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幽霊でもかまわねぇ

「っにしても、幽霊に見えねぇな」 目の前の叶は、以前と同じ。 服も着ているし、足もある。 顔色も艶々して元気はつらつ。 めちゃくちゃ、健康そう。 「じゃあ聞くけど、幽霊らしい幽霊ってどんなもの?」 幽霊としてのプライドを傷つけられたのか、唇を尖らせて睨む。 まずい。 怒ってる顔が、超絶かわいい。 その唇に吸い付きてぇ。 「半透明? もっと輪郭がぼやけてたり?」 心半分で答える。 はっきりいって、そんなことはどうでもいい。 それよりも、キスしたい。 もちろん、ますます怒らせそうだから、口には出さない。 もっと怒らせてみたいって気持ちもあるけど。 我慢我慢。 あー、オレの頭の中、お花畑。 こんなキャラじゃなかったのに。 生まれて初めての恋心に振り回されている。 「何、ニヤニヤしてるんだよっ!!」 「あれ? オレ、笑ってた?」 ヤベー、だだ漏れ。 自重自重。 でもさ、何やっても可愛いから仕方がない。 それにさ、オレらは両思いじゃん? あのとき、確かに叶は「愛してる」って言ってくれた。 そもそも、幽霊になって会いにきてくれたってことは、めちゃくちゃ愛されてるって自信を持っていいよね? やっぱり、我慢できねぇ。 この場で番にしちゃうぜ! 「叶……」 叶との間合いを素早くつめる。 まずは、唇から。 !!!! 叶の後頭部を押さえたはずの右手が空をきる。 「あっ」 叶も目を見開いたあと、シュルシュルと空気の抜ける音が聞こえるような明らかさで肩を落とした。 うつむいたまま、顔をあげる気配はない。 「そうだよな、幽霊だもんな。触れることができねーの当たり前だよな」 明るく茶化したつもりのオレの言葉にますます、下を向く。 けっ、情けねぇな、オレ。 励ますつもりが、傷つけてどうする。 「あー、もー!」 自分への苛立ちにあげた声に、叶の顔色が青ざめる。 「ちがうから。触れあえなくても叶がそこにいてくれるだけでいいから」 「ほんとに?」 「うん。ほら、どうしてもって時は1人エッチしてる姿を見せてくれたら、それでマスをかくし」 「んだよ!変態!!」 「男なら、当然の願望だろっ?」 「一緒にするなっ!」 プイッと、顔を背ける。 さっきまでのピンと張りつめた空気はすっかり霧散する。 機嫌をなおしてくれたかな? 叶? 心配することはない。 オレは、生涯、叶だけだから。 例え、体を繋げることはなくても、 つがうことがなくても、 心が変わることはないから。 だから、オレを信じろよ? それだけで、いいから。 オレは、心の中で語りかけた。

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