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10 知らなかった
ちょっと確認するだけだから。
そんな甘い言葉に促されて、俺はおずおずとその場で四つん這いになっていた。
両手でシーツを握りしめ、ぎゅっと両目を瞑って耐える。
だって、すごく恥ずかしいから。
俺の調子の悪いおしり、絶対に今ちょっとだけ濡れてしまっているはずだ。
もしもおしりに、なにかおかしな異常とかが見つかってしまったらどうしよう。そしてそれを、ラグレイドにばっちり見られて『変なおしり』などと思われてしまったら......? ああぁ、イヤすぎる。
ちらっと見るだけにしてほしい。確認なんてちょっとでいいから、すぐに終わりにしてほしい。
なのに。そのおしりに、ラグレイドの熱い息が吹き掛かるのを感じた。
......い、息がかかるほどの近さで見ているのか?
いや、いいからっ! そんな熱心に確認なんかしなくていいからっ。
俺は思わず身を捩って、その場を逃げ出そうとしたんだけれど、逃げ出すほんの一瞬前に、大きな両手でおしりの肉をがっちりと掴まれた。
そうしてそのまま、尻肉を左右に広げるようにして開かされた。
「ぁ......ゃ......っ」
恥ずかしすぎた。
こんなふうにじっくりと観察されるだなんて聞いていない。
明かりが灯ったままの明るいベッドの上だから、ソコが細部まで見えているのに違いない。
敏感な窄まりに絡み付くような視線を感じる。羞恥でワナワナと身体が震えだしそうだった。
「もっ、もういいだろっ」
ここまで見せればもう十分なはずだ。いい加減逃げても許されるはずだ。
俺は無理矢理に動いて逃げ出そうとして、愕然とした。
ぴくりとも動けない。どういう訳なのか、ラグレイドの太い腕に腰をがっつりとホールドされている。
なぜ?! 確認など、もう十分に済んだはずだろっ。
「......シオ」
熱に浮かされたような声がした。
背後から聞こえてくる獣人の呼吸は、ひどく乱れたものだった。
明らかに様子がおかしい。一体どうしたというのか。まさか、なにか変なスイッチが入ってしまったとか言う訳ではなかろうな?
俺は振り返って後ろを確認しようとして、
「......舐めさせて」
掠れた囁き声がして、ぎくりと身体を強張らせた。
な、舐める............って、まさか、この、おしりを......?
「やっ!、やだっ! ヤメッ」
慌てて止めようとして振り返り、そうしてたちまち後悔をした。
黒豹獣人の青年は、熱の籠った金色の瞳で俺の秘部をじっと見据え、今まさに、赤い大きな舌を出して、そこを舐めようとしていることろだった。
「っ......、......ぁっ、ぁ......」
俺は再びぎゅっと目を閉じ、ソコに感じる生々しい感触に耐えた。
やがて腰を掴んでいた手が緩み、ようやく俺はへなへなと姿勢を崩すことができた。
背後からは、獣人の荒い息遣いがする。
「......大丈夫だ、シオ。これはお漏らしなんかではない。おそらく、Ω機能が正常に動きつつある証しだと思われる......」
呼吸を乱しながらも、ラグレイドが所見を教えてくれる。
「Ω機能......」その説明を聞いて、俺ははっと思い出した。
そうだ、俺はΩの体質を持っている。
『Ωの身体は、うしろが濡れることがある』と、王都にいた頃に誰に教わったことがあった。『αの身体を受け入れ、体内に子種を注ぎ込ませるため』なのだと。
俺はずっと機能不全だと言われていたし、ちっともΩらしい症状が現われなかったから、ついつい忘れていたけれど。
「シオの身体、どこもいい匂いだ。それに、すごく甘い......」
いつの間にか、熱っぽい目をしたラグレイドの身体が目の前に迫っていて、俺は両腕を捕まえられた。唇が重なってくる。
まずは啄ばむようなキスをされた。ぎこちなく遠慮がちなキスはとても優しい。
それから口付けが少し深くなった。熱が伝わってくる。
キスの合間に、時おり目が合う。艶やかで美しい金色の瞳はどこか切なげで、求めるような眼差しをする。
......俺はΩだ。
そして、目の前にいるこの立派な獣人の青年は、おそらくとても優秀な、αだ。
金色の瞳から目を離すことができなくなった。ラグレイドとするキスのことしか考えられない。
俺は溺れるようにしてキスを受け入れ、自ら舌を差し出し粘膜を絡めた。もっともっと触れ合って、匂いや熱を交換したい。いっぱい撫でて、いっぱい触りたい......。
だけど獣人は、やがてぴたりと動きを止めた。
眉根を寄せ、どこか苦しげに目を伏せる。
「......シオ。俺は少し、シャワーを浴びてくるから」
俺の身体にガウンを着せかけてくれながら、ラグレイドは目を伏せたまま、俺から遠ざかろうとする。
「シオは先に、休んでいてくれ......」
ラグレイド身体が、するりと俺から離れていってしまいそうで、
「ラグ」
思わず、ラグレイドのシャツの裾をむんずと握りしめていた。
離れてほしくないと思った。
どうしても我慢ができなかったんだ。
苦しくて、涙目になっていたかもしれない。
「ラグ......、俺............、ちんちんがパンパンで、苦しいよぅ」
たぶん俺は、頭の中がどうかしていた。
ラグレイドにちんちんを助けてもらうことしか考えられなくなっていた。
俺は赤く張りつめてしまった自分の陰茎を、ラグレイドにそっと見せた。
「............」
獣人は、腫れて震える俺のソコを凝視して、それからすぐに動いた。
気が付くと俺は、シーツの上に仰向けに押し倒されていた。
「......んっ」
噛み付くような激しい口付けが降ってくる。
「......シオ......っ、シオ......っ」
白い牙と紅い舌を覗かせながら、ラグレイドは俺の身体中を貪るようにして喰んで、硬い大きな手でまさぐるようにして撫でた。
とても可愛い。綺麗だ。
いっそう、食べてしまいたい。
うわ言のように繰り返された。
身体を撫でまくられ、揉みまくられ、音を立ててあらゆる場所に口付けされた。べろべろといろんな場所を熱心に舐められ、たまに優しく歯も立てられた。
俺はラグレイドの身体にしがみ付き、時にはシーツにしがみ付き、激しく喘いで何度も精をまき散らした。気持ちが良くて、絶頂するたびに頭の中が真っ白になった。
重なり合う相手の身体からは、たまらなく良い匂いがしていた。肌は熱く汗ばんで、触れ合う所はどこもかしこも心地が良かった。
最近はおしりの不調があったせいで、ずっとこうすることを我慢していた。
けれど本当は、こうやっていっぱいラグレイドにくっ付いて、甘々なことをしたいと思っていたんだ。
二人して、汗や涎やその他のいろいろな体液にまみれていたら、おしりがちょっとばかり濡れることなど、なんでもないことのように思えてくる。
それよりも、互いに身体を重ね合わせて、体温を確かめ合って眠った方がずっといい。
だけど本当は、もっとエッチなことだって、ラグレイドはしたいのかもしれない。
ラグレイドの中心部は、ずっと大きく張りつめたままでいたからだ。
だけど俺には、そんなモノを受け入れられるような勇気はない。ていうか、そんなモノ、とても入るとは思えない。想像もできない。
騎士は「シオが怖がることはしない」と神妙な顔で頷いてくれ、いつものように優しく胸の中に抱いてくれる。
だから俺は油断していた。
何の考慮もなしに無防備に、久しぶりに一緒に眠れることを喜んで、獣人の腕の中で思い切り甘えて微睡んでいた。
「入れさせてほしい」
不意に、酷く苦しげな声がした。
指を、一本だけだから。
俺は、言われた意味がよく分からなくて、だから身構えることもしなかった。
ラグレイドの太い指が、ぬめりを纏ってゆっくりと、だけど確実な意志を持ってそこに這入り込んできて、俺はビクビクと腰を跳ねさせた。わけが分らないままフル勃起して、呼吸も追いつかないまま盛大に射精した。
「......いい子だ」
耳元で掠れた声がする。
指はすぐに身体の中から引き抜かれた。けれど呼吸は、全力疾走した後みたいにちっとも整わなくて、俺は呆然としたまま、ただはぁはぁと肩と胸とを上下させた。
ラグレイドの唇が再びそっと近付いて、眦に小さくキスをされた。汗で額に貼り付く前髪を優しく梳かれる。
......今の......、なんだったんだ............?
考えようと思っても、うまく頭が回らなかった。
呼吸が鎮まってくると、今度はひどい眠気が襲ってきて、まともに目を開けていることができなくなった。
微睡みの中で俺は、獣人の苦しげな息遣いを聞いた。腹や胸の上に熱い飛沫がいっぱい飛ばされるのも感じた。もしかしたらあの後、ラグレイドもまた吐精をしたのかもしれない。
それから丁寧に身体を拭かれ、髪を撫でられた気もするけれど、よく分からない。猛烈に眠すぎて、その後のことは記憶にない。
ただ、ラグレイドのあたたかい身体に包み込まれて、久しぶりに深い眠りに就けた気がした。
【シオが提出しなかった報告書】
世の中って、未知なことが多過ぎます。
世の中どころか、俺は自分の身体についても、知らないことが多過ぎる気がします。
いったい世の中のΩとαの人たちは、どうやってエッチなことをしているのでしょう。
だいたい獣人の陰茎はあんなにでっかいのに、......本当に入るのですか?
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