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ミリア~機械仕掛けのメイドロイド~【1】
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寮館へと戻り荷物を置きに一旦、自室へと帰り、まだ買い物に出かけるには早すぎる時間だった為、しばらくの間、黙々と家事をこなして、時間を潰して過ごした。
――午前10時。
翼はショッピングモールへとやってきていた。
時計代わりにしている携帯と、財布以外は何も持ってこなかった。
土曜日で休日でもある事から、そこは、結構な人で賑わいを見せていた。
綺麗に整備された道をとぼとぼ、と真っ直ぐに当ても無く見て回り、出店や、喫茶店など物色して回る。
しばらくの間、あてどもなく歩き続け、ある一軒のファンシーショップの前で翼はふいに立ち止まる。
レトロな雰囲気でレンガ作りの小洒落た外観をしたその店が男だらけのこの場所で、異様に浮いているような気がした。
ここは女子禁制で、なにか特別な催しでもない限りは学園内へと女子が入る事は許されてはいない。
だから、出入り自由なのは男性のみであり、客層は男しかいなくて、とても需要があるとはいえないような店があるというのにビックリした。
礼二が寂しいときに何かすがれるものをプレゼントしようとしていた翼は、その店の扉を開けて中を見てみる事にした。
この店なら、ぬいぐるみもいろいろな種類のものがおいてあるかもしれない。
そう思って入ったのだが、その店はほぼテディベアのグッズのみを取り扱う専門店であったようで、並べられた品は、すべてかわいらしいクマのロゴが入れられていたりするものばかりだった。
キーフォルダーや文房具、マグカップまで全てがクマの絵柄がプリントされているものばかりだ。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
若い女性と思しき人物にいきなり背後から声をかけられた翼はぎょっとした顔で振り返り、その人物の顔を見上げた。
すらりと背の高い、黒を貴重としたドレススカートに真っ白なレースがあちこちにあしらわれたエプロンを着込んだ金髪の女性だった。
長い金髪を一つにまとめて束ねて、お下げにしている。
重そうなその髪を揺らしながら、翼に視線を合わせようと顔を近づけてきた。
翼と同じ空色の瞳がより近くなって、翼はその整った美貌に、見とれるような形で口を半開きにしたまま呆けていた。
まるで作られた物であるかのように美しい容姿をしたその女性は呆然としている翼の額に手を宛てた。
「大丈夫ですか? 頬が赤いですし、お熱でもあるんですか?」
口を半開きにしたまま、情けない表情で黙り込んでじっと動かない翼を見て体調が悪いのではないかと心配してくれているようだ。
形のいい細い眉を八の字に寄せて、こちらを伺い見てくるその女性の言葉にハッとして、翼は慌てて、
「なっ……なんでもない」
と答えて、首を左右にぶんぶんと振りたくった。
女子禁制のはずの場所に普通に女性が出てきたという事にも驚いたのだが、それ以上に、今まで見た女性の中でもトップクラスの美貌を持つその金髪女性の美しさに思わず、みとれてしまった。
頭から足の先までまるで計算されて作られたかのような、抜群のスタイルで、モデル顔負けの美貌だった。
「美空 翼様、ですね?」
膝に手を置いてかがんだ状態で、翼と視線を合わせたまま、彼女はそう尋ねた。
再び、驚きを隠せずに翼は目を白黒させながらもなんとか無言で首を縦に振って頷いた。
――いきなりフルネームで名前を呼ばれるとは思ってもみなかった。
どう考えても翼はその女性に会ったことなど無く、初対面であり面識は無いはずだ。
自分がまったく知りもしない相手に、フルネームを知られているという事に違和感を感じた。
「私は美空様の事はよく存じております。こうして、実際にお会いするのは、はじめてでしたね」
続けてその女性がそう言う言葉を翼はわけがわからないまま黙って聞いていた。
「私は、天上院家のメイドロイドでミリアと申します。真澄様のお世話をするために特別に若草学園に入る事を許可されておりますの」
メイドロイド?!
と言う事は彼女は人間じゃないのか?
真澄の世話をするためにこの学園へと入る事を許可されているという事らしいが、それにしても女子禁制で男しかいない若草学園にメイドロイドとはいえ彼女のような見た目うら若き乙女が出入りしているというのも危ないような気がした。
「改めて、はじめまして。
真澄様付きの専属メイドロイドのミリアと申します。
美空 翼様どうぞ真澄様をよろしくお願いいたします」
そう言って彼女はスカートの裾を摘みあげて、優雅な仕草で深々と頭を下げた。
しばらくして顔を上げて、穏やかな笑みを浮かべた彼女は翼に向かって手をそっと差し出した。
握手を求められていると気がつき、翼は慌ててそれに応じて彼女の手を掴み握り返した。
握手をした後で、姿勢を元に戻した彼女に再度尋ねられた。
「今日は、何かお探しでここにこられたのですか?」
「あ……ああ。れ……兄の誕生日プレゼントを買いに……」
翼がうろたえながらもそう答えると、彼女はぱぁっとまるで花が咲いた時の様な笑顔になり、何かを拝むときのように手の平を胸元でぽんと合わせて、嬉しそうな表情になった。
人間じゃない作り物であるはずの彼女の表情はころころと良く変わり、まるで感情があるように見えた。
精巧に作られたプログラムからそうするように設定されているのだろうが、普通の人間と変わらないのではないかと思いそうになる。
「美空様は、とても、お兄様思いでいらっしゃるのですね。 どのようなプレゼントをお探しですか?」
「え……ぬいぐるみ……かなにかを……」
「ぬいぐるみですね!
それなら、ドールを扱うブースにございます。 こちらへどうぞ」
彼女に案内されてあらゆるクマグッズがひしめき合う、レトロで小洒落た装飾の店内を時々、棚に肘をぶつけそうになりながら奥へと足を運ぶ。
「こちらです。ご満足いく品がございましたらお声をかけてくださいませ」
彼女にそう言われて案内された場所にはやはり、色とりどりのクマがぎっしりひしめき合うようにずらりと並んでいた。
似たようなサイズと色のものであれば、どれがどれだかまったく区別が付かない。
ひしめくテディベアの中に礼二の髪の色によく似た毛色の赤い瞳をしたクマを見つけた。
翼はそれをなんとかひしめくクマの中から発掘して取り出した。
両手に掴んで、胸に抱いてみてフィット感を確かめる。
あまり大きすぎるサイズのものを買っても持ち運びに不便だからこれくらいの大きさでちょうどいい。
中型犬くらいの大きさのそのぬいぐるみの値札を見て値段を確認してみた。
2万8千円……高い。
たかがぬいぐるみが3万円近くもするなどあまりの高さにびっくりだ。
男しかいないこの学園内で需要のなさそうな店の商品がこんなにも高いなんて、よく経営していられるな……と失礼ながら思ってしまった。
「そのテディベアに目を付けられるとはお目がお高いですね! さすが美空様です」
翼が手にしている赤い目のテディベアを見てミリアは嬉しそうに微笑み、営業スマイルで翼の事を手放しで褒めちぎった。
「いや……手持ちの金が今、2万円しかないし……買えない」
翼が申し訳なさそうにそう言ってクマを元の場所に戻すのを残念そうにミリアが目で追いかけて見ていた。
「お手持ちの金額が2万円ですか……なら、これくらいのサイズのテディベアは如何ですか?」
そう言いながらひしめくテディベアの中から小型犬くらいの大きさのクマを取り出して翼に差し出した。
翼は差し出されたクマを受け取って見てみる。
自分と同じような青い瞳をした金色の毛並みのテディベアだった。
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