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近くて遠い【6】

   絶頂を迎えたばかりでいまだ快感に身を震わせてまどろんだままの礼二の頬をぺちぺちと軽く叩いて正気に戻してやろうとした。 「んぅ……」  礼二がピクリと反応を返しまどろんで、半分眠ったような瞳で翼を見返した。  このままでは湯冷めしてしまって風邪を引いてしまうかもしれない。  ただでさえ病み上がりの身体に無理をさせてしまったのだから、はやく風呂から上がらせて寝かせてやらなければ……。  礼二の全身を手の平でマッサージするように撫でて、洗い終えた翼は彼の肌に残る泡をぬるま湯にしたシャワーでざっと洗い流した。  自身の陰茎が勃起したままなのはこの際、後回しでいい。  翼はそう思い、礼二の膝裏に腕を通し、彼を姫抱きにして抱え上げようとした。  彼を寝かしつけてからトイレに行って、自分で処理しようと考えていた翼だったが、半分寝ぼけたような顔をした礼二が自分を抱き上げようとする翼を見上げて、嫌々をするように首を左右に振った。  膝立ち状態の翼を見上げ礼二は視線を下方に落として、人差し指を唇にくわえて彼の固く隆起した肉茎を物欲しげに見つめていた。 「つばしゃのせーえきもっとのむぅーー……」  礼二はくわえていた指を唇から離すと翼の陰茎へと手を伸ばした。  手の平で包み込むように翼の肉棒を掴むと上下に扱き始めた。 「ちょ、兄貴! ダメだって!」  翼は慌てて礼二を引きはがそうとするが、急所を握り込まれている為無理は出来ない状態だった。  無邪気に翼の陰茎を扱きながら礼二は風呂椅子から下りて彼の足の間に顔を寄せてひざまづいた。  そしてそのまま、桜色の唇を薄く開いて出した舌先で翼の亀頭の割れ目をなぞるように舐めて先走りをコクリと飲み込んだ。 「うっ! あ、兄貴っ!」  翼がビクリと腰を跳ね上げて掠れたような声をあげたのを聞いて、礼二はもっと気持ち良くしてあげようと、亀頭部分を大きく開いた口一杯に含んでちゅうちゅうと音を立てて吸い上げ始めた。 「うぅっ!!!」  翼は眉をしかめて目を閉じて、電流が背筋をかけぬけるような強烈過ぎる快感にビクリと身を強張らせてくぐもったような呻き声をあげる。    翼は兄が自身の肉棒を口にくわえて奉仕し始めたのを止めようと彼の頭を抱えるように手を置いたが、快感に負けて腕に力が入らずどうしても引き剥がすことが出来なかった。  礼二はくわえ込んだ亀頭部分の割れ目を口の中で舌先でなぞるように舐め上げて少しでも多くの先走りの液を飲みほそうとしてずるずると音を立てて啜りあげた。 「んふぅ……んっ、んっ」  礼二の舌先と唇による愛撫で快感に飲まれた翼は先をもっととねだるように無意識に礼二の頭をぎゅっと抱え込んで腰に押し付けるようにしていた。  礼二は翼に求められるままにちゅぱちゅぱとずっぽりと口に含んだ亀頭を吸い立てながら、裏筋に親指を立てて陰茎を根本から扱いて奉仕を続けた。  時折、空いている方の手で肉茎の下方にあるしこった二つの袋をぐにぐにと揉み、射精を促すように愛撫する。  割れ目をなぞっていた舌先は、先走りの液をねだるように尿道口の穴へと差し込まれ、中から染みだしてくる汁をほじるように掻き出して、唇をすぼめて吸い出して、音を立てて美味しそうに啜る。  礼二が少しでも多く翼の先走りの液を飲み下そうと無心に続ける奉仕は、彼の肉茎を悦ばせて質量を増させる。  口の中で膨らみ質量を増した陰茎を小さな口で精一杯くわえ込んで賢明に奉仕する礼二の姿に視覚的にもだんだんと煽られてゆく。  頬を赤く染めて、半開きの目で翼を上目遣いに見上げて、きつく亀頭を吸い上げて、両手で茎を握り込んで、ゴシゴシと強く扱き立てる。       なんの躊躇も恥じらいもなく、当たり前のように無心に行われるまるで食事のような礼二の奉仕が、翼の肉茎をこれ以上ない程に、悦ばせた。  血の繋がった実の兄が弟のペニスをくわえ込み、奉仕しているという現実離れした倒錯的な異常さもまた性的な快楽を高ぶらせるスパイスとなっていけない事をしているという罪悪感すら快感へとすり変わりだんだんと追い詰められていく。  とうとう限界を迎えそうになった翼は慌てて礼二の口から陰茎を引きずり出して離れようとしたが間に合わずに、吐き出した精液の大半が彼の顔へと降り注いだ。  べっとりと礼二の顔中に吐き散らされた精液が卑猥な線を描いて滴り落ちた。  翼は、イッたばかりでしばらく真っ白になったままでいたが、精液塗れのまま、また内部に残っている精液を啜って飲み下そうと礼二が亀頭をくわえ込んだ刺激で我に返った。  礼二は中に残った精液を飲み干すと、亀頭から口を離して傘部分に貯まった精液と竿部分を伝う精液を舌先で拭うようにペろりと舐め上げ始めた。 「はぁ、あ、兄貴……」  翼はイッたばかりの余韻を振り払うように礼二を引き離すと彼の顔に纏わり付いている精液をシャワーで洗い流そうとした。 「兄貴、ごめん、今、綺麗にしてやるから……」  と言ってぬるま湯をかけようとしたが、シャワーを持った手は礼二の手により押しのけられて拒絶された。  礼二は嫌々と首を左右に振ってから、顔についた精液を指先で掬い取るようにして拭うと口に含んで、コクリと飲み下した。  首筋や額や目元に散った精液を指先で掬い取っては、口へと運び、ペロペロと美味しそうに味わって飲み下していた。  翼はそんな兄を見て、またか、と額に手を宛てて、溜め息を盛大に吐き出した。  どう考えても美味しくなんてないだろうその汚液をうれしそうに飲み下している兄を見て、ガクリと肩を落とした。  しばらく待ってやって、ペろりと最後の精液を飲み下したであろう礼二に声をかける。 「兄貴、もういいか?」  そう聞かれて礼二がこくこくと頷いたのを見て翼はぬるま湯のシャワーを彼の顔にかけて精液の残り香を落とすように洗い流してやった。    翼は今度こそ湯冷めしないようにと、礼二の体に湯温が残りまだ温かなうちに浴室から連れ出そうと彼の膝裏に腕を回して、背中を支えて姫抱きにする形でそっと転ばないように気をつけながら抱きあげて立ち上がる。  礼二は、嬉しそうに翼の首にぎゅっとしがみついて、彼の首筋に擦り寄るように顔を埋める。  浴室の扉をスライドさせて開いて脱衣所へと礼二を連れて行き、風呂用のマットが敷かれた床へと腰を下ろさせると、洗濯機の横に設置されている籠にあらかじめ用意しておいた、バスタオルと着替えを手に取り、膝を付いて、兄の横に膝立ちで座る。  まだ開けられていないダンボールが、乱雑に置かれた室内を、転ばないように慎重に兄を抱きかかえてゆき、寝室へと辿りついて、開きっぱなしにしておいたドアを通り抜けて、奥にあるまだ使っていない方のベットへとそっと礼二を横たわらせて寝かせる。  さっき礼二が寝ていた方のベットは、ぐちゃぐちゃになったシーツを剥がしてしまったままなので、綺麗にベットメイクしなおして、新しいシーツに取り替えないと使えそうもなかった。  翼はベッド脇にあるサイドボードに置かれたままの軟膏を手に取ると、蓋を開けてまた指先に掬い取って、礼二の下着の中へと手を入れて、薬を奥まった場所にある蕾へと塗りつけて指を差し込んだ。  さっきは前立腺に触れて刺激してしまい失敗したのを反省して、今度はそこだけ避けるようにして、中まで薬をぐるりと塗りこめてから指を引き抜いて、腫れぼったくなり中の粘膜が引きずり出されて、花びらのようになっている痛々しいすぼまりを優しく指の腹で撫で付けるようにして、入り口の部分にもしっかりと薬を塗りつけてやった。  さっき塗りつけた薬はほとんど洗い流してしまったために再び付け直したのだが、今度は前立腺を刺激しないように気をつけながら塗ってやったおかげか、礼二はたいした反応もせずに、翼が自分の後孔へと薬を指で塗り込んでいくのを無心にじっと見ていた。  やはり、兄には羞恥心というものがなく、普通の人なら触れられることはおろか見られるのすら嫌がる場所を押し開いてもなんの反応も返さずに、不思議そうにただそれを見ている。  そんな状態の兄が男同士でする行為のことを知っていた可能性は低いのではないかと思う。  となると、礼二に性的ないたずらをした男は何も解っていない彼を無理矢理犯したということになる。  なにもわかっていなくても、嫌なことをされたりすればすぐに兄は大泣きして癇癪をおこすから、嫌がって多分、精一杯抵抗もしたんじゃないかと思う。  薬を塗りつけていた指を引き抜いて、めくって軽く引き下ろした下着と下衣を、引き上げて着せて整えてやってから、礼二の体に布団をかけてやり、薬を塗るのに使っていない方の手で彼の頭を撫でてやる。  さらさらとしたくせっ毛の柔らかな赤茶けた色をした髪を、梳くように撫でてやると礼二が嬉しそうな顔をして、翼を半開きの目で見上げる。  無邪気な顔で笑うその礼二の表情が、翼には痛々しく映り胸が苦しくなった。  まず頭にバスタオルをかぶせるようにしてわしゃわしゃと髪を拭いてやり、肩や腕、脇腹と順に全身に付いた水滴をぬぐってやり、さっきの籠から着替えを手に取り、礼二の足を持ち上げてするすると下着を穿かせてやってから、寝巻きに着替えさせてやる。  寝巻きのズボンも同様に礼二の片足づつ持ち上げて着せてやり、腰まで上げて上着を調えてやって一息ついた。  他人を着替えさせるだけでも結構疲れるものだと思いながら、自分の着替えを手にとって、大雑把に全身をバスタオルで拭いてからそそくさと自身の着替えも終えると、また礼二を抱き上げる。  礼二も抱き上げられるのをわかっているらしく、翼が抱き上げたときにしがみつきやすいように両手を広げて翼を見上げて待っていた。  相変わらず礼二の表情は半分寝たままのようなけだるそうな感じだった。  だがそれでいて、翼にだっこしてもらえるのが嬉しくて仕方ないような満足げな微笑を浮かべて、うっとりとした表情をしている。  あんな、激しい行為をした直後なのに、礼二の機嫌は頗るいい感じだった。  礼二を抱き上げると全身から力が抜けているせいで前よりかやっぱり重たく感じる。  あれだけのことをすればしばらくは足腰が立たなくなり、自力で歩行するのすら多分困難になるだろうと翼は思いつつ、脱衣所の扉を開いて、寝室へと向かった。     翼は無邪気に微笑んだ幸せそうな表情を貼り付けたままでまどろみだした礼二の額にそっと優しくキスをしてやる。 「いろいろあって疲れただろ? ゆっくり眠らないと治るものも治らないし、もう眠らないと……」 「ん……おやしゅみ?」  礼二が半開きの眠たそうな目を擦りながら、そう聞き返したのに翼は頷いた。  幼子を寝かしつける時のように掛け布団の上に手を置いてぽんぽんと胸元あたりを軽く叩いてやりながら、礼二を安心させるような穏やかな笑みを浮かべた。 「兄貴、おやすみ」  変に大人びたような優しげな翼の微笑んだ顔を見て、礼二は右手をのばして、握ったり開いたりして見せる。 「ん? なんだ?」  自分に差し出されるようにのばされた礼二の手を取り翼がそう聞き返した。 「手……ぎゅってして」  礼二がそう上目使いでお願いしてきたのを聞いて、翼は彼の手の平を掴んで、ぎゅっと握り締める。 「これで、いいか?」  礼二は翼にそう聞かれて 嬉しそうに笑うと頷いて瞼を閉じた。 「俺が眠るまで、手、ぎゅってしてて……一人ぼっちにしないで……」  そう瞼を閉じたまま呟いた礼二の目元に涙の雫が浮かび、微笑んでいた表情が寂しげな表情へと変わり、翼に繋いでもらった手をもう二度と離さないとでもいうように強く握り返してきた。 「翼に会えなくなって、ずっとずっと寂しかったの……」  幼い頃の言葉使いに戻ってしまった礼二はそう言い残してから、疲労に任せて緩やかに眠りへと落ちていった。 「兄貴……ごめんな。もう、何処にもいかないから、だから、あんまり無茶苦茶ばかりするなよ」  翼は空いている方の手をのばしてベッド脇に置いてあった椅子を引きずってきてその椅子に腰かけると一息ついた。  兄が深い眠りに付けるまでは側にいてやろうと思った。  今日、一日でいろいろ怖かった事や悲しかった事や兄もいろいろとあって疲れたのではないかと思う。  寂しかったと吐露して泣き出した礼二を見て翼は故意に兄へと会いに行く事をせずに避けてきた自分を今更ながら酷く後悔していた。

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