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ミリア~機械仕掛けのメイドロイド~【2】  

     どことなく翼に似ているそのクマをミリアは熱心に勧めてきた。 「このテディベアはどことなく、美空様に似ていらっしゃいますし、お兄様もきっとお喜びになられるのでは?」  自分に似たクマのぬいぐるみをプレゼントするというのは少しだけ照れくさいが、ミリアが言うとおり礼二なら翼に似ているクマの方が喜んでくれるかもしれない。  そう思って値札を確認して見る。  ――1万5千円……このサイズのテディベアでもいいものだとそんなに高い物なのか……。  結構、痛い出費だが礼二と二人きりで始めて迎える彼の誕生日だ……ここは、思い切って奮発しよう。  礼二が喜んでくれるなら、1万5千円くらい安いものだ。  翼は踏ん切りをつけてそのクマを買おうとズボンの尻ポケットから財布を取り出して開いた。  一枚、二枚……なけなしの2万円をミリアに差し出した。 「お買い上げありがとうございます!  さっそくリボンで綺麗に飾りつけて包装させていただきますね。  ラッピング代金はタダですので、特に注文が無ければ、すべてこちらにお任せください」  ミリアがまくし立てるようにそう言うのを聞いて、押され気味になりながら翼は首を縦に振って頷いた。  ミリアがクマをラッピングしにレジがある場所へといそいそと移動するその後を翼もついていく。  いろいろと気になる事や、聞きたいことが山ほどあるので、ラッピングの作業をしている彼女の邪魔にならない程度に会話をするためだ。  レジについて隣に設置された白いテーブルへとクマを置いて、下に置いてあるいくつかのカラーボックスに入れられた色とりどりのリボンの中から、金で縁どられた赤い大きめのリボンを取り出して、包装紙は洒落っ気のない銀製のものを選んで取り出してテーブルの上へと置いて作業に取り掛かった。  クマが綺麗にラッピングされていく様を見ながら翼は思い切ってミリアに声を掛けた。 「あの……ちょっといいですか?」 「はい。なんでしょう?」  作業の手を止めずにミリアは返事をして翼の次の言葉を無言で待っていた。 「少し、気になる事が……」 「どうぞ、何かあれば、お答えする事ができる範囲内であれば全てお答えいたします。  どうぞ気兼ねなくおっしゃってください」 「えっと……メイドロイドとはいえ、君みたいな若い女性にしか見えないような娘が、こんな男だらけ……ていうか男しかいないような場所にいるっていうのはいろいろとその……危ないんじゃないか……って思うんだけど……」  翼の台詞を聞いてミリアは作業をしていた手を止めて、拝む時のように手をぽんと豊満な胸の前で合わせて嬉しそうな顔をした。   「まあ、まあっ! 家電である私の身を案じて下さるのですか?!  美空様はなんてお優しい……」 「家電って……」  彼女が自分で自分の事を家電であると言い切った事に気分が悪くなった。  家電――家庭用電化製品と言う事であるからには彼女は電力を消費して稼動しているのだろう。  こんなに感情豊かで人間となんら変わりがないように見えるのに、ただの機械として彼女に接する事が翼にはどうしても出来なかった。 「こんな私を気にかけてくださり、本当にありがとうございます。  ですが、ご心配には及びません。  こうみえて腕っ節には自身があるんですのよ。  確かにロボット三原則で人間様には逆らえない様に作られていますが、自分の身を守るあらゆる術を身に付けておりますから、いざという時はどうとでもなるのです」 「そ……そう?」 「ええ。真澄様に修行を付けて身体を鍛えたのは、他でもない私ですから……あっ!  このことはどうか、美空様と私だけの秘密と言う事にしておいてくださいませ……」 「あ、ああ……」 「余計な事は他人様に話さないように真澄様に口止めされていたのをうっかり……」 「忘れてたんですか?」 「ええ、美空様とは初対面でまだ会って間もないのですが、他人のような気がしなくてつい……」  ど忘れやうっかりすることまでプログラムされているのか?  翼は本当に普通の人間のようにしか見えない彼女を見て感心しきりだった。  ヘタすれば自分より、礼二よりも彼女の方が余程、人間らしく作られているかもしれない……。  そんな事を思っている間にラッピングをする作業が終わったのか、最後に包装袋の端をピッと伸ばして綺麗にしてから翼にそれを見るように促した。 「こんな感じで如何ですか? 中身が分からないように気をつけてシンプルかつキュートに仕上げてみました」  銀色のセロファンみたいな包装紙に包まれたクマのてっぺんが引き絞られており、リボンが赤い花のように飾り付けられていた。 「ありがとう。綺麗にできてると思う」 「お礼を申し上げるのはこちら のほうです。お買い上げ誠にありがとうございました。  どうぞ可愛がってあげてくださいね?  ……とお兄様にお伝えください」 「ああ。言っておく……」 「失礼ですが美空様はこの後のご予定は何かお決まりですか?」 「あ……今から、ちょっとケーキを買いに……」 「そうですか……だとテディベアを持ち歩いて行くのは手荷物になってしまってちょっと、大変ですね」 「……そうか……そうだな……とりあえずここに置いといてもらって後で取りに――」 「それならいっそ、美空様のお部屋までお届けするように手配しておきましょうか?」 「え、いいのか?」 「はい。えー……と……美空様のお部屋は若草学園寮の44号室ですわね……」  インプットされているデータを瞬時に引き出して、寮室の場所を把握したミリアは、テディベアを翼の自室へと届けるように、運送業者へと宅配依頼の文書を書き込み、送信して申し込んでおいた。  彼女はあくまでも家電として若草学園に入ることを許された機械なのである。  外側から見て、生身の人間に限りなく近づける為に、精巧に最先端の技術を駆使しで毎年バージョンアップが施され、今では人と見分けがほとんど付かないほどに外装が作りあげられてはいるが魂が無い゛モノ゛である事に変わりない。  通信機器やスマフォ等を携帯する必要は彼女にはなく、内蔵された機能で全て、出来るようになっている。 「…………はい。お待たせしました! 美空様のお部屋へと荷物が届けられるように手配を済ませておきました」  ミリアが何かをしたそぶりは全くなかったが、テディベアが翼の自室へと配達されるように手配をしてくれたらしい。 「あ……ああ。 ありがとう……」  翼は呆気に取られつつも頷いて彼女に礼を言った。 「配達料金もサービスとなっておりますので、お代は頂きませんから安心してください」 「タダでいいのか?」 「ええ。あ、これ、さっき買われたテディベア代の残りでおつりの5千円です」  彼女がレジを開けて5千円札を取り出して翼に手渡した。 「それでは、引き続きお買い物を楽しんでくださいませね!」  柔らかい笑顔で軽く手を降る彼女にまだ聞きたいことが沢山あったがそれはまたの機会にしようと思い、翼は彼女に手を軽く振り返して会釈をしてから、そのクマグッズ専門のファンシーショップを後にした。  彼女がここで需要がまったくなさそうな店を開いている理由や、あわよくば真澄と龍之介の事もよく知っていそうな彼女にいろいろと聞いて事情を把握できればと考え、またそのうち、ここに訪れようと翼は思っていた。  特に龍之介の今の状態は見るに耐えない。  真澄と龍之介が学校に行っていない間などに彼女は多分、彼らの寮室を掃除したり、ベットメイクをしたりしているのだろう。  さっきの会話でうっかり口を滑らせていたし、うまく誘導できれば、もっといろいろと聞き出せるかもしれない。

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