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それぞれの過去~真澄×龍之介編~【8】
意識が朦朧としていたせいではっきりとした回数は龍之介は覚えていないものの、体はこれ以上は無理だ、と関節や筋肉が疲労してきしみ、既に限界を訴えていた。
「ふふ……まあいい。僕は君の言うことにだけは弱いからね。
けど、また約束を破ったらさらに君が飲まされるブツの回数が、もう千回増える事になるってのを覚えておくといい」
真澄が恐ろしいことを微笑を浮かべながら、言うのを聞いて龍之介は恐々と微かに震えながら頷いた。
「ううっ……わかった」
本当のところは全力で拒否して逃げ出したいのだが、後々どうなるのかを考えれば真澄の言うとうりにするしかなかった。
なにせ、相手は龍之介くらいなら簡単に取り押さえられるほどの力を持った男だ。
真澄より強くなるために、修行するメニューを強化した方がいいかと考えて龍之介は俯く。
正義の味方に憧れるあまり、自分が好きなヒーローと同じ色の髪に赤く染め、金色のカラーコンタクトまでして瞳の色まで変えている龍之介は、生粋のヒーローマニアだった。
実際、龍之介の部屋はその憧れのヒーローのポスターやらフィギュアで埋め尽くされており、DVDやゲームもすべて取り揃えられている熱中ぶりだ。
父親も龍之介に付き合わされて髪を赤く染めて同じ色のコンタクトをさせられていたりする。
龍之介はなにより、形から入る性質の人間だった。
だから、見た目に惑わされるのは身に染み付いており、仕方のないことだといえるかもしれない。
真澄は頷いた龍之介の手を取り、彼の小指に自らの小指を絡めて、強制的に指切りをさせる。
「じゃあ、ぜったいの約束だからね」
そう言って絡めた指を切った。
真澄が言ったその言葉にはかすかに聞き覚えがあった。
幼く、まだか弱い少女だった頃の真澄も言ったことがある言葉だった。
『本当に、本当の家族になってくれるの?』
『ああ。本当のぜったいだ!』
『じゃあ、ぜったいの約束だからね』
『おうっ! 約束破ったら針千本飲んでやる!』
『うん……』
そんなやり取りをしたことを思い出して、龍之介はまだガキだったころの自分を拳で思いっきりぶん殴ってやりたい気持ちになった。
無責任な発言ばっかしやがってクソ餓鬼が!
自分の事ながら昔の自分のあまりの浅はかさかげんに、今の龍之介は幼かった頃のなんとも無責任な自分の発言を悔い、怒りに熱くなった顔を覆い隠すしかない。
そうか、なにがあっても、どんなことがあっても約束を守ると宣言したのは確かに真澄が言うとおり自分のほうだったんだな……
そう思って、覆い隠していた顔から手をどけた。
゛絶対゛という短い言葉にはそういった意味があるのだ。
さらには幼い龍之介は『ぜったい』の前に『本当』までつけているのだ。
これでは自分の非から逃れようがない。
龍之介は少しだけ考え直して、自分の非を本当に認めて、しばらくの間、真澄の戯れごとに付き合うことにした。
千回なんてどう考えても無茶な話だが、できるところまでは彼に付き合って誠意を見せるべきかと考えた。
「約束破ってごめん……」
龍之介は真澄を振り返り、真剣な表情で彼の目を見て、初めてちゃんとした謝罪の言葉を短く簡潔に口にした。
真澄はそれを聞いて、切れ長の美しい鳶色の瞳を見開いて、意外そうな、少し驚いたような顔をしていた。
龍之介が振り返り、真澄の方を向いたため、彼の膝の上に乗り上げたまま、向かい合った形になる。
「「…………」」
二人はしばらくその状態で互いの腹中を探りあっているのか見詰め合ったままで沈黙していたが、不意に真澄が龍之介を抱き寄せて、彼の前髪を掻き分けて、額を露出させるとそこにキスをした。
幼い頃に龍之介からの初めての口付けを貰った場所はおでこだった。
そのまま瞼、頬へと続けてついばむようなキスをしてから、微笑を浮かべて唇が触れ合いそうな距離で止まり、龍之介の額に自分の額をつけて彼の大きな金色の瞳を見つめる。
真澄の鳶色の瞳と龍之介の金色の瞳に、互いの姿が映っているのが見えるほどに至近距離で、無言で向かい合ったままでいる。
龍之介は真澄の顔(かんばせ)を間近で見て、改めてその美貌に気付かされた。
切れ長で鳶色の美しい瞳に影を落とす長い睫、低くも高くもなく整った形の鼻に淡い桜色の唇、磁器のように白く、血管が透けて見えそうな透き通るような美しい、きめの細かい肌をしている。
昔のような可愛らしさはなくなったが、女性的な顔立ちはそのままで、美しさに磨きがかかっており、龍之介はその真澄の顔にしばし見惚れる。
しかしながら全体的にみると、首筋やうっすらと浮かぶ喉仏や角ばった広めの肩幅に、すらりと伸びた長い手足は筋張って、ところどころ血管が浮いており、彼が男であることを示している。
薄く均等良く筋肉に覆われた引き締まった身体は同性ながら見惚れるような美しさはある。
が、しかし、龍之介の下肢に当たっている真澄のそれは規格外の大きさでかなり凶悪だった。
男同士で、ましてやそれを受け入れさせられるなど、龍之介には想像すらできないありえないことで、真澄にされるまで自分がそんなことの対象に見られることすら、まったく考えたことがなかったのだ。
これから先のことを考えると、うっすら絶望感に苛まれそうだが、無駄に前向きな龍之介は、真澄がそのうち満足して、自分に飽きれば大丈夫だと軽く考えていた。
「えーーと……今日は確か、3回したからあと997回だなっ!」
と龍之介が指折り、自分が今日、射精した回数を数えてそう言うのを聞いて真澄は首を軽く左右に振ってそれを否定した。
「それは君が出した回数だろ? 僕が中に出した回数はまだ2回だからあと998回残ってる」
と真澄に言われて、龍之介は眉をしかめる。
意識がはっきりとしていなかったのでうろ覚えだったが、根が素直なので特に反論はせずに頷いた。
1年が365日だから、1日1回やったとしてもすべての回数をこなすには2年半くらいかかることになる。
けど、真澄が途中で飽きるだろうし、多分大丈夫なんじゃないかと前向きに考えてみる。
「そういえば、龍之介君が通っている中学は海浜東中というところだろう?」
「あ? おう! それがどうかしたのか?」
「僕もそこの中学に通うことになっているから明日から一緒に登校しよう」
「えっ?!」
龍之介は自分が通っている中学に真澄が転校してきたと聞いて、まぬけな声を上げて固まった。
真澄みたいな金持ちがなんの変哲もない、寂れた中学に転校するのは意外に思えた。
もっと、設備の整った私立の学費がありえないくらいに高そうな、そういうところに通いそうなイメージだったのだ。
「龍之介君は来年から受験生だろう?
調べてみれば今の君の学力では受かりそうな高校がなさそうじゃないか?」
余計なお世話だった。
受験する時に出そうな問題とか一夜漬けの丸暗記で多分、なんとかできるし、いままでテストがある時はそれでなんとかなっていたし、龍之介だってやろうと思えば自力でどうとでもなる。
「ふう……どうせ山掛けとかで丸暗記すればどうにかなると思ってるようだが、そんなに甘いものじゃないよ。
明日から僕が君の勉強を見てやるから、君の家にお邪魔することにする」
龍之介が考えていることを、まるで見透かしたような真澄の言葉にその思考を折られてしまった。
「じゃないと僕が再来年から通う予定の高校に君が受かるのは無理だ」
って冗談じゃない! なんで自分の家に真澄を迎え入れなきゃいけないんだ!
そう思って龍之介は首を激しく左右に振ってそれを断った。
「ちょ……何、勝手に人の進路とか家庭とかに首つっこんでるんだよ!」
「君に拒否権なんてない」
その一言で一蹴されてしまう。
目がマジなので逆らうと後が怖そうでぐっと怒りを静めて拳を握り締めた。
「な、なんでだよっ! それは約束には関係ないんじゃないのかっ?!」
「ずっと一緒にいてくれると君は言ったんだ。
僕と過ごす時間が少しでも多くなるように、この僕が自分の手を煩わせてまで、強硬手段ではなく穏便にそうできるように譲歩してやっているんだ。
寧ろ感謝して欲しいものだ」
とさも当然のことのように言う真澄に龍之介は反論できなくなって俯いた。
これ以上、なにを言っても無駄のような気がした。
どれだけ相手が拒絶しようとお構い無しに自分の思い通りにするのがこの男だ。
「まあ、なんにせよ、決めるのは君じゃなくて君のご両親、いやお母上だな」
母ちゃんに話を通すつもりか!
うちの母ちゃんは……特に教育熱心な方ではないが、俺がテストで悪い点を取ると苦々しげな顔をするのはよその母親とそれほど変わらない。
二言目には「今日の宿題はもう済ませたの?」そればかり聞いてくるし、真澄が毎日、俺に勉強を教えてくれるという話に両手を広げて大歓迎しそうだ……。
そうなったら、俺はもう勉強漬けの毎日からは逃れられない。
おまけに1日1回ペースでえっちまでしたら俺の体力と精神が大ダメージを受けるような気がしてならなかった。
そんなことを考えていた龍之介だが、不意に顎を掴まれて上向かせられると、真澄に口付けられた。
薄く開いていた龍之介の咥内へと真澄の舌が入り込んで、歯茎や歯列、唇の裏側をなぞるように動く。
舌に舌を絡められて、ねぶるようにかき回されて、龍之介の口端に咥内に収まりきらなかった唾液が溢れて零れ落ちた。
「んんっ、ふ、んぅ……ふぁ」
真澄にこうやって深く口付けられても、なぜか嫌悪感はまったくわかない。
龍之介はそんな自身を不思議に思いながら真澄にされるがままで口付けが終わるまでそれを黙って受け入れていた。
浴室内に卑猥な水音が響いて、なんだかだんだんと変な気分になってくる。
龍之介の咥内を存分に弄りまわして、舌を絡めて吸って、満足したのか長い口付けが終わり、真澄の唇が離れていく。
離れていく真澄の舌先と龍之介の咥内とが粘ついた糸を引いて銀糸の橋を名残惜しげに引いてから、零れ落ちた。
「はぁ……」
塞がっていた口を開放されて、酸素を取り入れようと荒く呼吸を繰り返す龍之介は、頬を薄紅に染めて、とろんとした蕩けた表情をして真澄を見ていた。
こうやってキスをされても、誰にも触らせたことのないようなところに触れられてもなぜか嫌悪感がないのはどうしてだろうかと龍之介はぼんやりとしたままで考えていた。
真澄にぎゅっと抱き寄せられて、その腕の中に大人しくしている自分が不思議でしょうがなかった。
こっちの意見などお構い無しで唯我独尊なそんな彼に、幼かった頃に好きだった少女の面影を重ねてみているからだろうか。
キスをされて全身から力が抜けて、真澄の腕の中に身を預けてもたれかかってくる龍之介の重さを心地よく感じながら、真澄はそのまま彼を抱え上げる。
触れている龍之介の体が熱を持っていて、十分に温まったというのが彼の体に触れている手の平から伝わり、真澄は浴槽内から出た。
「風呂もあまり長いこと浸かりすぎると体に良くないからね」
そんなことを言いながら龍之介を幼子のように抱いたままの状態で脱衣所へと向かう。
脱衣所の扉を開くと、真澄は龍之介をそっとマットがしかれた床へと下ろし、あらかじめ浴室を出てすぐの場所に大量に用意されていたバスタオルを一枚手に取り、投げてよこした。
頭にふわりと降ってきたバスタオルを龍之介は掴むと頭についた水滴を拭き取って、体も大雑把に拭く。
温かい湯に浸かっていたおかげで体のそこかしこがぎしぎしと悲鳴を上げて痛かったのが幾分か和らいで、龍之介は大きく息を吐いた。
学校帰りに真澄に捕まり、龍之介が着ていた服は脱がされて汚れてしまったせいで着替えがなかった。
龍之介は仕方なくバスタオルを羽織って裸身を隠して座り込んでいたが、真澄が下着とパーカーとハーフパンツを彼に手渡した。
真澄と龍之介が入浴中にミリアの手で替えの服が脱衣所に設置されたカゴに用意されていたようだ。
龍之介は他に着るものもなく仕方なく、真澄に手渡された替えの服に着替えた。
空色のパーカーと草色のハーフパンツは少年らしくて龍之介によく似合っていた。
全身黒ずくめのシンプルな服装に既に着替え終わった真澄が龍之介に手を差し出した。
「龍之介君、自力で立てるかい?」
真澄にそう聞かれて龍之介は頷いて、下肢になるべく負担をかけないよう気をつけながらゆっくりと立ち上がる。
「……っ!」
下肢に力を入れると腰に鈍い痛みが走り龍之介は眉をしかめる。
足元がふらつくが、何とか自力で立ち上がることができた。
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