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2 ラグレイドの夜警の日

 十日に一度ほど、ラグレイドには夜警勤務の日がある。  夜中に出勤し、朝まで騎士団領地や街中の警備をするのだ。大変だけど責任のある立派な仕事だなあと思う。  だけど俺は最近このラグレイドの夜警の日が憂鬱でならない。ひとりで眠る事なんて、王都にいた時には普通だったのに。ここへ来てラグレイドと毎日一緒に寝るようになってから、ラグレイドのいないベッドで眠るのが不安というか、淋しいというか、とにかくうまく眠れないのだ。  ラグレイドの夜警の次の日は、結果的に俺は日中眠くてしかたがなくなる。  対策として、ラグレイドの代わりに、ラグレイドの私物と一緒に寝るという方法を試している。  これは効果があったりなかったり、モノによる。ラグレイドの本とかペンとかと一緒に寝ても全然うれしくない。眠れない。  その日着ていたシャツとかが一番良い。ほどよく匂いが染みついていて、ラグレイドの雰囲気の名残りがある。ちょっと手を拭いたタオルくらいじゃ効果は薄い。  シャツがほしい。  その日一日着ていたシャツだ。パンツだとなんだか変態じみているからやっぱりシャツだ。だけどラグレイドにはなんとなく、言い辛い。 「どうしたんだシオ? なにか困りごとか?」  仕事の支度を始めているラグレイドのシャツを、知らずにむんずと掴んでいた。 「こっ、このシャツ、とっても着心地がよさそうだな、と思って」 「それならば、同じものがクローゼットにまだあるからあげようか。すこし大きいかもしれないが」 「これがいい」 「これが」 「うん。俺、これが着たい。いま着たい」  ラグレイドは困ったように眉尻を下げた。そうして「わかった」と頷いて、その場でシャツを脱いでくれた。  ラグレイドの発達した胸筋と逞しい腹筋、厚みのある肩や腕が露わになった。  ほら。とまだぬくもりの残るシャツを差し出され、俺は喜んで受け取ったのだけど。  いま着たい。と駄々をこねたのだから、今、着なくては。 「あ、ありがとう」  もらったシャツを片腕に抱え、ぷちんぷちんと着ているシャツのボタンを外す。  なんだか俺、大丈夫かな。変に思われていないかな。人の着ているシャツを奪ったりして。ていうか、さっきからすごく見られている?  視線を感じて顔を上げると、ラグレイドは俺の姿を、目を眇めてじっと見下ろしていた。 「・・・・手伝おうか」  手が止まってしまった俺の代わりに、ラグレイドの大きな手が伸びてきて、俺のシャツを脱がしはじめた。  俺の身体は貧相だ。あんまり筋肉がないからだ。ガリガリというわけではないけれど、痩せている、つまんない身体だ。なのに、どうしてラグレイドはそんなに食い入るように俺の身体を見るのだろう。  乳首だろうか? このまえもラグレイドは、ベッドの中で俺の乳首ばかりいっぱいいじって舐めたっけ。  と思い出したらなんだか恥ずかしくなってきた。 「シオ」  名前を呼ばれた。と思ったら、ぎゅっと抱きしめられた。  ラグレイドの裸の上体が俺の身体にぴたりとくっついて、とてもあたたかい。肌の感触、大好きな匂い、気持ちがいい。しあわせだ。俺もぎゅっと抱きついていっぱい深呼吸をした。 「いってらっしゃい」  ぶかぶかのシャツで手を振る俺に、 「行ってくる」  ラグレイドはそう告げた後で動きを止め、もう一度俺を抱き締めてきた。  珍しいなあと思う。いつもだったら、ドアを開けたらすぐに毅然と出勤してゆく人なのに。  じっと見上げると、どこか気怠げな瞳で見下ろされ、そうして何度かちゅっとキスをされた。 「戻ったらいっぱい、・・・・させてもらう」  耳元で低く囁かれた。あんまりにも真剣な表情だったから、怒っているのかなと思ったけれど、目元が少し朱く染まっているからそういうわけでもないかもしれない。  それにしても、今「ぺろぺろ」って言われなかった? 「・・・・」の部分、絶対「ぺろぺろ」だったと思う。  立派な大の男のイケメン獣人騎士が、ぺ・・・・。いや、俺の聞き間違いだったかもしれないし、これ以上「ぺろぺろ」について言及するのは止めておこう。  騎士は艶めいた瞳で俺を見たあと、ゆっくりと踵を返し夜の中へと出動して行く。  俺はそのあとなんだかドキドキしてしまって、やっぱりあまり眠れなかった。  身体を包むシャツからは、かすかにラグレイドのぬくもりが感じられる。けれど、当の本人の体熱が待ち遠しくてしかたがない。さっき見送ったばかりなのに、はやく帰ってこないかなあと思ってしまう。  

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