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近くて遠い【3】

     兄を抱きかかえたまま、脱衣所の扉を開けて中に入って行く。  浴室の扉を開けて、礼二を下ろして風呂イスに腰掛けさせるとそこでそのまま彼に待っているように言い聞かせて、脱衣所へと戻る。  いったん部屋へと戻り、衣服類とマジックで書かれたダンボールを開けて着替えを用意する。  片付けるのは明日にすればいいと、寝巻きとバスタオルを探して箱の中身をごそごそと漁り、見つけ出したそれを手にして、ベットルームへと向かう。  さっき脱がせた兄のジャージも回収していき、ベットシーツも引き剥がす。  汚れたシーツとジャージを手に脱衣所へと戻ってきた翼は自らの着ている服も手早く脱いで、全て纏めて洗濯機に、突っ込んで、洗剤をいれて、自動ボタンを押してから、浴室に向かった。  バスタオルや着替えを浴室前に備え付けられている籠に用意して整えてから、浴室の扉を開けて中に入ると、礼二が嬉しそうに戻ってきた翼を見上げた。  その間も乳首を弄りながら足の間に置いた手でくちゅくちゅと自身の性器をゆるゆるとこね回したりして自慰をする手は止まらないままだった。 「んん、あ、つばしゃぁ……」  舌ったらずにそう名前を呼ばれて翼はシャワーを手にお湯の熱さをぬるく調整してから彼の右肩辺りにかけてやる。 「兄貴。怪我してる左手にお湯がかかったら傷口にしみるから、手をのけておいてくれないか」      乳首を弄くり回している左手を掴んで退かせると礼二が不満げな声を出す。 「うーー……」  翼はある程度兄の体にお湯をかけて、汗や精液なんかの汚れを落として、シャワーのお湯をいったん止めて床に置いた。  ボディーソープを手に取り、適量を手の平にかけて彼の体に塗りつけて泡立てていく。  手の平でマッサージするようにして洗う方が肌にはいいらしいということを聞きかじっていた翼は体を洗うスポンジやナイロンタオルなどは使わない主義だった。  右腕、右肩、首、脇、胸と順に泡立てていき手の平でマッサージするようにして洗ってやる。  胸を撫で回して洗ってやると、礼二がもっととおねだりして翼を見上げてきた。 「あ、つばしゃぁ、もっとぉ……!」    兄の胸の先で自己を主張してずっと固く勃ち上がっている桜色の粒を泡に塗れた指でくるりとかき回すように弄ってやる。  しばらくそうして弄ってやってから、すっかり感じやすい場所になってしまったらしい彼の両方の乳首きゅっと摘み上げて聞く。 「ここ? もっと弄って欲しいのか?」 「あっ! そこ、もっとぉ!」  嬉しそうに顔を綻ばせてもっとと礼二がおねだりして膝立ちで自分の前にいる翼を上目使いに見上げた。     礼二におねだりされるままに翼は彼の乳首を絞りあげるようにぐりぐりと擦って愛撫を強めてやる。 「ふひゃあ、あああん!」 「兄貴は乳首をこうやって弄られるのが好きなの?」  翼にそう聞かれて礼二は、快楽に濡れてとろけた表情でうんうん頷いて、自分の陰茎を扱く動きを強めてぐちゅぐちゅと弄っていた。 「あっ、あっ! つばしゃぁ……!」  乳首を弄られてそう嬉しそうな声で鳴く兄を見て翼は、彼のこんな感じてあえいでいる姿を、自分より先に見て、汚した誰かに対する怒りが沸々とこみ上げてくるのを感じていた。  腫れ上がって勃起したままの乳首も、その誰かに散々弄られたせいで、そうなった訳で……  兄の目元には酷く泣きはらしたような痕が残っている。  その誰かは、大泣きして嫌がる兄をねじ伏せて無理矢理犯したんだろうか。  同姓同士でそう言うことをされた場合、特に男同士でとなると、どういうことになるのだろう?  兄に直接、誰に何をどうされたのか聞いたところでまともな答えが返ってくるだろうか?  まず、自分がその誰かに強姦されたことを兄自身がどういう風に感じて、どういう風に思っているのかが解らないのだ。       泡でぬめった胸全体を揉むように撫でまわして、人差し指でくるくると乳輪を愛撫して、固く勃起したままの乳首を親指と中指で絞る様に摘み上げてから人差し指で先端を爪先で擦るようにしてやる。  さっき兄が自分で乳首を弄っていたときのやり方を真似してかりかりと擦ってやると、気持ちよさそうに喘ぐ。  緩く開いた口端から唾液が首筋を伝い、半開きの目は潤んで、頬は赤く染まっている。  浅く息を吐きながら、媚を売るような甘えた色を含んだ声を漏らす。  自分以外の誰かに犯られた時も兄はこんな表情をしてこんな声で喘いでいたのだろうか?  兄は、こういった行為をするということをどう思っているのだろうか?  翼がそんなことを考えていることを知らない、礼二は乳首を翼に弄られて、右手で握り込んだ陰茎の裏筋あたりに軽く爪を立てて、ぐちゅぐちゅと夢中になって扱いていた。 「ふあっ、あん、あああんっ! ひもちいぃっ!」  大量の先走りが溢れ出して、お漏らししたかのようにびしょびしょになって伝い、後ろの蕾まで蜜に濡れて陰茎を扱く手の動きにあわせるように、ヒクヒクと開いたり閉じたりを繰り返していた。  しきりに前だけを扱いているのに、決定的な何かが足りなくて、いつもみたいにいけなかった。  自分の体内にあるいいところを直接、掻き回して擦って貰わないといけない。      佐藤に、後ろでの快楽を覚えこまされて、もともとそっちの素質が強くあった礼二はもう既に前の刺激よりも内側にあるいいところを突き上げられる方が気持ちよく感じるまでになっていた。  どうしようもない淫乱体質だと佐藤が思っていたことはあながち間違ってはいない。  ゛翼君が礼二様がこんなだらし無い淫乱だって知ったら幻滅しちゃうかもしれないなぁ゛  佐藤が言っていたあの一言が礼二の胸に引っかかっていた。  翼に嫌われたくない!  そう思って礼二は自分が佐藤にされたことは彼には言わないと心に決めていた。  翼に嫌われたら死ぬしかないという極端な思考をもつ礼二は、佐藤の言いなりになる方を選んだというだけなのだ。  翼に嫌われることを考えれば、自分の体をいいようにされるなどどうと言うことはないと思った。  けれど、行為の後に、疲れきった体で、おぼろげな意識にたゆたうなかでも胸の痛みや罪悪感が消えずに残って礼二を苦しめていた。  心は翼だけを求めているのに、体は、翼以外の誰かに愛撫されても、突き入れられても感じる。  心と体はバラバラだった。      想いとは裏腹に誰に犯されても感じるような、だらしない体をしている自分が悪いのだと思った。  翼に対する想いを裏切るような行為を強要されて、セックスをしたのに、最後には結局、体の奥の疼きに任せて、快楽に飲まれて、自分から佐藤に入れて欲しいと懇願した。  自分から翼以外の男に犯して欲しいとお願いしたのだ。  それを翼に知られたら、生きていけないと思った。  佐藤に逆らったら、翼に全てぶちまけられる。  礼二が、どれだけ淫乱でだらしがなくて、尻穴に突っ込んでくれる男なら誰でもいいような好き物だと彼は翼に言うだろう。  翼に嫌われたくなくて、礼二は自分がされたことは誰にも言わずに黙っていようと考えた。  蕾の奥が疼いて、指を突き入れて掻き回したい衝動に駆られる。  自分で後ろの穴を指で掻き回して、ぐちゅぐちゅするところを翼に見られたら、淫乱だと罵られて嫌われるのだろうか?  礼二はそう思って疼きを我慢して堪えていたが、これは夢だと翼が言っていた事を思い出した。   翼が自分にえっちなことをしてくれるなんて夢でしかありえないと思った礼二は、陰茎を扱いていた手を止めると、ゆるゆると足を開いて、双丘を割り、濃い桃色をしたすぼまりのふちをめくり上げて、右手の親指と人差し指で押し開いて、内側の粘膜を外気に曝すようにして、広げて見せた。     めくれあがったふちを押し開くと、内部の粘膜が空気に曝されてヒクヒクと蠢いて、もっと強い刺激を求めて喘いでいる。  礼二の目の前で膝立ちになって、彼の乳首を弄っていた翼は愛撫する手の動きを止めて、目を見開いて、その光景に見入っていた。 「あ、つばしゃぁ……ここに指入れてぐちゅぐちゅしてぇ……」  トロンとした半開きの目でいやらしい表情をして、上目遣いでそうおねだりする礼二を見て翼は、また、自身の欲望がそそり立つのを自覚していた。  兄が、自らの秘所を開いて見せて指を入れて欲しいと懇願する、その異常な光景から目が離せないでいた。  ついさっき薬を塗りこむのに、指を入れていたときの粘膜の感触を思い出して下半身が疼いた。  内部を掻き回す指にきゅうきゅうと絡みつき吸い付く粘膜のぬめりと温かさ。  この肉筒の中に突っ込んだら、擬似的に挿入する時なんかとは、比べ物にならないくらいの快感が得られるだろうと、思わずゴクリと喉を鳴らした。  自分の性嗜好が普通じゃないことに翼は落胆しつつも、やはり男同士だということや血の繋がった兄弟であるという倫理的な事に囚われて、最後の一線を超える訳にはいかない、と最後の理性を振り絞って、すぐにでも突き入れたい衝動に駆られるのを必死に堪えた。  そもそもまだ自分の礼二に対する気持ちがなんなのかすら解らないまま複雑な感情や思いも整理できていない。  兄の艶を帯びた姿や声に興奮すると言うことと、好きとか愛してるとかいう感情とはまた別であって、性欲と愛情は必ずしも一緒ではない。  自分にとっての兄が恋愛感情を持つ相手となりえるのか、はっきりするまでは最後の一線だけは超えられない。  そして翼はなにより普通であることを尊ぶ性質だった。  普通とはかけ離れた幼年時代を過ごして来た彼はいつしかなによりも普通であることを求めるようになっていた。  出来るだけ目立つことのないようにひっそりと周囲に溶け込んで、なんてことのない生活をすることで作り上げられた環境が彼が一番安心できる場所だった。  変化がなくても平凡でも何事もなく穏やかに時を過ごせることが翼にとっては何よりの至福だった。  そんな、彼の゛普通゛を打ち壊す存在である、兄の出現に戸惑い、軽い苛立ちを覚えていたのも事実だった。  父親との会話で全ての事情を聞いて現状を把握して兄と向き合う覚悟をした今はそれほどでもないにしろ礼二に対して複雑な感情を抱いているのは確かだった。

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