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見る者見られる者そして繋がり【19】

 今までを振り返ってみても、こんな風に礼二とちゃんと向き合って話をするのは初めてだ。  幼い頃によく礼二と共に行動していたが、会話らしい会話をした事は無い。  自分のたった一人の兄の事をまだ何も知らない事に気が付いた。  礼二がこうやって自分の思っている事や考えている事を口に出して翼に伝えるのはとても珍しい。  兄の事を理解して歩み寄るいい機会だと思い、翼は礼二の話に黙って耳を傾ける。  話の内容が気分が悪くなるような、グロくてえぐい事にはこの際、突っ込まない事にする。 「腑分けにして中身を取り出したら一番最初に、心臓を食べてもらいたい。」 (なんで俺が礼二を食べることを前提に話をするんだ?  俺の心臓になりたいから一番最初に心臓を食べろと言っているのだろうか?) 「食べない」  翼はたまらずに礼二の言葉に返答してしまった。  それを聞いて礼二は眉根を寄せて悲しそうな顔をした。 「なんで……翼は焼き鳥屋でモモと皮とレバーとハツを注文して食べてたのに……どうして俺の肉と心臓はダメなんだ?」  眦に涙を浮かばせて、左胸に手を宛てて、礼二がそう言うのを聞いて、少しだけ胸が痛んだが、相手の心臓を取り出して食べる=殺人なわけで、こればっかりはどうしようもないことだ。  例え彼が自害したり何かでどうにかなったとしても、肉をこそげ落としたり腑分けにするのは犯罪で、正常な精神状態のものではやろうとしてできるものでもない。    小学生の時に家族で行った居酒屋で確かに頼んだ気がするが食用の鶏肉と食用ではない人肉では話が別だ。 「礼二……人間は食べ物じゃない……分かるか?」  翼に肩を掴まれてそう言い聞かされて、礼二は首を左右に振った。 「翼に美味しく食べてもらえるなんて焼き鳥はずるい!  じゃあ、俺は焼き鳥になりたい……」  意思の疎通を図ろうとして、礼二の話を聞けば聞くほどこっちまで気が変になりそうだった。  どういう思考をしているのか理解できるようになるにはまだ大分、慣れと時間が必要だ。  常人であれば自然に身に付いている善悪の判断が彼にはまったくできていない。  普通の考えや行動が出来るように少しずつでも、教えてやっていかなければならないな……。  翼はそう考えてため息を一つ付いて、礼二をぎゅっと抱きしめた。 「礼二がいなくなったら俺が寂しいよ。 だから俺は俺で、礼二は礼二で、体が別々のほうがいいんだ。  こうやって抱きしめられるし、体温がある肌と肌で触れ合っていられるほうがぬくもりと鼓動が伝わってきて安心するんだ」  ぎゅっと抱きしめられて、翼に優しい口調でそっと耳元で囁かれて、礼二はうっとりと瞼を閉じて彼の背に腕を回して抱き返した。 「だから、礼二は礼二のままで生きて、俺の傍にいて笑っていて欲しい」  続けてそう言われて礼二は「うん」と短く返事をして頷き、眦に涙を滲ませて嬉しそうな笑みを浮かべて、抱き返す腕に力を込めた。  確かにこうやって身体を密着させて抱き合っていると相手の体温や鼓動、息遣いが感じられて安心する。 「礼二はさ……俺が礼二になりたいって心臓を取り出して食べるように言ったら食べてくれるのか? それでひとつになって、俺がいなくなってこうやって見つめ合うことも抱き合うことも、相手の体温も、鼓動も感じられなくなったとして、それで満足できるか?」  そう言われて礼二はハッとした表情になって、目を見開いて、首を左右に振りたくってそれを否定した。  翼という固体がなくなってしまったら自分が生きている意味などない。  たとえ自分の血肉となって翼が生きているとしても、目の前に彼はいないし、見つめ合う事はできないし、会話もできない。  頭を撫でてもらったり、抱きしめて貰う事もできない。   「いやだ……」  ぎゅっと瞼を閉じて自分にしがみついて、そう呟く礼二の頭に手を置いて、幼子をあやす時の様に撫でてやる。 「だろ? それは俺も同じだから、俺になりたいなんてもう言わないでくれ」 「うん……」 「人を愛するってきっといろんな形があるんだろうな……俺はまだ自分のそれを見つけられてはいないけど、いつかそれが分かったら礼二に一番に答えを聞かせるから一緒に生きよう」 「うん」 「どんな答えが出ても、礼二がかけがえのない大切な存在だって事は変わらないから。 俺のたった一人の兄さんだから」 「うん……うん……」  礼二が何度も短く返事を返しながらじんわりと眦に涙を浮かばせてしがみつく腕に力を込める。    「生きて欲しい、傍にいて欲しい」    礼二が礼二として傍にいることを翼が望んでくれるなら、これほど嬉しいことはない。  大好きな人の傍でこれからも生きていてもいいんだと他ならぬ、翼に望まれて許されたのだから……。  翼が傍にいない時は寂しくて、もう二度と彼に会えないんじゃないかといつも不安を感じる。  一つになれれば、そんな思いもしなくていいし、何より他の誰かに抱かれて気持ちよくなって翼への想いを裏切るような快楽に流されることもない。  だから、礼二は翼の血でも肉でもひとかけらでもいいから、彼の一部になりたかった。  翼がふいに礼二の足の間を押し上げている足を小刻みに揺すった。 「ふあ、あっ、ああん」  中途半端で放置されていた性器と会陰部を翼の膝に擦られて甘い声で喘ぎ、翼の肩に両手を置いて振り落とされないようにしがみついた。  片手で細い腰を掴んで支えてやりながら、身体を揺すって礼二の足の間をぐりぐりと刺激して射精を促してやる。 「あぁっ、あんんっ、つばしゃ、あっ、あぁあん」  快感に身を任せて喘ぐ礼二の甘い声と、乱れた呼吸に合わせて熱い吐息が、半開きの唇から漏れ、口端に唾液が伝い、線を描いて零れ落ちる。  頬を紅潮させ、目を細めて、快楽に緩みきった礼二の表情を間近で見て、やっぱりどうしようもなく煽られて興奮している自身を再認識して、認めざるを得なかった。  愛しているかどうかはまだ分からないけれど、自分は礼二の白い裸身や、喘いでいる姿を見て欲情するのだ。 「んんっ、はあぁぁ……っ」  熱に浮かされるままに翼の膝の動きに合わせて、無意識に淫らに腰をくねらせてより快楽を得ようとする。  途中でほったらかしにされて蜜を溢れさせて震えていた礼二の肉茎を手の平で優しく包み込んで根元から先端へと向かって滑らせて扱いてやる。 「あっ、んんっ、ふあぁっ、くうぅんっ」  翼が膝を揺するのを止めても礼二の動きが止まることはなく、前後にぐりぐりと足の間を膝頭に押し付けるようにして、夢中になって淫らに腰を振りたくっている。 「んはあ……あ、はあぁぁ……っ」  愛しい人の肩を掴んでしがみ付き、息を乱して、切れ切れに甘い声を漏らして、口端を伝う唾液もそのままに全身をほんのり桜色に染めて快楽に身を委ねる。 「あぁんっ、つばしゃあぁっ……はあぁっ……ふあぁぁっ」 「ごめんな、長いことほったらかしにして……今、楽にしてやるからな」 「うんっ……はぁ、はぁ……つばしゃぁっ」 「礼二は乳首弄られるの好きだったよな?」  翼は礼二の肉茎を根元から搾るように擦りながら、眼前で揺れる白い胸の上でずっと尖ったままの桜色の粒を口に含んで舌先で突付く。 「あっ、ああん、そこぉ……」  右側の乳首を口に含んで丹念に嘗め回して、歯で甘噛みして引っ張ってから、ちゅうちゅうと音を立ててきつく吸い上げる。 「ふああぁっあっううん、ひもちいぃ……」  乳首にしゃぶりつかれて、吸い上げられて礼二が開きっぱなしの桜色の唇からひっきりなしに媚を売るような甘さを含んだ声を漏らして悦び、快楽に咽び鳴く。 「はっああっうぅんっ、すきぃ、あぁっ、つばしゃぁっ」  右側の胸に顔を埋めている翼の頭を両腕で抱きしめて、赤く腫れた乳首を貪るように舌先で転がしながら吸いたてている彼を涙で滲んだ視界で見下ろす。  悦びの涙の膜の向こうにぼやけてうっすら見える、小柄な少年は、確かに自分の一番大好きな人で、その彼に擬似的にではあるが抱かれていると思うと嬉しくて、胸が熱くなって高鳴り、落ちていた気分が高揚して、身も心も充足感でいっぱいに満たされる。     翼にとっての礼二がたった一人の兄さんで、かけがえのない代わりのいない、大切な存在だと彼の口から聞けただけで充分すぎるくらいに幸せだった。  幼い頃に言われたあの言葉が原因で、ずっと翼に嫌われているかもしれないと礼二は思っていた。  長い間ずっと突き刺さっていた胸のつかえが取れたような気がして、少しだけ気が楽になった。  これからは気兼ねなく翼の傍にいられるんだと思うと嬉しくて仕方がない。  でも、だからこそ、もっと好かれたいという欲も強くなった。  嫌われたくないという想いもより強くなった。  だから、余計にあの事だけは翼に知られたくない。  佐藤とセックスした事がばれたら翼に嫌われるかもしれない。  それどころか、佐藤は礼二が自ら望んで抱かれたと翼に暴露するかもしれない。  熱く火照り、ふわふわとした意識の中でそんな事を考えていたが、翼に揺さぶられて、感じやすい所を愛撫される快感に流されて、すぐに思考は鈍り、ただ、快楽を追う事だけに夢中になっていく。 「礼二、そろそろイけそうか?」 「あっ、んんっ、くぅうん……あぁっ、うんっ……」 「このまま出していいぞ、手のひらで受け止めてやるから」 「う、んんっ、つばしゃあぁ……あぁっ、もぉ……っ」 「礼二、なんだ?」  前を扱かれて揺さぶられながら礼二が何かを言おうとしているのに気が付いて動きを止めて彼の名前を呼んで聞き返した。 「あっ、翼も……翼ぁっも……一緒にっ……」  礼二はそう言いながら翼の肩に置いている両手に力を込めてぐいぐいと押す。 「ちょっ……礼二?!」  翼がうろたえながらそう言っている間に礼二が全体重をかけてきてそのまま乱れたシーツの上へとなだれ込むように倒れた。  仰向けに横たわらされた翼の上に礼二が覆いかぶさり、翼の下肢へと尻の狭間を押し付けるように跨った。 「はぁ、はぁっ……俺も、する……」 「挿入は無しだって言っ……うあっ?!」  礼二はいきり立ったままの翼の肉棒を双丘の狭間にはめ込むように挟んで腰を前後に揺すり始めた。  尻の狭間に宛がわれた肉茎が、先走りの液の滑りに助けられる形でにゅるにゅると行き来する。  自身の腹部へと倒された肉茎に、押し付けられる礼二の薄く肉付いた尻たぶの柔らかな感触の心地よさと、絶妙な力加減で狭間へと挟み込んで、圧をかけられ肉棒を擦られる強烈な快感に、翼が切羽詰った情けない声を上げる。 「うっああっ……くうぅっ……礼二……っ」 「ん、んんっ……つばしゃ、あぁっ……はぁ、んん、んっ」  大きく足を開いた礼二が翼の上に跨り、もっと気持ちよくしてあげたいという気持ちから懸命に腰を揺すって前後に動かした。     蟠る熱が、下肢へと集まり、身体の内側からじわじわとくる快感に腰から力が抜けそうになり、ガクガクと震える。 「んんっ! くうぅん! は、ああぁっ……つばしゃあぁ、もぉ……ひもち、いっ……いぃ?」  震える腰を懸命に前後に動かして、礼二が翼に気持ちいいかをしきりに、息も切れ切れになりながら聞いてくる。  すぐに答えられない程に気持ちが良くて、翼は強烈な快感に追い詰められて、やっとの思いで、礼二に返事をした。   「くっ、ううっ……礼二っ……すご、い、気持ち、いい、よ……」 「つばしゃあぁ……あああっ……うれひぃ……うれひい、ぃっあああっ!  もっと……あっあ! もっとぉ……あっ、ぐちゃぐちゃにして、ひもちよくなって、ああぁっ!」 「はぁ、はぁ……礼二……礼二っ!」 「あああああっ! つばさぁ、好きいぃぃ!」  ガクガクと震える腰を振り乱しながら、顔中をぐしゃぐしゃにして、快楽に緩みきった、それでいて幸せそうな表情で、翼を見下ろして、礼二は偽りのない自分の気持ちを伝える。  自分がすることで翼が喜んでくれる事が礼二の何よりの至福であり、自分が生きている意味で全てだった。 「はああぁぁぁ……すきっ……すき、すきいぃっ……ああんっ、つばしゃあぁっ……すきいぃぃっ!」  好きと繰り返し甘く掠れた声で言う礼二の純粋さと健気さに胸を打たれて、翼の眦にじんわりと涙が浮かんだ。  礼二はいつも自分の事などまったく顧みずに、翼の為になにかをしようと、喜ばせようと、その事だけに一生懸命だった。  こんなにも愛されて、尽くされている自分は幸せなんじゃないだろうかと思えるほどに……。  その事に気が付くのに十年近く費やしてしまった愚鈍な自分には勿体無いくらいに、綺麗な心根を持つ彼を守りたい。  その想いを利用して、礼二を汚しただろう誰かが余計に許せない。  礼二は幼い頃から、基本的に自分の弟以外の人間にはまったく興味がなく、省みる事すらまったくしない性質だった。  事実関係はまったく分かっておらず、全ては想像でしかないが、礼二が相手にいいようにされてそれを黙っている等、弟である翼の事を引き合いに出されて、それをネタに脅されたか、何かを吹き込まれたとしか思えない。 「はぁ、はぁ……礼二……礼二……俺の傍から……絶対に、離れるな……よ……?」  翼は、両手を礼二に向かって伸ばして、息も切れ切れにそう言う。  自分に向かって伸ばされた両手を礼二も掴んで指を絡めて左右の手をしっかりと繋ぐ。 「うんっ……はぁ、あっ、んんっ…すき…好きぃ……」  礼二が頷いて、好きという言葉を熱に浮かされた様に繰り返す。

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