13 / 31

13 お祭りがたのしみ

 もうすぐ、商店街のお祭りの日だ。  お祭りの正式名称は忘れてしまったけれど、住民達からは「おいしいもの祭り」と呼ばれている。とにかくおいしいものを、安く、たくさん、バラエティ豊かに食べられるのだと、職場の人たちが皆言っていた。  お祭りが近付いているせいか、街全体がなんとなく浮足立っているように見える。  街角でコスプレをして、チラシを配る獣人の姿をよく見かけたり、掲示板にお祭り関連のカラフルなポスターが何種類か貼られていたりする。チラシやポスターには美味しそうな料理やデザートが紹介されていて、どれもこれもとても興味をそそられる。  街角でもらったチラシや割引券は、キッチンの壁の一角に貼り付けることにしていた。毎日何かしらの紙をもらうから、いつの間にか種類が増えていって面白い。  楽しそうだな。おいしそうだな。  俺が毎日チラシをもらってきては貼り付けて眺めるせいか、ラグレイドも職場などでもらったらしいチラシや割引券を、よく持って帰ってきてくれる。  ラグレイドがもらってくる割引券は、ちょっと豪華なものが多い。『焼肉一切れプレゼント券』とか、『わたあめ無料券』とかもある。  多くの獣人達が、この日のために休暇を取り、おなかの調子を整えて、ウエストの楽な服装に着替えてお祭りに繰り出すのだと聞いている。  なんて素敵なお祭りだろう。  俺もぜひラグレイドと一緒に行ってみたい。と思っていたのだけれど、残念なことにラグレイドはその日、仕事があるとのことだった。  それによくよく確認してみたら、その日は俺のほうも仕事があった。  というか、その日はいつもの事務所での仕事ではなく、なんと、商店街の空き店舗の一角を借りて、出張所職員みんなで「芋汁屋さん」を出すという仕事の日だった。  俺ははっきりいって料理が得意ではないし、芋汁なんて、作り方も手伝い方も分からない。  それに俺は獣人ではなく、もふ耳を持たない人間で、俺が店にいたら、売れるものも売れなくなる、なんてことにはならないだろうか。......心配だ。  というような悩みを、寝る前になんとなくラグレイドに話したら、隣でベッドに腰掛け話しを聞いてくれていた黒豹獣人の青年は、突然俺の身体を、ぎゅうっと胸の中に抱き込んだ。 「わっぷっぷ」  分厚い胸筋に包まれて、俺は一瞬ホットドッグの具になったような気分を味わった。 「大丈夫だ」  心地よく染み入る声が、俺の身体を包み込む。 「大丈夫だよ、シオ。祭りまでにはまだ日にちがある。段取りや出店に関する情報を、皆からしっかりと聴き取っておいで。芋汁ならば、俺が作り方を教えよう。明日から一緒に練習しよう」  大きな手のひらが、なでりなでりとゆったりと、俺の後頭部や背中を往復してゆく。 「俺が客だったら、シオの作った芋汁が食べたい」 「......本当?」 「本当だ。何杯でもおかわりしたい。なんなら鍋ごと腹に入れたい」  俺は思わず笑ってしまった。屈強強面黒豹騎士が芋汁を何杯もおかわりしだしたら、周りはびっくりするだろう。  笑いは、すぐに溜め息へとすり変わった。ラグレイドがもの凄く甘くて気持ちのいいキスをしてきたからだ。  ラグレイドのしてくるキスは、たまに俺の舌や唇を貪るみたいに、深くて執拗なことがある。それで俺は溺れるみたいな呼吸になるし、目の前のキスのことしか考えられなくなってしまう。  こういうキスをしてくる日は、たいてい俺は、身体中を剥かれて吸われて息も絶え絶えにされてしまう。 「今日も、吸うの?」  忙しなく始まった口付けの合間に思い切ってそう聞くと、獣人は俺の夜着のボタンを外しにかかりながら「吸うよ」と答えた。  やっぱりだ。これはちょっと逃れられない勢いだ。  肌を触れ合うのは好きだけど、あまり激しいのは困ってしまう。だって俺は、すぐに気持ち良くなってしまうし。 「俺、またぐちょぐちょになっちゃうよ」  後ろの穴だって、すぐに濡れてしまうんだ。  するとラグレイドは、熱っぽい瞳でちらりと一瞬俺を見て、 「いいよ」  すぐにまた俺の肌に吸い付くことに夢中になる。  肌着がはだけられてゆき、素肌が外気に晒されてゆと、心もとなさに身を竦めたくなるけれど、それよりも先に獣人の唇や手のひらに抑え込まれる。 「俺の身体、おいしいの?」  俺はシーツを握り、必死に快感を逃しながら、身体がどんどん侵略されてゆく感触に堪えていた。  たまらなく気持ちが良い。なのに、ラグレイドにがっちりと腰を捕えられていると、怖いような気持ちにもなる。 「あっ......、ぁあっ、あっ」  ふるふると健気に立ち上がるそこを、ぬめった舌でねっとりと絡め取られた。はしたない音を立て、思い切り舐められたり吸われたりする。頭の中が灼き切れそうだ。  とんでもない快感に全身の感覚を持っていかれて、あられもない声を上げてしまいそう。必死に手の甲で口を塞ぐ。  おいしいよ、シオ。  囁かれる声は余裕がなくて、不自然に抑えたような抑揚だ。  酷く荒れた呼吸の音や、やけどしそうな体熱と、獰猛な雄の獣の気配を感じる。  不意に、後ろの秘めた場所に、がさついた大きな指先が触れてきて、 「ぁっ」  俺はビクンと腰を揺らした。よく分からないけれど、そこはすごく敏感だった。 「んっ」  そんな俺にかまうことなく、指の腹はぬるぬると、ひそやかな穴を円を描くようにして撫ではじめた。 「やっ、それ、あぁっ、んんっ」  駄目だ。腰がヒクヒク揺れる。そんなところ、撫でるような場所じゃないのに。優しく撫で続けられると、なんだかすごくヘンになる。気持ちがイイんだ、腰が揺れる。止まらない。どんどん登り詰めてしまう。とても我慢なんてできない。 「......ッ」  とうとう耐え切れなくなって、シーツを握ったままのけ反った。盛大に吐精してしまって、それでもヒクヒクが治まらない。 「......気持ちいい?」  低い声で、今度はラグレイドが聞いてくる。 「んんっ、気持ちいっ、んっ、んっ」  イッたあとなのに、ソコを撫でられているといつまでも絶頂感が凄かった。苦しくて切なくて堪らない。気持ちがよくて、よすぎてなんだか辛くなる。もう手を止めて欲しいような、もっといっぱい欲しいような。よく分からなくて助けがほしくて。 「ラグ、はぁ、あぁ」  息絶え絶えのぼやける視線で、獣人のことをじっと見つめたら、 「ッ」  いきなり熱い飛沫が飛んできた。俺の頬や口元や、喉元や胸にもいっぱい、飛沫は容赦なく飛び散ってきて、なかなか止まらない。 「すまない」  ラグレイドが乱れた呼吸で焦ったように謝ってくる。焦るけれど止められないみたいだった。  俺はゆるゆると首を振って、獣人の長い射精と、精液に白くまみれてゆく己の裸の体を見ていた。  秘部を撫でられるのは止んでいた。  けれど強い余韻はしばらく残って、獣人が精を吐ききるまでの時間、俺はぼんやりとただ動けないままでいた。  

ともだちにシェアしよう!