仕入れてきた話によれば、礼二は翼よりか二つ年上で、二年遅れで入学してきたせいで同級生になっているそうだ。
何故、二年遅れてこの学園へ入学してきたのかは、憶測ではあるが、自宅で引きこもっていたか施設にいたのか、どちらなのかはわからないが、多分、面倒見切れなくなった親に見放されたのだろう。
と佐藤は思う。
実際、この学園に入れられる生徒にはそういった奴らが結構たくさんいたりするのだ。
全寮制の男子校であれば、表面上の世間体なんかを気にしている親であれば、特殊な施設に入れるよりか都合がよいのだろう。
なにか精神的なものでこの学園に入れられてきたような人物は礼二しかしらないが、何か悪い事をした不良とかでこの学園に入れられたような上級生は結構いるらしい。
礼二は自分のやりたい事をして自分を偽らずに素のままで生きているようだが、その実は自分よりか遥かに可哀相で劣る生き物だろうと思った
唯一、今、近くにいる血縁者である弟にすら煩わしく思われているのであれば尚更だ。
「親に見放されて、翼君にも煩わしがられて、礼二様は可哀相ですね」
そう憐れみを含んだ目でみて優しく頬を撫でてやる。
そうしながらも、彼の内側を突いて腰を動かして、きゅうきゅうと絡みついてくる、熱を帯びた柔らかい粘膜を尖端でえぐるように擦って、肉棒をぐしゅぐしゅと出し入れする。
「は、ああああぁぁっ!」
「でも、僕だけは、違う」
「あ、んんっ、ふう……あっ、あぁっ」
「こうやって貴方をちゃんと、必要として愛してあげますから……」
「ふあっあっ! ああん」
「だから、ほら、貴方も僕を必要として、欲しがって下さい、ね?」
佐藤はそう言って礼二を優しげな目で見てから、出ていく雄を追い掛けるように中の壁がざわめいて絡み付き、名残惜し気に吸い付いてくるのに逆らってずくずくと突き入れていた肉棒を突然に、ずるりと彼の中から引き抜いた。
いきなり、与えられていた快楽を取り上げられて、残念がるような声が礼二の唇から漏れた。
肉棒に中を散々突かれて掻き回されていたのを、引き抜かれて閉じきらなくなった、穴がぽっかりと内部の薄赤い粘膜を覗かせてヒクヒクと開いたり閉じたりを繰り返す。
奥がジンジンして切なく疼いて、今まで与えられていたものがなくなった喪失感で、礼二がまたわけも分からないままに、めそめそと泣き出した。
中の疼きをどうにかして欲しくて、甘えたような目で佐藤を見上げながらしゃくり上げる。
「礼二様? 僕が欲しいですか?」
そう聞かれて、礼二はこくんと頷いた。
中途半端に快楽を取り上げられた喪失感が辛くて、わけもわからずに。
「ちゃんと、口に出して、どうして欲しいのか言えたら、また、あげますよ、ほら、ね?」
佐藤は、静かに優しい声でそう言いながら、ぽっかりと中の粘膜を覗かせた腫れた、入り口を亀頭部分でにゅるにゅると擦るようにして礼二がおねだりしてくるように催促する。
「うーー!」
礼二はこの期に及んで意味を成さない声を出しながら首を左右に振りたくった。
「言わないと、ずっとこのままですけど、いいんですか?」
「や……」
またふるふると涙目で首を左右に振る礼二を見て佐藤は苦笑した。
「なら、口に出して言って下さい。
なにも分かってなくても、ちゃんと礼二様の言葉で」
「あ……なか、さっきみたいなの……」
礼二がわけもわからずに、たどたどしい幼げな言葉でそう呟いた。
「さっき? どうされてたんですか?」
「いっぱい、おしりのなか、ぐちゅぐちゅされてた……」
礼二がそう言って自分をおどおどと見上げてくるのを見て佐藤はにこにこと微笑んで彼の頬を撫でた。
「それで、礼二様は今、どうして欲しいの?」
小さい子供に聞く時のような声色でそう言った。
「さっきみたいなの、また、してほしい」
「礼二様は僕のチンポで、またお尻の穴の中、ズポズポして欲しいんですか?」
「うん」
確かに頷いたのを見て、佐藤は礼二をぎゅっと抱きしめた。
誰からも特別扱いされたことがなくて、誰からも必要とされたことのない僕を、礼二様が、欲しがってくれたんだ……
そう思って、佐藤は込み上げてくる嬉しさに、堪らなくなって、さっき一度は拒絶された口付けを再び彼にする。
薄く開いた、礼二の唇に舌を差し込んでキスをしても、今度は拒絶されなかった。
「ふ……はぁ」
ぴちゃぴちゃと音をたてて、彼の口の中を掻き交ぜるようにして、舌先で存分に味わってから唇を離すと名残惜しむようにぬめりを帯びた唾液が橋を作った。
「ん……」
礼二がもじもじと縛られたままの両足を動かして、体の奥の疼きに、耐えて切なげに眉をしかめる。
「むずむずして、なか、へんぁから……」
そう呟きながら、押し宛てられたままの肉棒に入り口を擦り付けるようにゆるゆる腰を動かして、無意識に男を誘った。
本当に、かわいそうなくらい、どうしようもない、淫乱体質だ。
彼の無意識のおねだりに気をよくしつつ、佐藤は入り口に押し宛てていた肉棒をヒクヒクと雄を待ちわびて恋しがっているその肉筒の中へと突き入れた。
「ひゃい……はいっれきひゃああぁぁーーっ! あ゛ーーっ!あ゛ーーーっ!!!」
礼二がそう叫びながら、突き入れられた途端に今度は射精をしながら、びゅるびゅると精液を吐き出して、ビクビクと腰を跳ね上げて痙攣するようにぶるぶると震えながらイってしまう。
いままで散々、突かれて、押し広げられて、柔らかくなった肉壁は難なく待ちわびていた雄を飲み込んで、まるで、もう片時も離すまいとでも言うように、ぎゅうぎゅうと絡みつき締め付けてきた。
「ふああぁぁぁ」
射精をした後もまだしばらくは引かない、快感で、また、あっちの世界へと旅立ってしまった彼を正気に戻そうとして、腫れたままで戻らなくなり、弄られていなくてもずっと勃起したままの両方の乳首をぎゅっと親指と人差し指でつまんでぐりぐりと押しつぶすようにこねてやる。
「ひやぁ……そこぁ、ら、めぇっ!」
イったばかりで敏感になった乳首を虐められてぶるぶると反応を返して何も映さなくなった、怯えたような色を含んだ紅い瞳で上目使いに恐々と見上げてくる。
また、貶めるような言葉で責められるのではないかと悲しげな瞳からはぼろぼろと、とめどなく涙が溢れて頬を伝い、流れ落ちていった。
「はは、礼二様は本当、泣き虫だなぁ……」
佐藤は穏やかな声色で、そう言いながら礼二の頬を伝う涙を手の平でそっと優しく拭ってやった。
まるで、小さな子供みたいだと、思いながらイッたばかりで乱れた彼の息が整うまで、しばらく、入れたままで動かずにいてやろうかと思った。
「んん、ふ……ぁ」
「礼二様? 大丈夫ですか?」
「う、あ……ぁい」
礼二がたどたどしいながらもそう返事をして、緩く頷いたのを見て、ゆるゆると腰を動かして肉棒を出し入れしてやると、相変わらず、中の媚肉がピクピクと嬉しそうに雄に絡みついてきゅんきゅん吸い付いてきた。
「礼二様の中のお肉がきゅうきゅう絡みついてきますね」
わざとそう口に出して彼の内部がどうなっているのか、言い聞かせてやる。
「今、僕ので突かれて、礼二様の中、どうなってるんですか?」
ゆるゆると肉棒を出し入れして腰を動かして肉壁を擦るように亀頭部分で彼のいいところを押し上げるように中で揺すりながら、彼の反応を見る。
「は、ああああぁぁ……うっ、ああん、おくぅ……」
「おく? 奥がどうしたんですか?」
「あっ! ジンジンしてぅ……」
「それで、ジンジンしてる以外にはどうなってるか解ります?」
「ふああ……なかが、あっつくて、むずむずし、て、へんぁ……」
自分がされていることでどう、感じているのか言わせてはみたが、どういうことなのかを理解させることは出来なさそうだ。
佐藤はそう考えながらも、そういうときは、どんな言葉で男を喜ばせたらいいのかを教えてやる。
「それが、気持ちいいってことです。ね、口に出して、言ってみてください、ほら」
そう、言いながら、ぐちゅりと強めに突き入れて中で小刻みに肉棒を揺するようにして動かしてやる。
「ひああっ! ひもち、い、気持ち、いい!」
「どこが、どう、気持ち、いいんですか?」
ぐっと腰を動かして肉棒をぐちゅぐちゅと抽挿しながら、先を言うように促した。
「おくぅ……おくが、あっつくて、ジンジンして、気持ちぃ……」
「こうやって、僕のおちんちんで、突かれると、奥が、気持ちいいんですね?」
ゆるゆると動かしていた腰の動きを、徐々に早めて突き入れながら、佐藤は内心ほくそえんだ。
礼二様が、こんなに、快楽に弱い体質だったことは予想外だったが、こういう風に彼を気持ちよくして、快楽を与えてやれるのは自分だけなのだと、体に憶えこませることが出来れば、彼を自分の物にできるだろうか?
たとえ、今後、礼二が誰か違う相手に抱かれたとしても、自分が彼の初めての男であるという事実は変わることはない。
それこそ、彼が死んでも決して消すことはできない。
そういった、意味では、すでに自分は彼の中で特別な存在であり、こうやって彼を今、抱いているのは、他の誰でもなく自分なのだという、事実に、佐藤は満足げに微笑んだ。
これは、僕だけのものだ……
「あっあっあっ! ああん、ひもちぃ、あああん」
「はは、礼二様がこんなに、喜んでくれるなんて、思いも、しなかったですよ」
「ふああぁ、おくに、おくに、あたってぅ!」
「ここ、ですか? もっと激しく突いて欲しいんですか?」
そう聞きながら、彼の膝裏を掴んで、まんぐり返しにしながら、ズボズボと音を立てて、乱暴に最奥までガンガン突いてやる。
「あ゛ーーーっ! らめえぇっ! おかひくなっちゃ……! ひぃんっ!」
パンパンと音を響かせながら、肉棒を激しく腰を使って掻き回すように中で動かして、出し入れしてやると、そんなことを言い出した。
それが、おかしくて、クスクスとつい笑い声が漏れてしまう。
おかしくなるも何も元から、普通じゃなかったくせして。
自分が、異常であることに、彼は自覚がないのだから、仕方ないのだろうけれど。
「はは、いいんですよ、もっとおかしくなっちゃえば」
「んああああああっ!」
「僕は、どんな貴方でもこうやって愛してあげますから、ね?」
「ひゃ、あぁああっあっ! あああぁっ!」
根こそぎ精を搾り取ろうとするかのような、内壁の動きに逆らってぐちゅぐちゅと卑猥な水音を響かせながら、突き入れ続けてしばらくして、限界が近くなり射精感がこみ上げてくる。
このまま、中に出してもいいものだろうか?
事後処理のことを考えれば、中に出すのは、なにかと面倒だ。
けれど、せっかく、こうして礼二様と初めて結ばれたのだし、中に出してやってもいいかもしれない。
彼は、羞恥心と言うものが、欠落しているのだから、行為が終わった後に指を使って掻き出して始末してやればいい。
中に指を突っ込まれて、精液を掻き出されることくらい、何も感じないだろう。
佐藤はそう考えながら、触れて欲しそうに勃起したままの彼の両方の乳首を人差し指と親指で絞るように摘み上げて、内奥目掛けて、ずくずくと突き上げてやる。
「んひゃ、あっあぁっ!」
乳首を摘んでぐりぐりと押しつぶすようにして虐めてやると、嬉しそうに中がぎゅっと締まり礼二が悲鳴のようなあえぎ声を上げて涙とよだれでぐしゃぐしゃの顔を綻ばせた。
「ふあああぁぁっ……」
薄く開いた唇が、弧を描いて緩んで微笑んでいるように見える。
快楽に酔った緩んだいやらしすぎる彼の表情を見ていると射精感がより高まってくる。
「はあ、はあ……はは、礼二様は乳首を抓られながらハメられるのが、大好きみたいですね?」
「あっあああああっ!」
「くっ、はあはあ、礼二様の中の肉が、乳首弄るたびに、ぎゅうぎゅう僕のに、食いついて、これじゃあ、抜きたくても、抜けないじゃないですか……」
「ふああああっ! あっ、あっ!」
「……そろそろ、中に出しますよ」
「ふえ……? あっ! ああんっ!」
「はあ、礼二様のいやらしい穴に、収まりきらないくらい、僕の精液、中に、出してあげます……」
佐藤はそう言いながら、高まっていく射精感を抑えて、最後にめいいっぱい限界にまで彼の最奥めがけて、突き上げると、たどり着いた、届く限りの奥で精液を吐き出した。
「あ゛ーーーーっ! でてうぅ……! たくさん、おなかいっぱいぃぃっ!」
礼二がそう叫びながら最奥に出されて、三回目になる射精をしながら、びくびくと腰を跳ね上げて、涙と涎と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにさせながら、絶頂を迎えた。
ぶるぶると太股の筋肉を引きつらせて、痙攣を繰り返し、内側の粘膜がぎちぎちと締り、雄が吐き出した精液を一滴残らず搾り取ろうとするかのような動きを見せた。
「くっ、はあ……すごい、中が、すごい締まって、絡み付いてくる……」
そう言いながら、中の粘膜に絞りあげられるままに最後の一滴まで、礼二の体内へと精液を注ぎ込んでから、佐藤はずるりと肉棒を引き抜いた。
「はぁ……んくっ」
顔中の体液でぐしゃぐしゃのままで笑みがこぼれたような恍惚とした表情を貼り付けたままの彼が、ピクピクと内股を痙攣させた。
ぽっかりと開いたままで、閉じきらず、中の粘膜を無防備に曝したままの、ふちがめくれあがって腫れた穴から、佐藤が今しがた注ぎ込んだ精液が、ぼたぼたと零れ、溢れ出した。
後ろの穴からまるで射精をしているような勢いで精液があとからあとから溢れ出して礼二の下肢を汚した。
腸内の粘膜から噴出す精液を見て、佐藤は、礼二を自分だけのものにしたような、征服感に陶酔しながら、その光景を見ていた。
しばらくしてから、佐藤は、既にぼろ雑巾と化してぐしゃぐしゃになって、床に散らばっている、自らの上着を拾いあげると、彼の尻の狭間にあてがった。
双丘を伝いごぷごぷと排泄音をたてながら、床へと滴る精液をある程度拭きとって清めてから、尻の下へとそれを敷いて、ぽっかりと口を開けたままの入り口へと指を差し入れて、中に残っている精液も掻き出していった。
奥からどんどん溢れてくる精液を掻き出しながら、礼二を見やると、彼は、緩んだ表情をそのままにすやすやと眠り込んでいた。
三回も射精させられた疲労感から睡魔に耐えられなくなったのだろう。
射精をせずにイッたのも数えれば四回は果てたはずだ。
快楽に弱い体なら、なおさら、体力の消耗は激しいだろう。
中から精液が出てこなくなるまで掻き出して、ふき取り、下肢の始末を終えると、手足を拘束するのに使っていた包帯を解いてやり、両足首にぐしゃぐしゃに丸まって絡みついたスラックスも脱がせてやる。
拘束を解いても、ずっと同じ姿勢で固定されたままだった礼二は、しどけなく足を開いたまま寝息をたてており、開いたままの足を掴んでそっと閉じさせてやる。
涙と鼻水と汗でぐしゃぐしゃの礼二の顔を拭いてやり、首筋や胸、腹部に飛び散った彼の精液を、脱がせたばかりのぼろ雑巾と化した下穿きで綺麗に拭ってやる。
事後の残り香は消すことができないので、後で、香水でも使ってごまかすしかないだろう。
佐藤はそんなことを考えながら、自分のぐしゃぐしゃの上着の胸ポケットから携帯電話を取り出して、どこかへとかけてしばらく待った。
数回のコール音がした後にしばらくして、相手の声が聞こえてきた。
『もしもーし! 博文?!』
電話口に出た相手は、佐藤の幼なじみでいつもつるんでいる鈴木裕二だ。
『昼飯食いにいく約束してたじゃないっすか! もう、今、十三時過ぎっスよ?!』
『ああ、そういや、そうだったっけ』
佐藤はそう答えながら鈴木としたらしい約束をすっかり忘れていたことを思い出した。
『そうだったっけじゃないっスよ! 腹減りすぎて死にそうになったじゃないすか!』
『コンビニででもなんか買ってきて先に食っとけばよかっただろ?』
『そりゃまあ、そうなんすけどね……』
『そんなことより、ちょっと、持ってきて欲しいものがあるから、僕が今いる場所にまで来てくれないか?』
『持ってきて欲しいもの? 今どこにいるんスか?』
『ああ、今、メールでリスト送るわ。 いる場所も書いておくから、頼んだもの持ってきてくれよ』
『なんか、よう解らんまま、はぐらかされた気がするっスけど、わかったっス!』
『ああ、誰にもばれないようにしてこいよ』
『はあ? なんで?!』
『いいから、頼んだぞ。 あと、なるべく速く来いよ!』
『……まあ、わかったっス。 この貸しは高くしとくっスからね』
ブツンッ!
そう鈴木が言ったすぐ後に電話が切れた。
佐藤は、メール画面を立ち上げて、必要なものリストを早打ちでプチプチと打ち込んで書き込むと鈴木の携帯に送信した。
□
一方その頃の翼達は――
学生寮の玄関口にまで来た翼達は、佐藤がどこに連れ去られたのか、検討がつかずに右往左往していた。
佐藤が連れ去られてから既に一時間以上の時間が経過している。
やばい。
すでに、手遅れかもしれない。
しかし、この学生寮館から外へは出ていないはずだ。
それは、確かなのだ。
礼二と、佐藤の靴箱を開いて何回も確認したが、外履きの靴は残されたままだからだ。
「おかしい。 これ以上何処を探せばいいって言うんだ?」
翼は焦りを覚えつつ誰に言うでもないにそう呟いて首を傾げる。
「どこか、まだ探していない、見落としている場所がきっとどこかにあるはずだお!」
「確かに、この寮館の広さは結構なもんだからな……」
馨が言った台詞を聞いて和成が顎に手を宛てて何か思案するときのようなポーズをとって天井をなんの気なしに見上げていた。
「あああ、既に手遅れで、佐藤のヤツが肉片にされてたら、終わりだ……」
翼は、一番最悪の事態を想像してしまい頭を抱えていた。
軽いストレス性の偏頭痛に悩まされる。
眉間を左手の人差し指と親指でつまんで頭痛を和らげようとする。
俺が望んでいた平穏な学園生活はもう手の届かない場所へとすり抜けていってしまった。
俺はこのままでは確実にストレスで髪が薄くなりはげてしまうだろう。
実際、俺の母親は幼い頃の兄貴のせいでストレス性の十円ハゲに悩まされていた。
今は薄毛をごまかす、女性用のカツラというかウィッグをしているくらいなのだ。
再婚相手である俺の義理の父親は、それをまだ、知らない。
それは、まあ、いいとして、とにかく速く兄貴を見つけ出さないと、全てが終わってしまう。
苗字は違えど血が繋がっているのだ。
殺人鬼が血縁者にいるなんて事態になれば、社会的にはもう一族郎党、全員、抹殺されたも同然の生活になるに違いない。
俺はそこまで考えて、顔を上げると前を向いた。
「そういや、まだ、トイレとか、物置とか、そう言うところを捜してなかったような気がする……」
そう、気がついて言い出した翼の台詞を聞いて、馨と和成が頷いた。
「よし、手分けして探そうじゃないかっ! ぼかぁ三階を探すから和成君は二階を探してくれまいか」
「……ああ、じゃあ、行って来る」
和成が軽くひらひらと手を振ってから上の階へ続く階段がある方角へと駆け出した。
馨も三階へと向かうためにその後へと続いて早足で向かっていった。
二人の背中を見送ってから、俺は見落としている場所を探すためにまだ見ていないと思しき場所を思いついた順に見ていくことにした。
とりあえず、まずは、トイレとか浴場とかそこらへんをしらみつぶしに探そう。
そう考えて、翼は、玄関口から広間へ続く廊下を駆け抜けていった。
実際に礼二が居る場所は、玄関口左奥の離れにある物置であるのだが、翼は気付かずに広間へと続く廊下を戻っていく。
□
そして時を同じくして、鈴木は佐藤に頼まれたものをそろえるために、購買部へと来ていた。
――ショッピングモール内。
にある購買部。
鈴木は用品店や衣類店をまわり、自分の携帯に送られてきたメールに書かれているリストの品物を上から順に揃えてゆく。
が、そのリストに書かれている品の不可解さに首を傾げていた。
着替え用にジャージかなにかってのは、まあ解るとして、二着とかなんでなんすか。
そのくせ、下着は一着分でいいとか……
でもって、ウェットティッシュにタオルを三、四枚に、バスタオルに、中身が透けて見えないようなビニール袋と、紙袋に香水かデオドラントスプレー……あと、ガーゼと消毒液と包帯?!
なんなんすか?!
怪我でもしたんじゃないのか?
と、すると、今日、飯食いに行く約束して待ち合わせ場所に来なかったのは、それが原因とかだったっスかね……?
ともあれ、そうと決ったわけではないのだが、なんだか心配になってきた鈴木は佐藤に荷物を持ってきて引き渡すように頼まれ指示された場所へと足早に向かう。
寮館の玄関口、左端奥の離れにあるらしい物置へ――
つか、そんな場所、あったっけ?
この学園に入学してくる前に、寮館内も見て回ったはずだがそんな場所は見なかったし、注意深く見なければ気がつかないような細い隠し廊下のようなところを通り抜けなければいけない場所らしい。
なぜにそんな、見付けにくい場所にいるのか……そう思いながら、手書き機能つきのメールで書かれた寮館内の地図を頼りに指定された場所へと向かった。
寮館へとたどり着き、玄関口を通り抜けて靴箱に靴をしまい、スリッパに履き替える。
玄関口左側へと向かうと、人一人がかろうじて通り抜けられるような細い廊下が見えて、そこをまっすぐにしばらく突き進んだ突き当たりに、古びた扉が見えてきた。
佐藤が指示した物置はこの場所だろうかと思いつつ、ドアの前にドサドサと持って来いと頼まれた荷物を置くと一応ちゃんと中に人がいるかどうかの確認のためにノックする。
コンコンとドアをノックする音を聞いた相手が返事を返す。
「ああ、裕二か?」
間違いなく、佐藤の声である。
「博文! 頼まれたもの、そろえて持ってきたんスけどーー?」
「思ってたよりか大分早かったな」
「いや、リストに、包帯とかあったから博文が怪我でもしたんじゃないかと思って……」
「なるほどな。 まあ、たいした怪我じゃない」
佐藤はそう言いつつ、眠り込んでいる礼二の左手の傷口を見やる。
多少血は滲んでいるが、縫い口が解けてはいない。
消毒して、また新しい包帯に換えてやれば、多分、大丈夫だろう。
どういった理由でした怪我なのかとかまでは知らないが……
そんなことを思いつつ、一枚の扉を隔てた先にいる鈴木に礼を言う。
「さんきゅ。 荷物はドアの前に置いといてくれればいいから、先に寮室に帰って、風呂でも沸かしといてくれよ」
と続けざまに言った。
「先にって俺と博文と同室だったんすか?」
鈴木はまだ部屋分け表を確認していなかったために礼二と佐藤が部屋を交換して入れ替わったことを知らなかった。
「ああ。 本当は、僕は美空君と同室で、裕二が礼二様と同室だったんだけどな」
「えぇっ?! 俺、礼二様とルームメイト?!」
鈴木が嬉々とした色を含んだ声でそう聞き返してくるのを聞いて佐藤は苦笑しながら答えた。
「そうだったんだけど、礼二様に頼まれて、部屋変わったから」
「マジっすか?! 俺に相談もなしにっすか?!」
「だいたい、礼二様にまともに意見出来そうで言うこと聞かせられそうな人物は美空君しかいないわけだし、彼のほうが、礼二様のルームメイトとしては適任だろうと思っただけだよ」
佐藤がそう言ったことは、もっともなので、鈴木は多少、残念な気持ちはあるが納得して頷いた。
「んーーまあ、そう言われると確かにそうなんすけどね……で、何号室に帰ればいいんスか?」
「39号室だ」
「おお、とりあえず了解したっス!」
「じゃあ、頼んだぞ」
佐藤にそういわれて鈴木は答えつつもなにか腑に落ちない点があるので、それを去り際にそれとなく疑問に感じる点を聞いてみた。
「博文が俺にさえ姿を見せずに、ドアを開けて直接、荷物を受け取れない理由ってなんなんすか?」
鋭い指摘を去り際にされた佐藤は、少し詰まって沈黙してから、こう答えた。
「……今はまだ言えない。 そのうち、落ち着いてからちゃんと話すよ」
「はは、わかったすよ。 じゃあ、後でな!」
それを聞いた鈴木は、しょうがないなぁといったニュアンスを含んだ声で笑い、頷き、返事をしてからその場を後にして、今しがた通り抜けてきた来た細い廊下を戻り、去っていった。
佐藤は鈴木の足音がしなくなったのを確認してから、物置の鍵を開けてドアを開いた。
ドアの前に置かれた荷物を手にとるとまた、物置の扉を閉めて鍵をかけた。
とりあえず、事後処理をちゃんとして礼二を綺麗に清めてやってから、着替えさせて、ぼろ雑巾と化した制服はビニール袋に入れてから紙袋に入れて持ち帰り、手洗いしてからクリーニングに出さなければと考えていた。
眠り込んでいる礼二をウェットティッシュで拭き、タオルでさらに拭いて、綺麗にしてやると、香水をふきつけてからジャージに着替えさせる。
そうやってしてから、消毒液とガーゼと包帯を取り出して彼の左手を治療しなおして元どうりにしてやる。
あとは自分も着替えて、汚れた制服を持ち帰って手洗いして、クリーニングに出せば物的証拠は残らないだろうか。
礼二と肉体関係を持ったと言うことが解る、残された証拠らしい証拠といえば、彼の首筋や鎖骨や胸元に、わざとらしくつけたキスマークに翼が気付くかどうかということだけだ。
これは、佐藤がわざと翼を試すためにつけたものであるわけだから、気付かなければ、翼にとっての礼二がその程度の存在でしか無いということがわかる。
その時は、かわいそうな礼二を慰めてやり、なんの問題もなしに自分のものにできるだろう――
とそう考えて、佐藤はいまだ眠り込んだままで、幼く見える礼二の瞼にかかる前髪を優しい手つきで、掻き分けて額に口付けて、最後の名残を惜しむように彼の体のラインをなぞって、確かめるようにして手の平でそっと撫でてから、ぎゅっと抱きしめた。
そして、佐藤は自分用の替えである真新しいジャージを紙袋から取り出して着替え、首筋や手首に軽く香水を吹きかけて手の平でさすり馴染ませて事後の残り香を消した。
さっき多少整えてたたんで揃えておいた礼二の制服と自分の制服と、あと、使用済みの汚れたタオルや包帯も拾い集めて、ビニール袋に纏めて入れて上部分を縛り密封してから紙袋にしまい込んで、腕に引っ掛けた。
そうしてから、眠り込んでいる礼二の両脇に手を差し込んで上半身を抱えて起き上がらせると、どうにかこうにか自分の背中へと負ぶさる形にして抱えあげてから立ち上がる。
狭い廊下を二人で横に並んで通り抜けることは不可能なため、眠り込んでいる礼二をおんぶする形で来た道を戻るしか選択肢はなく、仕方なしになのだが……。
礼二をおぶさって、彼を落とさないようになんとか片手で尻を支えて、物置の扉の鍵をまた開けて、ドアを開くとその場所を後にする。
とりあえずは、このまま玄関口まで戻ってから広間へと彼を連れて行けばいいだろう。
背中ごしに感じる礼二の体温と心音に不思議と安心感を憶えて、頬が緩んだ。
背負ってみて解ったことだが、彼は意外に体重が軽いため、あまり苦にはならなかった。
背が高いせいか、服を着ているときの彼は結構、重そうな印象を持っていたが、脱がせて見れば、全体的に肉つきが薄くて、余り無駄な筋肉もついていない華奢な体つきをしていた。
特に、ウエストが細い癖に、ベルトをしないでスラックスを穿いていたため、チャックを下ろさなくても簡単に引き摺り下ろして、脱がせることが出来そうだったのには、少し驚いた。
ベルト無しではなにかの拍子にそのうちズボンが落ちてしまうのではないかと思った。
ここは、男子校だから、そうなったところで露出狂だと通報される心配はないだろうが、別の意味で危ないような気がした。
大体からして、自分以外の男の目に彼の素肌を曝すのは余りいい気はしない。
思っていた以上に礼二にのめり込んでいる自分に佐藤は苦笑する。
独占欲は元から強い方ではあったのだが。
そんなことを考えて進んでいるうちに細い廊下を通り抜けて玄関口にまで辿りついた。
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