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第3話
忘れたフリしてもお見合いの日は容赦なくやって来る訳で。
朝も早くから美容室に強制連行されると髪をセットされ、何時の間に用意したのかオーダーメイドのスーツを着させられ、有無を言わせない勢いで車に乗せられた。
死刑執行場へ向かうような心境で窓の景色を見ていると、母が不意に言った。
「東宮のおばさんが言うには今日のお相手は紅城月 一族の分家の方らしいわよ」
紅城月――。
表八家と呼ばれる国の表世界で絶大な権力を握り、頂点に君臨している八家の一つ。
縁を結びたい。お近付きになりたいと胸を焦がす権力者や金持ちが履いて捨てるほどいるだろう。女性のα、β、Ωから選びたい放題のはずだ。
何で中流家庭の男 とお見合いなんかするんだ?
もしかしてバレーボール好きで県大会か何かのテレビ放送を観てファンになったとか?
バレーしている時の僕は三割増しでカッコイイからな。なくもないかな……。
と言うか、そんな凄い一族との見合いを東宮のおばさんどうやってもぎ取ってきたんだ?
おばさんはデザイナーで芸能関係にも多少顔が利くって自慢していたけど、そのルートなのかな?
暫く考えてはみたものの答えが出る訳もないので、ラジオから聞こえてくる下らない話に耳を傾け気持ちを紛らわせる事にした。
+++
車が目的地に到着。
一見して格式の高さが伺える門を潜ると、見事な日本庭園が広がっていた。
もう既に帰りたいんだけど、帰っちゃダメかな?
鉛でも巻き付いているかのような重い足取りで建物内へ入ると、入り待ちしていた東宮のおばさんが物凄い興奮状態で近寄ってきた。
「雅也ちゃん。今後二度とないくらいの良縁だからね。絶対にモノにしなさいね!」
僕の両手を握るおばさんの握力の強さたるや、リンゴを砕かんばかりで痛い!
獰猛な肉食獣のような目で「モノにしろ!」と怨念を送られ一言も発する事が出来ないまま見合い会場へ連行された。
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