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二日目の朝【中編】

   なんとしてでも、翼と一緒に登校すると言い張る礼二をどうやって説得すべきか悩んだ末、翼は結局、制限付きで彼を連れて行くことにした。  翼は礼二の肩を掴むと、ベットに座るように促した。 「とりあえず、わかったから、ベットに座ってくれ」  歯を食いしばってぷるぷる堪えながら何とかして立っている、礼二が危なっかしくて仕方が無かったからである。 「いいか、兄貴、今から俺が言うことを、よく聞けよ」 「うん」 「学校に登校して、俺が今から言う約束事を守れなかった場合は即、保健室送りにするからな。そこで授業が終わるまで留守番だ」 「死守すればいいんだな!」 「そこまではいってねーよ……まあそれはそれとして、今から言う三つの約束を最低限、守れるように常に気に掛けるようにしてくれ」 「わかった!」 と念を押してから翼は礼二に三つの事を破らないように、約束させる。 ■一、無茶はしないこと。  例、自分の体を傷つける行為、体調が悪いのを無視して無理をしない。 後、他人様を傷つける行為はダメ、絶対。 ■二、俺の傍から離れないこと。  例、勝手に一人で校内を徘徊したり、目を放した隙に隠れたりしないこと。 要は、俺が目に付く範囲内から絶対に抜け出すなと言うこと。 ■三、他人に迷惑かけないこと   例、物を壊すことや人のものを勝手に持ちだしたりしない。 イスぶん投げるとか、窓ガラス叩き割るとか、盗んだバイクで走り出すとか、とにかくそういった行為はするな。 「いいか、この三か条を最低限守れないようなら、保健室送り決定だ」 「わかった!」 「じゃあ、具体的にどうすればいいのか言ってみ?」 「えーーと、翼にべったりくっついて、じっと動かないで、大人しくしてる」  礼二が、首をかしげながら人差し指を立てて、そう言うのを聞いて、翼は苦笑しつつも「まあ、それでもいいか……」と頷いた。  結局、無理はしないという条件付きで、礼二を一緒に連れて行くことにした翼は、寝室にある衣装ダンスの引き戸を開けて、礼二のスペアの制服を取り出した。 「じゃあ、兄貴、コレに着替えろ。自力で着替えられるか?」  「うん」  礼二が頷いたのを見て、翼はスペアの制服にかかったままのビニールを破り、取り出してからソレを手渡した。  それを受け取って着替えようと寝巻きの上のボタンを外し始めた礼二だったが、ふと手を止めてベットからおりて立ち上がろうとした。 「ちょっと待て! いきなりどうしたんだ」  ベットからおりて、力の入らない足で立ち上がってふらつき、倒れそうになる礼二を受け止める。 「おしっこ」  ああ、そうか、そういえば朝、起きてから兄はまだ用足しにいってなかったっけ。      翼はそう思いながら、ため息を付くと礼二の背中に腕を回して、両足の膝裏に腕を掛けて彼を抱き上げた。  昨夜、さんざん礼二を抱えて移動しまくったせいか、ふらつくこともなくしっかりとした足取りで歩くことができた。  脱力していない分、幾分か昨夜より軽く感じた。  礼二は、昨夜、同様、嬉しそうに翼の首にしがみ付いて抱きついた。 「夢とおんなじだ」  礼二は目を瞑り、幸せそうに顔を綻ばせながらそんなことを言い出した。 「夢?」  翼はそう反復して聞き返しながら昨夜、礼二に言ったことを思い出した。 ゛いいか、兄貴、これは夢だ ゛  そういえばそんなことを言ってごまかしたんだっけ……  翼はそれを思い出すと同時に、昨夜、礼二にしてしまった行為を思い出して、頬を紅に染める。 「昨日、翼にいっぱい、抱っこしてもらう夢みた!」  礼二が無邪気に笑いながらそう言うのを聞いて、翼も自然と表情が緩んだ。  兄貴は、小さい頃から本当に全然変わっていないな……。  変わってしまったのは寧ろ、俺の方だ。  翼はそんなことを思いながら、礼二を姫抱きで、手洗いまで連れて行き、なんとか片手でドアを開く。  抱きかかえた礼二を便座に座らせてから、頭を撫でてやる。 「後はもう一人でできるよな?」 「うん」  礼二は頷くのと同時に寝巻きの下衣と下着を纏めて掴んで引き摺り下ろした。 「ばっ! ちょっと待て! 俺が出て行ってドアを閉めてから脱げ!」  翼が慌てて、ドアノブを掴み退室して行くのを礼二は不思議そうに見上げる。  ドアを閉めて、背を持たれかけて預け、翼は胸を撫で下ろした。  間を置かずに、兄が尿を排出するちょろちょろとした音が聞こえてきて、翼は茹蛸のように耳まで紅くなった。  なんだか、俺一人で、馬鹿みたいに兄貴を意識してるみたいだ。  バクバク言ってる心臓を落ち着かせようと翼は胸部分の服を掴み、深呼吸する。  礼二が下衣と下着を纏めて脱いだ時に見てしまった、くびれた腰や白い腹、ピンク色の先端が脳裏に焼きついてしまったのをどうにかして振り払おうと、首を左右に振りたくった。  何とかして邪念を追い払うことが出来て、翼が落ち着きを取り戻した頃に、礼二がトイレの水を流す音が聞こえてきた。 「あ、兄貴。もうドア開けてもいいか?」 「うん」  礼二の返事を聞いてドアを開けようとしたが、ふと手を止めて、一応確認してみる。    「ちゃんとズボンと下着穿き終わったか?」 「うん」 「手は洗ったか?」 「うん」  それだけ確認してからやっと翼は便所のドアを開いた。  服をちゃんと身に着けて便座に腰掛けている礼二を確認して、胸を撫で下ろす。  まだ下半身、裸だったらどうしようかと気が気じゃなかったのだ。  背中に腕を回すと礼二はまた翼に抱っこして貰えるとばかりに、嬉しそうにしがみ付いてくる。  こんな風に、甘えられるのも、擦り寄られるのも、別に嫌いじゃない。  けど、人目があるところではそうはいかない。  だから、つい礼二にきつくあたってしまうのだが、二人きりの時なら幾分か素直になれるような気がした。

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