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約束~守るべきもの~【3】
自分の腕の中で瞼を閉じて安心しきった様子で身を預けてくる礼二の髪を梳くようにして撫でてやる。
汗ばんで湿った髪が頭皮にべったりと張り付いているのを剥がす様にくしゃくしゃと掻き混ぜると少しだけ汗臭かった。
いい加減、髪を洗ってやらないと。
翼はそう思って礼二の額に手を宛てて熱を測ってみる。
熱は下がっていて通常の体温が掌に伝わる。
平熱ぐらいまで下がって大分、状態もいいようだから、お湯で身体を拭き清めてやるくらいはしてもいいだろう。
長風呂にならないように手早く礼二の髪を洗って、ぬるま湯で身体を拭き清めてから、すぐにドライヤーで髪を乾かしてやれば、大丈夫だと思う。
胸に巻かれた包帯にお湯が掛からないように気をつけて髪を洗ってやらなければいけない。
明日の朝くらいに、包帯とガーゼを綺麗なものに取り替えてやって新しく貰った塗り薬を左胸の傷に塗ってやって、左手の怪我の状態を見て薬を塗りなおして新しいガーゼに取り替えてやって包帯を巻きなおしてやらないといけない。
あちこちボロボロに怪我をしまくっている礼二の面倒を見るのは思っていたよりも大分、大変だった。
龍之介の事も気になるが今の翼は礼二の事だけで手一杯だった。
自分の腕の中でうっとりと瞼を閉じて背中に腕を回して抱きついている礼二に
「礼二の頭、ほんの少しだけベタついてて汗臭い……
俺が髪洗ってやるから今から風呂に入るか?」
と翼はなるだけ穏やかな声色になるように気をつけつつ聞いた。
「翼も一緒に入るのか?」
「ああ。今日は湯はりはしてないから、鴉の行水で済ますつもりだけどな」
「うん。じゃあ、入る」
翼も一緒に風呂に入ると聞いて礼二は嬉しそうに頷いた。
礼二の右手を取って繋いで、ソファーから立ち上がるように促してやる。
ソファーから降りて、立ち上がった礼二の足取りはふらつく事はなく割りとしっかりしていた。
二日続けて点滴を受けたおかげか大分、体力が回復してきているのだろう。
翼は少しだけホッとして礼二に気付かれないようにため息を付いて、彼の手を引いて風呂場へと向かった。
脱衣所にきて早々と礼二が着ている衣服……といっても早朝に礼二の体が不調をきたしてそのまま診療所へと連れて行って着っぱなしだったパジャマを脱がせてやり、汗で肌に貼りついている下着も脱がせて、生まれたままの姿に剥いてやる。
最初の頃に比べれば礼二の裸を見ることには慣れて、以前よりは意識せずに裸の彼を見ることが出来るようになった。
翼が自分の着ている服を手早く脱いで、礼二のパジャマと一緒に洗濯機へと放り込むのを礼二は指を咥えて無心に見ていた。
液状洗剤のキャップで分量を量り、洗濯機へ洗剤を注ぎ入れ、自動ボタンを押して蓋を閉めた。
後は洗濯機が自動で勝手にすすぎ洗いから脱水までをやってくれる。
昔に比べれば今は本当にいろいろと便利になったと思う。
洗濯機を操作しているのを指を咥えてすぐ後ろで見ていた礼二の頭を翼はくしゃりと撫でてやる。
「怪我が治って体調が良くなったら、礼二も洗濯が出来る様に俺が教えてやるから、少しずつでも憶えていこう……これから一緒に頑張ろう、な?」
「うん」
優しく穏やかな声色で幼子に言い聞かせるように゛一緒に頑張ろう゛と翼に言われて礼二は嬉しそうに無邪気な笑顔で頷いた。
普通の人が当たり前に出来るような事すら満足に出来ない礼二に、一人で生きていくために必要な事をこの学園の寮で同居している間に少しずつ習得させなければいけない。
それには、まず自分が家事の全てを完璧にこなせる様にならなければと思う。
翼が手本になって家事をしている所を礼二に観察させて憶えさせて、それから手取り足取り少しずつ教えてやって出来る様になるまで根気良く練習を続けさせて、身に付けさせれば礼二も家事が出来る様になる筈だ。
あまり得意ではない料理を、誰か得意な人に教えてもらって翼も作れる料理のレシピを覚えてレパートリーを徐々に増やしていこうと考えていた。
身近で知っている料理が得意な知り合いといえば、馨か光矢のどちらかになる。
馨は洋食系。
光矢は和食系。
それぞれ得意そうな料理の系統が違っていそうな気がする。
両方に教われば、洋食と和食の両方の料理が作れるようになれるだろうか?
翼はそんなことを考えつつ、礼二の手を引いて風呂場のガラス戸をスライドさせて中へと入る。
礼二を風呂椅子へと座らせて、翼は洗面器を手にして台の上に置いて、お湯が出るほうの蛇口を捻って、温いお湯を溜めて柔らかいタオルを漬け込んだ。
軽く絞った濡れタオルで礼二の背中を拭いてやる。
汗でべた付いている肌を丁寧にくまなく拭いて全身を綺麗にしてやって、ある程度汗が染み込んだらタオルを濯いで流してからまた絞って礼二の肌を拭く行為に没頭する。
首、腕、脇の下、腹部と拭き清めていく。
和彦に薬を塗ってもらい包帯が巻かれた胸だけ避けて全身を綺麗に拭いて下腹と腰周りも拭いてやってふと手を止める。
とりあえず足を伸ばして貰って太腿と脹脛と足の裏までを拭き終わってため息を付いた。
あと拭いていない部位は、臀部と足の間だけなのだが、流石にそこを拭いてやるのは躊躇われる。
ヘタに刺激してしまうと礼二がその気になってしまい、折角、ここまで回復した体力を消費するような行為をせざるをえない状況になりかねない。
とはいえ、左手にシャープペンが貫通して穴があき、縫うほどの怪我をしていて、右手しか使えない不自由な状態の礼二に自分で丁寧に汚れを落として念入りに拭く様に言う事も出来ない。
出来る事なら風邪がぶり返さないように手早く済ませたい。
礼二に自分で洗わせてもいいが、彼は自分の体の不調に自覚が無いため、早く洗い終わらせようとは多分考えない。
礼二はマイペース型の性格で、昔からおっとりしているところがあったから、無駄に時間が掛かりそうな気もするのだ。
翼は意を決して、前へとタオルを持った手を伸ばして、礼二の足の間をそろそろと拭きはじめる。
礼二は特になんの反応もせずに自分の足の間を拭いている翼の手の動きを見ている。
場所が場所だけに念入りに綺麗にして清潔にやらなければいけない部位なのだが、敏感な粘膜が露出した部分は、あまり強く擦らないように気を付けて拭いてやらなければ、肌が弱い礼二は炎症を起こしたりするだろうか?
翼はそう思って、シャワーノズルを手に取り、お湯を出して礼二の足の間へと掛ける。
「礼二、こっち向いて、ちょっと足開いて、腰浮かせてくれないか?」
「うん?」
礼二は素直に言われるがまま、振り返って翼が居るほうを向き、両足をそろそろと開いて腰を浮かせて、普段は隠れていてよく見えない部分を晒した。
シャワーの湯量を弱に調節して礼二のまだなんの反応も示していないその部分を洗い流して清めていく。
あまり刺激しないように気を付けてシャワーでお湯を掛け流しながら、敏感なその部分を掌に包み込んでやわやわと汗や汚れを落としてやる。
自身の股間を自分で洗う時は特に何も考えずに無心に洗うが、誰かのそこを洗ってやる時は気を使う上に、恥ずかしさから手つきがぎこちなくたどたどしくなってしまい、なかなか思うように手早く済ませる事が出来ない。
茎部分を掌全体でゆるゆると撫でて汗を落として、先端部分の包皮も剥き上げて恥垢を丁寧に指先を使って汚れを落としてやる。
さらに下方にある双丘の間で、ヒクヒクと呼吸をするたびに息づいている入り口も、指先で皺を伸ばすように押し開いて温いシャワーを掛けながら、指先の腹で優しく撫でて洗い流してやる。
前に見た時よりそこは大分、腫れもひいて、きゅっとすぼまって閉じていて、見た感じでは痛々しさはなくなっているようだ。
真っ赤に腫れていて閉じきらない穴から粘膜が覗いて見ているだけで痛そうだったそこが綺麗に治りかけているのを確認して翼は内心ホッとしながらお湯を掛けて汚れを全て洗い流して仕上げに絞りタオルで水気を拭きとる。
礼二の全身を何とか綺麗に洗い終わって、一息ついてから礼二の頭に掌を置いてくしゃくしゃと撫でてやった。
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