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初めてのお留守番~佐藤といっしょ~【10】

 生まれてこの方自分以外の他人にここまで強く興味を持って惹かれた事も、自分の方に振り向かせたいと思ったのも礼二が初めてだった。  人を好きになるという気持ちが今まで理解出来ずに、幼い頃からこの年になるまで自分の周囲にいる人間には本性を隠して欺き続けてきた。  目立たないけどいい人という自分自身で造り上げた殻を破る事が出来ずにぬくぬくとしたぬるま湯につかって生きてきた。  周囲の人間に目立たないし普通だけどいい人と言われるたびにそれを苦痛に感じていた。  自分で造り上げたその外殻を破る事で周囲の人間にどう見られどう思われるのか考えると思い切った行動に出ることは躊躇われた。  本当の自分をさらけ出してもいいと思える、そして本性を知っても態度を変えずに接してくれるようなそんな相手を無意識に求めていた。  礼二相手であればこんな風に自分を偽らずに接する事が出来る。  今までそれを出来る相手は一人もいなかった。  それはただ、単に礼二が翼以外の人間に興味が薄いというだけの理由かもしれない。  礼二は佐藤が何を言っても、何をしても、ただありのままを受け入れてくれるような気がした。  純真無垢で生まれたての雛鳥のように礼二はまっさらで穢れの無い心を持っている。  好きな人の傍にいられればそれだけできっと礼二は幸せで、それ以上は何も自分からは口に出して求めたりはしない。  好きな人のために一生懸命に何かをしようとするその言動や行動は突拍子がなく、常人には理解できないありえないものばかりで初めて彼に接する他人はきっと驚かされたに違いない。  見返りを求めずただ相手を想う、礼二の愛はきっと何より純粋で、そして常人から見れば狂っているように見えるのだろう。  礼二のそんなところに自分は無意識に惹かれ、彼のように自分を偽らずにありのまま生きられたらと思った。  そして、自分が本性をさらけ出しても、礼二は態度を変えずに接してくれるのではないかと、ただ漠然とそう思っていた。    実際、礼二相手に、普段の自分とはまったく違う本当の自分をこうやって、さらけ出している。    下の名前をぽつりと小さな声で繰り返し呼んでくれた礼二の頬をそっと撫でて、その唇にそっと触れるだけのキスをして、背中に腕を回して彼を抱きしめる。  折れてしまいそうな細い腰を抱き寄せて向かい合って彼の額に自分の額をくっつけて至近距離で視線を合わせてその紅い双眸に映る自分の姿を見る。  礼二は佐藤に抱き寄せられて、至近距離で見つめられて、目を白黒させて、なにがなんだかわからないというような表情でこちらを見返していた。 「礼二様……礼二様が翼君のことを好きなように、僕は貴方のことが……」  きっと、そう、好き――なのだろう。    今まで、生きてきてはじめて人を好きになった。  好きになったその相手が同じ男だという事はこの際どうだっていい。  この学園に通っている半分以上の生徒は同性同士で付き合っているらしいと自称情報屋のクラスメイトから聞いた。    好きという言葉を口にしてしまうのは躊躇われる。  自分が礼二の事を好きだと告白したところできっと何も変わらないような気がした。  翼の事を盲目的に愛している礼二にこんな自分が告白したところで彼を振り向かせる事なんて出来るはずも無い。  もっと決定的に礼二がどん底にまで落ち込んでいる時に手を差し伸べる位しなければ、彼に自分の存在を認めさせる事すら出来ない。    礼二の体温と吐息を至近距離で感じながら抱きしめる腕に力を込めた。  もっと礼二に自分を見て欲しい、せめてこうやって二人きりでいる時くらいは下の名前で呼んで欲しい。  彼の心のスキマにほんの自分の一部だけでも残す事が出来たならそう思ってまだ薄赤く散っている首筋にあるキスマークをなぞり口を付けた。  礼二のきめ細かく白い肌は軽く歯を立ててほんの少し強めに吸い付いただけで綺麗に印が残って花弁のように痕が残る。  前に自分が礼二を抱いた時に付けたその痕をなぞる様に唇を付けて吸う佐藤を礼二は瞬きすらせずにただ人形のように無心に見ていた。  翼が佐藤の付けたそのキスマークに気が付いて、それを消し去ろうと上書きして付けたその痕をまた佐藤が吸って痕を付けて消し去ってゆく。  自分の首筋に吸い付いている佐藤の唇の湿った感触にただ嫌悪感しか感じなかった。  同じキスをするという行為でも相手によってこんなにも感じ方が違うものなのかと礼二はぼんやりとした意識の中で思っていた。  翼に全身の至る所に口付けられて痕を付けられている時はくすぐったさと嬉しさを感じていたのに、佐藤にいま同じように口付けをされている場所には何も感じない。    佐藤の唇は首筋、鎖骨へと滑り降りていき胸や足の間にまで及ぶ。  足の間の太腿に口付けられて、やっと礼二は佐藤の愛撫に反応を返した。 「んっ……」  感じやすい場所に近いところに舌を這わせられると中途半端で放置されていたそれがピクピクと解放を求めて蜜を溢れさせた。     佐藤が足の間に顔を埋めて太股の普段は日にさらされずに隠されている部分にまで口付けてキスマークを残した。  前に付けた痕に上書きするだけでなく一つずつ新しい場所へと印を付けて、少しでも礼二が自分のものであると言う証を残したかった。  礼二の事をただの兄弟としてしか見ていないであろう翼がこんな場所に残された痕跡に気付くような事はないだろう。     中途半端に放り出されて蜜を溢れさせて震えている肉茎には触れずにその周囲に舌をゆっくりと這わせて礼二の反応を見る。  礼二はぞわぞわと背筋を駆け上がる鈍い快感に全身を小刻みに震わせて時折、くぐもったような声を息とともに吐き出した。 「はっ……んんっ」 「礼二様、欲しいですよね、ここに、指なんかよりもっと太くて固いものが……」 「ううっ!」  足の間の奥まった部分にある桜色の入り口近くに口付けて先ほど解して柔らかく慣らしたそこを撫でるように指の腹で触れると礼二の肩がびくりと跳ねた。    後ろへと指を2本差し入れて内側の柔らかくとろけた内壁の感触を楽しむようにゆっくりと指を出し入れし始める。  根元までは差し入れずに入り口に近い部分の粘膜を指の腹で擦って焦らすようにゆるゆると刺激を与える。  礼二自身の先走りの液を塗りこめられた内部はぬるぬるとして温かく指の腹の皮膚越しに感じる肉壁の感触だけでも心地が良かった。  内側の肉が入り口に近い部分でくちゅくちゅと卑猥な水音を立てながら出入りする指に嬉しそうに吸い付いてもっと奥へと誘い込むように蠢いた。 「ふあっ、あっ、あっ、んんっ」  指が出入りする度に礼二の唇から零れる甘さを含んだ声を聞きながら内側の粘膜を掻き回していた指の動きを止める。  人差し指と中指を揃えて第二関節までしか差し入れずに中途半端に刺激されたせいでもっと強い快感を求めて礼二の内側の肉壁が挿入されたままの指を離すまいとするかのようにぎゅっ締め付けた。 「ほら、礼二様の中の肉がこんなに僕の指に食いついてますよ」 「うっ……ああ……」 「翼君相手じゃなくてもこんな風になるなんてよっぽど好きなんですね」 「ふえ……ううっ」  佐藤が言った台詞を聞いて礼二は嗚咽を漏らしながらも首を左右に弱々しく振ってそれを否定した。  体の反応を見れば感じているのは明らかなのにそれでも礼二は翼以外の男にこんな風にされて感じている事を認める訳にはいかなかった。  翼への思いを裏切るように熱くなる身体を持て余して、それを堪えるように両手で口を押さえて気を抜けば零れ出そうになる喘ぎ声を必死で押し殺した。 「んっ……んんっ!」 「礼二様はいやらしいことをされるのが好きなだけで、翼君相手じゃなくても誰にされても気持ちよくなれるような淫乱ですよ」 「うっ、うあ、ううっ!」  また涙をいっぱいに眦に浮かべて、礼二は首を左右に必死で振りたくって佐藤に言われた言葉を否定しようとした。  (違う……違う……俺が欲しいのは翼……だけ……)  そう思っているのにそれを裏切るように身体は快感を求めて、翼以外の男の指に嬉しそうに絡みつき、それを離すまいときつく締め付ける。

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