146 / 152

初めてのお留守番~佐藤といっしょ~【17】

   誰に抱かれても感じるような淫乱……佐藤が言ったそんな言葉どうりの身体をしている自分を認めてしまえばきっと楽になれる。  けれど、それを認めてしまえば、ズルズルと深みにはまって抜け出せなくなるような気がした。  翼以外の男に身を委ねる事に抵抗がなくなって、いつしかそれが当たり前のようになってしまいそうで怖い。  翼への想いを裏切るような身体をしている自分を誰よりも許せないと思っているのは礼二自身だ。  今も思い通りにならない自分の身体を引き裂いて、心臓を取り出して心と身体をバラバラに腑分けにしてしまいたい衝動を抑えるのに必死だった。  肉体という檻を捨てて、精神体になってしまえば、翼の事だけ考えて翼の為だけに存在することがきっと出来るようになる。  他の誰にも干渉されずにずっと翼の傍にいられる。  そう考えていた。  だけど、翼は礼二に生きて欲しいと言った。    生きて自分の傍にいて欲しい。自分が死ぬまで傍にいてそれを見届けて欲しい。自分が死んでいなくなっても礼二には生きていて欲しい。  それが翼の願いだった。  翼としたその約束があるから、礼二は今、生きている。    翼以外の男に抱かれることを拒む心と熱を持て余して貪欲にただ快楽だけを求め貪ろうとする体が礼二の精神を疲れさせて徐々に蝕んでいく。    佐藤は握り締めた拳で瞼を擦り涙を拭いながらしゃくり上げている礼二の頬を労わるように掌で撫でて、耳元に口を寄せて穏やかな口調で囁いた。   「礼二様……痛かったですよね……かわいそうに」  そんな事をいいながら自分が殴りつけたせいで腫れている礼二の頬を撫でる。  ずっとジンジンと熱を持っている赤く腫れた頬を掌で確かめるように触れられて礼二はビクリと肩を跳ね上げて身を固くして佐藤の顔色を伺うように見返した。  また殴りつけられるのではないかと殴られた時の痛みと衝撃を思い出して震え上がった。  自分以外の他人をこんなに恐ろしいと感じたのは初めての事だ。 「せっかくの綺麗な顔がこんなに腫れて……殴るつもりなんてなかったんですよ、だけど礼二様が翼君の名前ばかり呼ぶから貴方を抱いているのは目の前にいるのは僕なのに他の男の名前を呼んだりするからついカッとなって、だから僕は悪くない。礼二様がいけないんですよ。僕とセックスしている時に他の男の名前を呼んだりして、だからそう、呼んでください。もう一度。僕の名前を――」  早口で抑揚のない口調で淡々とそんな事を言い出した佐藤を見上げて礼二は目を見開いていた。  得体の知れない相手にどう接したらいいのかわからない。  怖い――ただ恐怖ばかりが頭の中を埋め尽くして目の前がまっくらになって何も考えられなくなった。     目の前にいる男の名前がなんであったかなど、とっくに忘れてしまって思い出すことが出来ない。  この男が自分に何でこんなことをするのか礼二には訳がわからない。  翼と自分との仲をこの男が引き裂こうとしていると言う事だけしか……。  性的な事にあまり関心が無く、疎かった礼二に快楽を植え付けたのは佐藤博文という名前の男だ。  名前はすぐに忘れてしまうが、その存在は確かに礼二の頭の中に徐々に入り込んでいき、快楽と恐怖という感情で礼二を萎縮させ、そして支配している。  いつまでたっても答えない礼二を見下ろして佐藤は深いため息を付いて悲しげに眉を寄せて自虐的な笑みを浮かべた。 「僕の名前は゛ひろふみ゛ですよ。博文」    礼二以外の多くの人間にいてもいなくてもいい存在だと思われている自分だ。  憶えてもらうためには何回も何回も繰り返し礼二の耳に自分の名前を吹き込んで刷り込まなければいけない。  翼の事だけで常に頭をいっぱいにしている礼二に自分の名前を覚えて貰おうと赤く腫れてしまって痛々しい頬を労わるように撫でながら自分の名前を彼の耳元で繰り返し吹き込む。 耳元に掛かる吐息に礼二は身震いして相手を恐る恐る見返す。 「うっ……んんっ」  震えながら礼二が頷いたのを見て佐藤は微笑を浮かべ、 「僕の名前をもう一度呼んでください」  穏かな声色でなるべく礼二を怯えさせないように気をつけて耳元でそっと囁く。 「ひ、ろ……ふみ」  礼二が震えながら掠れた声で恐る恐る口にした自分の名前を聞いて佐藤は目を細めて礼二が呼んでくれた自分の名前のその響きを噛み締めるように瞼を閉じる。  しばらく無言で瞼を閉じていた佐藤はゆっくりと瞼を開けて、礼二の頬を撫でて 「礼二様、僕にどうして欲しいですか?」  そう聞いて返事を待つ。  中途半端で与えられていた快楽を取り上げられて放置されている体は限界を訴えている。  身体の奥が疼いて、悪い熱が全身に広がっていくようで、これ以上はもう我慢できないとでもいいたげに内腿が震え、滲み出した先走りの液が肉茎を伝うその感触にすら反応して、熟れて腫れぼったくなった入り口が閉じきらずに内側の粘膜を覗かせたまま、ヒクヒクと開け閉めを繰り返していた。  異物感に苦しんだのは最初のうちだけで、今は馴染んでいた肉棒が抜け出ていった喪失感で身体の奥が切なく疼いて、拭っても拭っても、涙が溢れ出して止まらなかった。  もっと強い快感を求めて疼く身体を持て余して、震える身体を抑えるだけで精一杯だった。  翼以外の男に抱かれるのを拒む心が最後の理性を繋ぎとめていたが、もう精神的に疲れきってしまった礼二は光りを失った赤い瞳で佐藤を見上げて、より強い快楽をくれる欲望の塊で貫かれる事を求めてその言葉を口にする。 「欲しい……」 「誰の何が欲しいんですか?」 「博文のちんこ」  礼二が口にしたその言葉を聞いて佐藤は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。  頬を撫でていた手を礼二の下肢へと滑らせて、いやらしく肉棒を求めてヒクついている入り口に指を差し入れて指の間を開いて中の粘膜を外気に晒す。 「んっ…あぁ…」 「ここですか? ここに欲しいんですか僕のチンポが?」 「あっ…ほ…欲し…そ、こに……」 「スケベ穴にまた突っ込んで欲しいんですか? 僕のチンポ」 「う、んんっ……」  礼二が頷いたのを確認して佐藤は口端を吊り上げて笑みを深くして笑い出したいのを堪えながら、ずっと固くそそり立ったままの自身の肉棒を掴んで先端を礼二のヒクついている入り口へと宛がう。 「あっ……ああ……」  礼二の期待にうわずった甘さを含んだ声を聞いて、滾りきった欲望を全て叩きつけるように、一息にギチギチと限界にまで膨れ上がった肉棒を突き入れた。 「ひあぁあぁあっ!」  奥まで肉棒が入ってきて感じる部分をゴリゴリと押し上げてその衝撃だけで礼二は精液を桜色の先端から放出して果ててしまった。 「あ――っ!」  ビクビクと震えながら礼二が射精をする時に佐藤の肉棒をギチギチと痛いくらいに肉筒の中の壁が締め付ける。 「ぐっ……ううっ!」  ぎゅうぎゅうと精液を搾り取ろうとするかのようなその肉壁の動きに、佐藤も射精してしまいそうになるのを呻きながらなんとかしてぐっと堪えた。  完全に気をやってしまった礼二の腫れていない方の頬をぺちぺちと軽く叩いて覚醒を促した。 「はっ、はあ……礼二様? 大丈夫ですか?」 「ふあっ、あっ、あ――……」  礼二はガクガクと全身を震わせて、ただ間延びした喘ぎを繰り返すだけで、佐藤の言葉に反応を返さなかった。 イッたばかりで余韻に浸り、まだ浮上してこない礼二の意識を覚醒させようと繋がったままの状態で礼二の腰を掴んで抱えあげる。

ともだちにシェアしよう!