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二日目の朝【後編】

   礼二を抱き上げて、また寝室に戻ると、彼をベットにそっと座らせる。  「ほら、時間なくなるから、速く着替えて学校に行くぞ」  礼二の頭を撫でてやり、制服に着替えるように促すと、礼二は、ベットに置かれた真新しい制服を手に取り着替え始めた。  着替えてる最中の礼二を見ないようにして、翼は、サイドボードの横に立てかけておいた学生鞄を二つ手に取る。  鞄は兄貴に持たせて、俺が兄貴を背負って学園まで行くか……  いや、しかし、さすがに俺の体力と腕力ではこの広い敷地内を歩いて、校舎までたどりつけるか不安だ。  どうするべきか……そんなことを思案していると、44号室のインターホンが鳴り、来客があったことを伝える。  翼はベット脇にも備え付けられているインターホン用の内線電話の受話器を取る。 『はい、どちらさま?』 『僕だよ僕っ! この学園一の美形で名を馳せる、僕ですよっ!』  そんな知り合いはいないので翼は受話器を置いて切った。    間を置かずに、またインターホンがしつこくなるので翼は仕方なく受話器を取った。 『ごめん、ごめん、さっきのは軽い冗談だからっ!』 『なんだ馨か。なにか用があるんならさっさと言え』  翼はめんどくさそうにそう返す。 『いや、せっかくだから、一緒に登校しようかと思って』 『ああ、それは別に構わないんだが……』  翼はごそごそと 制服に何とか着替え終わり、ネクタイを締めようと、悪戦苦闘している礼二を見ながら、言葉を濁した。 『準備にまだ時間がかかりそうだって言うんなら、中で待たせてもらってもいいかいっ?』  そう馨に聞かれて、まあ、いいかと翼が返事をした。 『ああ、今、鍵開けにそっち行くからちょっと待て……』 『あざっす! 僕はいいんだけども、龍之介君が立っているのが辛そうで見てられなくてさーー』  龍之介もいるのか!と言うことは真澄の野郎も居るということか……  というか、龍之介のやつ、どうしたんだ?  それだけ馨と会話した後で、内線電話の受話器を切った。  翼は自分の制服を取り出して、そそくさと着替え終わると足早に玄関へと向かう。  玄関のドアノブにある鍵を開けて、チェーンロックを外して、ドアを開けて、馨達を迎え入れる。 「まだ整理してる途中だから散らかってるけど……」  そう言いながらドアを開けると、笑顔で手を振って「おはよう」と朝の挨拶を口にする馨と、その背後に相変わらず無愛想な顔をした和成が居る。  和成のさらに後にがくがくと、足元がおぼつかない龍之介と、そんな彼に今まさに肩を貸そうとして、その手を払われたばかりで、みるからに不機嫌な状態の、おっかなそうな真澄が立っていた。 「な、なにがあったんだ……?」  翼は背後に居る真澄と龍之介に悟られないように馨から詳しい事情を聞き出そうと小声で話しかけた。 「さ、さあ? でも昨夜、20時くらいに43号室から龍之介君の悲鳴というか雄叫びが大音響で聞こえてきて、びっくりしたんだけど、ソレが関係しているんじゃないかと……」   昨日の夜20時頃はちょうど俺がコンビ二に出掛けていたくらいの時間だな……  馨から聞いた話だけでは具体的に何があったかまではわからなかった。  無駄に熱くて、馬鹿正直な龍之介のことだ、本人に直接聞けばさらりと答えてくれるかもしれないな。  翼はそう思いつつ、とりあえず玄関の中へと馨達を招きいれて靴を脱いであがるように促す。 「とりあえず、先に部屋に上がれ。寝室にあるソファーが空いてるから、茶を用意する間、そこで待っててくれ」  翼にそう言われて靴を脱いでから玄関脇に立てかけてあるスリッパに履き替えてばたばたと部屋の中に入ってきた四人は寝室へと向かった。     途中振り返った龍之介が親指を立てて 「俺は出来れば茶よりスポドリ系のジュースで頼む!」 と無遠慮に言い残して、がくがくと足をもつれさせつつ、一番後に寝室へと向かった。  かなり、辛そうだが、無駄に元気があるのは龍之介の元来の性格からなのかどうなのかは解らないが、真澄になにかすごいお仕置きをされてああなったのは間違いないだろう。  どんな仕置きだったのか内容を聞きたいような、聞きたくないような……  そんなことを考えつつ台所へ向かい四人の来客に出すための茶を用意する。  急須に茶葉を入れ、ポットに沸かしてあるお湯を注ぎいれてしばらく蒸らして3つ取り出した湯飲みに注ぎいれる。  龍之介の分だけは、昨夜、礼二のために数本買い込んできたスポーツドリンクのペットボトル(500ml)があったので、それを冷蔵庫から取り出して掴んだ。  お茶とスポドリをトレイにのせるとそれを零さないように慎重に寝室まで運び、ソファーに腰掛けて談笑している四人に声を掛ける。 「ほら、茶を用意してきたから、火傷しないように気をつけて飲め。龍之介のはジュースでよかったんだよな」  そう言ってそれぞれに茶を取る様にトレイを差し出して、龍之介にはスポドリのペットボトルを手渡した。 「お! さんきゅー! 翼っ!」  龍之介は待ってましたとばかりにそれを受け取って開封するとぐびぐびと一気に飲み干して盛大に息を吐いた。 「ぷはーーっ! これだな!」  随分と喉渇きまくってたんだな龍之介のヤツ。  馨と和成はそれぞれに湯飲みを受け取り茶を冷ましつつ「いただきます」とちゃんと言ってから啜りだした。  が、真澄は茶は受け取らずに相変わらず人を小ばかにしたような見下した目でソファーに足を組んで尊大な態度で腰掛けつつ見上げて、ふふんと高圧的な態度で俺をあざ笑う。  相変わらずむかっ腹の立つ野郎だな……!  こんな庶民が飲むような、安物のお茶なんてこの僕が飲むとでも思ったの?馬鹿なの?死ぬの?とでも言わんばかりの目をしている。   翼は目には見えない青筋を立てながら怒りを押し留める。  相変わらず、ネクタイを締めようとずっと悪戦苦闘している礼二を見て翼は苦笑して彼のネクタイを締めてやり、頭にぽんと手をおいてやる。   そんな兄弟の微笑ましいやり取りを見て、馨がほのぼのとして緩んだ表情で茶を啜り、和成は無愛想だが心なしか口端に笑みを浮かべた。  龍之介はソファーに腰掛けたはいいが座り具合が悪いのかちょっと腰を浮かせては腰を下ろすを繰り返していて落ち着きがなかった。        真澄が飲まなかった分の茶は、トレイごとベット脇のサイドボードの上に置いた。  そんな龍之介を見て、ソファー脇に置いてあったクッションを手にした真澄がソレを渡す。  龍之介はむっとした顔をしつつもソレを受け取って尻の下に敷いてやっと腰を落ち着ける。  龍之介が昨夜、真澄にされたというお仕置きの内容が気になるのだが果たして直接聞いていいものかと翼は思っていたが、聞かないままで居て、もやもやするのもすっきりしないので、結局、ぶっちゃけて聞いてみることにした。 「非常に聞きにくいことなんだが、龍之介、お前足元がおぼつかなくて見るからによれよれなんだが、どうしたんだ?」  翼にぶっちゃけて聞かれた龍之介は、真澄を睨みつけると憤慨して「どうしたもこうしたもねーよ!」と言った。  そして続けざまに 「俺の尻穴がファイナルクラッシュした! 情けないが二足歩行すらままならない状態だ!」  と未も蓋もない言い方で足元がおぼつかない理由を暴露した。  それを真隣りで聞いていた和成はあわや手にした熱いお茶を湯飲みから零しそうになり、さらに隣りに座っていた馨は口に含んだ茶を少し噴き出してごほごほと咽ていた。 「龍之介君、品のない言い方をするのはやめてくれないか」  龍之介をこんな風にした張本人の真澄はやれやれと言った風に下品な発言はよしてくれたまえといわんばかりの態度で彼に注意した。 「うっせーよ、お前のせいでこうなってんだよ! 死ねよ馬鹿!」  諸悪の根源たる真澄に注意されて、腸煮えくり返った龍之介が真澄を指差しながら躊躇なくそう言い返した。  真澄に想像を絶するような仕置きを昨日されたばかりなのに、臆することなく平気で暴言の突っ込みを入れて、言い返せる龍之介はすごいと翼は思った。  こいつはきっと将来大物になるに違いないと改めてそう思った。 「龍乃介君、君は相変わらず学習能力が全く無いようだね」 「うるせーー! だいたい、真澄のちんこはでかすぎんだよ! だって女の手首ぐらいの太さがあるんだぞ! それを尻に突っ込まれるのを想像してみろ! 脱腸しなかったのだけが、救いだちくしょうめぇっ!!!」  と龍之介が昨夜、真澄にされたことを赤裸々に暴露したのを聞いて、それを想像してしまった翼は、さぁーーっと血の気が引いていくのを感じた。  女の手首ほどの太さのブツを突っ込まれたら、と考えるとかなりの恐怖だ。 「フィストファックされてるのとかわんねーんだぜ? 中身が引きずり出されそうで酷い拷問だった」  龍之介は続けてそう言いつつ昨夜、半ば無理矢理真澄にされた行為を思い出して身震いした。

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