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光矢からの贈り物【2】

「ありがとう」 「あんま大したもんじゃないけど、まあ普通に使えるように出来ているとは思う」  光矢は緑がかった黒髪をぐしゃぐしゃと掻きながら照れくさそうにそう言って再度翼に手を振ってからその場をフラフラとした足取りで立ち去った。  徹夜したせいでどうやら眠いらしい。  よろめきながら塒<ネグラ>へと帰っていく光矢の背中を見送って礼二が待っているベットへと戻る。  光矢が徹夜して作ったと言うプレゼントが一体どんなものか気になって礼二にそれを開けてみるように言った。 「それ、礼二に誕生日プレゼントだってさ。 開けてごらん」 「うん」  翼に言われて礼二は頷いて返事をして小さな包みを開けて中身を取り出してみた。  あけた包みの中から出てきたのはなんの変哲も無い一膳の箸だった。  見た感じの質感からして竹を切り出して削って作ったもののようだ。  翼は光矢に朝食をご馳走になったときに借りて使った竹箸が手に馴染んで異様に使いやすかったのを思い出した。  食器や家具を切り出して自分の手で作るのが趣味らしい、いかにも光矢らしいプレゼントだった。  礼二は箸の使い方を憶えたばかりだし手に馴染んで使いやすい光矢の手製の竹箸はこれからきっと役に立つだろう。  竹を切り出して箸を2本削り出すのにどれくらいの労力がいるかは分からないが、結構、手間もかかるし、骨が折れそうな大変な作業だろうということはなんとなくわかる。    面識はあるがまともに口を聞いた事すらない相手にプレゼントする品にしてはあまりに手間と労力がかかりすぎている。  何故そこまでしようと思ったのか?  当の本人もそういうことを深く考えたことはないと言っていた。  ただそうしたいと思ったことをしただけだという。  彼にしてみれば細かいことは気にせずに、ただ自分がこうしたいと思った事を素直に実行に移しただけなのだろう。  そしてそんな光矢を翼は少しだけ羨ましく思った。  翼は自分が何かをするときに自分がどうしてそうするのかそれをする事に何の意味があるのか深く考え込んでしまう性格だった。  そのせいでいつも結局はああだこうだと理由をつけて、何もしないまま安穏とした生活を送ってきた。  光矢みたいに自分の気持ちに正直でまっすぐな性格の奴は嫌いじゃない。  光矢に告白されたことをふいに思い出して翼は頬を染めた。    まさか同性の光矢から告白されるとは夢にも思っていなかった翼はうろたえたものだが、結局今は礼二のことだけで手いっぱいで彼の気持ちにすぐに答えを出すことは出来なかった。  礼二の手に握りこまれたままのむき出しの竹箸を見て翼は、今日、文房具屋に栞を買いに行く時についでに雑貨屋にも寄って、箸入れを買って来てやろうと思った。  自分用の箸を最近持ち歩く人も多いみたいだし、せっかく作ってもらったものだ。  なるべくその箸で食事させるようにして手に馴染ませて使い慣れさせるといいかもしれない。  片手にクマを抱きかかえて箸を握りこんでいる礼二に 「月曜日にその箸をくれた人に礼二からも改めてちゃんとありがとうってお礼を言わなくちゃ駄目だからな」    と穏やかな口調で言い聞かせて柔らかい髪を梳くようにして撫でた。  翼に頭を優しく撫でてもらって礼二は嬉しそうに笑みを浮かべて「うん」と短く返事をした。  礼二が手に持っている箸を翼は受け取って、サイドボードの上に置いてから、ベット脇に置かれている椅子に腰掛ける。  風邪が治りかけている礼二に本でも読んでやって寝かしつけてやろうと思って、翼は自分がお気に入りの小説を手に取り、開いて音読し始める。  礼二は翼が小説を開いて音読し始めたその声に聞き入っていた。  話の内容はまったく頭の中に入ってはこない。  心地よく響く大好きな人の声を傍で聞いていられることがただ嬉しくて、幸せだった。  翼が小説を半分ほど読み進めてその声を子守唄代わりに聞いていた礼二は、春の暖かい陽気と眠気に誘われるままうとうととベットに座り込んだまま船をこぎ始める。  クマを抱きしめたままで船をこいでいる礼二を起こさないように気を付けて、翼はそっと抱きかかえてベットへと彼を仰向けに横たわらせた。  掛け布団を首元まで引き上げて整えてやり、礼二の額にそっと口付けて「おやすみ」と一言だけ耳元で囁いて、寝室を後にしてリビングへと向かった。  洗濯をしたり、部屋を掃除したり家事をして翼は10時まで時間を潰して過ごすことにした。  途中から何もすることがなくなって、日曜の朝にやっている旅番組を見て残りの時間を過ごした。  絶景を見下ろしながら入れる露天風呂に浸かっている芸能人がかなり羨ましかった。  絶景を見ながら、温泉や露天風呂に入って、美味しいものを食べて過ごすというのも一生に一度くらいはしてみたいものだ。  一人旅もいいが、あまり家族で長期間かけて旅行したことが無く遠出したことがない礼二を連れて二人で旅をするのもいいかもしれない。  牧場へいって動物や自然と触れ合ったり、旅館に宿泊して温泉に入ったり、そんな風にして過ごせたらいい思い出作りになるだろうか。  翼はそんなことを考えて、バイトが見つかったらコツコツと少しずつ積み立てて貯金して、いつか礼二と二人で旅行に行こう考えてそれも目標に頑張ろうと心に決めた。

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