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第8話

うっすらと香る金木犀の甘い香りが絽玖の衣の奥から匂ってくる。その芳しい香気に、師匠(仮)の心の臓が激しく揺れ、喉が詰まったように息を吸う事が出来なくなった。 貧血でも起こしたのかと思わずにはいられないほどの衝撃が師匠(仮)を襲ったのだ。 『・・・え?』 「・・んっ・・・んふ・・っ・・・」 ぴちゃぴちゃと絡む水音と、ぬるんと入り込まれたことで逃げようとしていた彼の舌を絡めるように舐めとっていく絽玖の柔らかな舌の感触に、最初何をされているのか理解が出来ず微動だにしていなかった師匠(仮)の腕が、段々と彼から離れようともがくような仕草を見せ始めた。 「・・・・んっ・・・っ・・」 師匠(仮)が空をかく度に彼の腰を抱いていた絽玖の力がグッと強くなり、噛み付くような口付けに師匠(仮)の指が彼の胸元の衣を優しく掴んだ。ずるりと膝から下の力が抜けたままの彼の身体を支えるように絽玖の手が背中に触れ、咥内で師匠(仮)の舌先をちゅうっと強く吸い上げると、びくんと師匠(仮)の肩が僅かに上がった。 「・・んんっ・・ふっ・・」 びくりと震える師匠(仮)の背を腕に感じながら、絽玖の口元が怪しく嘲笑った。 「・・・っ・・」 互いの唇が離れる寸前、師匠(仮)の唇からは垂れた蜜が名残惜しそうに糸を引いている。 頬を染め、とろんと熱に浮かされた様な瞳と半開きのままの唇に絽玖の口角がニヤリと上がり、どこにそんな力があるのかと思うほどの強い力で師匠(仮)を横抱きにして振り返った。 「・・気に入りました。この子は私がもらいますよ」 「・・ぇ・・・」 「いいいいいいいいい!いけませぬ!何をっ!何をなさるのですかー!」 カァ―!ッとコンの狼狽する声が部屋中に響き渡る。 最初、眼前の光景に理解が出来ず、目を見開いたまま先生も同じように絽玖を見た。 「なっ・・!そうだ!おっ前・・いきなり何を・・!」 「気に入ったのです。それだけですよ。なぁに、ちゃんと生きたままお返しします。では・・」 「な・・・何をっ!・・おっおやめなされませ!検非違使を呼びまするぞー!」 「すまん・・この世界には検非違使はおらんのだ」 「あー!そうでございましたー!とっとにかくお放しくださりませ~!!」 これでもかと耳と髭をピーンと尖らせたまま、コンが駆け寄ろうとした瞬間。 竜巻のような強風が吹き、飛ばされそうになったコンを支えようと先生が卓を飛び越え、コンの肩を抱えるように前に出た。 「・・・・ぐっ!」 一瞬の強風。強風が止んだ瞬間、鳥の羽が一羽、はらりと舞い落ち、二名の姿はもう、何処にも見当たらなかったのである。 「・・・・行ったか・・くそっ!」 バンっと先生が床を叩く拳の音が静かに響いた。 「嗚呼・・なんて・・なんてこと・・」 その場に崩れ落ちながら頭を抱えるコンの肩に手を置きながら、先生もまた前を見た。 「大丈夫だ。きっと、戻ってくる」 「本当でしょうか・・?」 「ああ。だが、貞操の保証は出来んぞ・・何せ相手があの絽玖だからな・・」 「嗚呼・・・」 「・・先生・・」 風の音に驚いて飛び出して来たのだろう。お玉を手にしたままの秌が呆然と前を見ている。 「秌・・」 「なんだ!今の風!俺、目が覚めちまったぞ~」 朧狐は寝ぼけ眼のまま、首をキョロキョロと動かしていたが、鼻が痒くなったのか「くちゅん」と小さなくしゃみをし始めた。 「大丈夫?朧?」 「ん・・寒い・・」 「お風呂行く?」 「うん。風呂行く。行ってくる」 椅子からピョンッと飛び降りる朧を横目に先生は未だ呆然と座ったままのコンを見た。 「まぁあれだ。連れて行かれてしまったものはどうにもできん。コン殿も湯に浸かってきたらどうだ?」 「ええ・・ええ・・そういたしまする・・・」 よろよろと力なく立ち上がるコンを見て、先生は うっすらと香る金木犀の甘い香りが絽玖の衣の奥から匂ってくる。その芳しい香気に、師匠(仮)の心の臓が激しく揺れ、喉が詰まったように息を吸う事が出来なくなった。 貧血でも起こしたのかと思わずにはいられないほどの衝撃が師匠(仮)を襲ったのだ。 『・・・え?』 「・・んっ・・・んふ・・っ・・・」 ぴちゃぴちゃと絡む水音と、ぬるんと入り込まれたことで逃げようとしていた彼の舌を絡めるように舐めとっていく絽玖の柔らかな舌の感触に、最初何をされているのか理解が出来ず微動だにしていなかった師匠(仮)の腕が、段々と彼から離れようともがくような仕草を見せ始めた。 「・・・・んっ・・・っ・・」 師匠(仮)が空をかく度に彼の腰を抱いていた絽玖の力がグッと強くなり、噛み付くような口付けに師匠(仮)の指が彼の胸元の衣を優しく掴んだ。ずるりと膝から下の力が抜けたままの彼の身体を支えるように絽玖の手が背中に触れ、咥内で師匠(仮)の舌先をちゅうっと強く吸い上げると、びくんと師匠(仮)の肩が僅かに上がった。 「・・んんっ・・ふっ・・」 びくりと震える師匠(仮)の背を腕に感じながら、絽玖の口元が怪しく嘲笑った。 「・・・っ・・」 互いの唇が離れる寸前、師匠(仮)の唇からは垂れた蜜が名残惜しそうに糸を引いている。 頬を染め、とろんと熱に浮かされた様な瞳と半開きのままの唇に絽玖の口角がニヤリと上がり、どこにそんな力があるのかと思うほどの強い力で師匠(仮)を横抱きにして振り返った。 「・・気に入りました。この子は私がもらいますよ」 「・・ぇ・・・」 「いいいいいいいいい!いけませぬ!何をっ!何をなさるのですかー!」 カァ―!ッとコンの狼狽する声が部屋中に響き渡る。 最初、眼前の光景に理解が出来ず、目を見開いたまま先生も同じように絽玖を見た。 「なっ・・!そうだ!おっ前・・いきなり何を・・!」 「気に入ったのです。それだけですよ。なぁに、ちゃんと生きたままお返しします。では・・」 「な・・・何をっ!・・おっおやめなされませ!検非違使を呼びまするぞー!」 「すまん・・この世界には検非違使はおらんのだ」 「あー!そうでございましたー!とっとにかくお放しくださりませ~!!」 これでもかと耳と髭をピーンと尖らせたまま、コンが駆け寄ろうとした瞬間。 竜巻のような強風が吹き、飛ばされそうになったコンを支えようと先生が卓を飛び越え、コンの肩を抱えるように前に出た。 「・・・・ぐっ!」 一瞬の強風。強風が止んだ瞬間、鳥の羽が一羽、はらりと舞い落ち、二名の姿はもう、何処にも見当たらなかったのである。 「・・・・行ったか・・くそっ!」 バンっと先生が床を叩く拳の音が静かに響いた。 「嗚呼・・なんて・・なんてこと・・」 その場に崩れ落ちながら頭を抱えるコンの肩に手を置きながら、先生もまた前を見た。 「大丈夫だ。きっと、戻ってくる」 「本当でしょうか・・?」 「ああ。だが、貞操の保証は出来んぞ・・何せ相手があの絽玖だからな・・」 「嗚呼・・・」 「・・先生・・」 風の音に驚いて飛び出して来たのだろう。お玉を手にしたままの秌が呆然と前を見ている。 「秌・・」 「なんだ!今の風!俺、目が覚めちまったぞ~」 朧狐は寝ぼけ眼のまま、首をキョロキョロと動かしていたが、鼻が痒くなったのか「くちゅん」と小さなくしゃみをし始めた。 「大丈夫?朧?」 「ん・・寒い・・」 「お風呂行く?」 「うん。風呂行く。行ってくる」 椅子からピョンッと飛び降りる朧を横目に先生は未だ呆然と座ったままのコンを見た。 「まぁあれだ。連れて行かれてしまったものはどうにもできん。コン殿も湯に浸かってきたらどうだ?」 「ええ・・ええ・・そういたしまする・・・」 よろよろと力なく立ち上がるコンを見て、先生は秌に視線を向けながら、顎をくいっと動かし、寄り添うように促した。 弾かれる様に秌が動き、卓にお玉を乗せるとコンに寄り添うように歩いて行く。 その背を黙って見送りながら、先生はやれ困ったと言わんばかりの表情で、床に置いていた焼酎『げんごろう』の蓋を開けると、猪口に注ぐことなくそのまま注ぎ口に口を付けた。 『・・・全く、困ったことをする・・・。侵入者もまだわかっていないというのに・・』 いつもなら美味いはずの焼酎の香りも鼻に入って来る気配はなく、先生は頬杖を突いたまま重く気怠い息を吐いたのである。 に視線を向けながら、顎をくいっと動かし、寄り添うように促した。 弾かれる様に秌が動き、卓にお玉を乗せるとコンに寄り添うように歩いて行く。 その背を黙って見送りながら、先生はやれ困ったと言わんばかりの表情で、床に置いていた焼酎『げんごろう』の蓋を開けると、猪口に注ぐことなくそのまま注ぎ口に口を付けた。 『・・・全く、困ったことをする・・・。侵入者もまだわかっていないというのに・・』 いつもなら美味いはずの焼酎の香りも鼻に入って来る気配はなく、先生は頬杖を突いたまま重く気怠い息を吐いたのである。

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